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井上友希選手インタビュー

空間を切り裂くような鋭いリリースと同時に、一直線に飛び出す紫色の弓。操るのは今年競技歴5年目の井上友希選手だ。彼女が大学でひょんなことから入部したのは、強豪チームでもない平凡なごく普通のアーチェリー部。しかしながら井上選手はメキメキと頭角を現し、たった数年でオリンピック代表候補すら打ち負かすほどに成長した。彼女のアーチェリー人生はいかにして始まり、そして2度目の全日本ターゲット選手権出場を前にした今、何を思うのか。突如現れた期待の新星の素顔に迫る。


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突然動き出した時計の針

はじめに、アーチェリーを始めたきっかけを教えてください

井上選手(以下同):大学に入学したころ、同じ授業を取っていた友達が高校からアーチェリーをやっている子で、「私アーチェリー部に入るんだー」って話してたんです。そのとき初めて、自分が入学した玉川大学にアーチェリー部があることを知りました

アーチェリーにはもともと興味があったのでしょうか?

中学生のころにロンドンオリンピックがあって、テレビで古川(高晴)さんや蟹江(美貴)さん、早川(漣)さん、川中(香緒里)さんたちがメダルを取ったというニュースを「かっこいいな」って見ていた記憶が今でも残ってるんです。それからずっと、アーチェリーへの漠然とした憧れのようなものが頭の片隅にあって、大学でその子がアーチェリー部入るって聞いたときに「これだ」って思いました。その友達に一緒についていってそのまま入部しました。だから、サマーシュート(弊社ほか有志による全国大会)で蟹江さん(現在はご結婚され小林姓)と一緒のチームで戦えたときはすごく感動しました。蟹江さんたちがきっかけでアーチェリーを始めたことをご本人に伝えて、今回(サマーシュートでチームを組んだ)のも「一生の思い出にします!」って。嬉しかったですね。

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大きな大会に出場できるようになったのは3年生の春

アーチェリーは大学からなんですね

そうです。入部した玉川大学のアーチェリー部は7割の人が大学から。高校以前に競技を始めた経験者は全体の3割くらいで、私の代では2人でした。先輩に10年くらい競技を続けている方がいたのと、OBの方がコーチとして月に1度程度来てくださっていたので、その方たちだったり、部内のいろんな先輩たちに教えていただいてました。

そこから全日本選手権に出場するまでに成長するのはすごいですね。道のりは順調でしたか?

入部して1年くらいは(同期の未経験者の)みんなと同じくらいだったんです。あたりはじめたのは2年生の春ですね。ショートハーフ(50mと30mを計36射ずつうち、720点満点中の合計点で競う試合形式)で600点を射てるようになってきて、リーグ戦のチームにも選ばれるようになりました。大きな大会に出場できるようになったのは3年生の春の東日本大会(春の大学リーグで上位の点数を記録した選手が出場する)が最初です。そこからインカレ、全日本と出るようになったんですが、当時は70mが全然あたらなくて………。

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70mラウンド(70m離れた的に72本の矢を射ち、720満点中の合計点で勝敗を決する試合形式)が苦手なんですか?

というよりも、うちの部の練習メニューが(リーグ戦を意識しているから)ショートハーフ中心で70mの練習をすることが少なくて。毎年王座に出られるような強豪校ではありませんし、個人で全国大会に出る選手も多くはありませんから。そういう(70mの)大会に出るようになってから自分で練習するようになりました。インカレに出るようになったのが3年生の夏で、その年のインカレはアウトドア・インドア・フィールド全部出ました。全日本ターゲットは4年生から。今、社会人1年目なので今回が2回目の出場です。




あのときはもう何をしてもダメでした

それはすごい。つまずきや挫折はありませんでしたか?

2年生のリーグ戦で650点を射つ2週間くらい前に、突然まったくあたらなくなったことがあります。自分でも何がダメなのか分からないような状態で、一気に540点まで落ちました。あのときは流石に焦りました。

それでも2週間後には650点。不調の原因が判明したということでしょうか

たぶんメンタル面の問題です。初めて後輩ができて、その前で射つ最初の試合だったので変に気負ってしまったんだと思います。そのあとあたるようになって、そのプレッシャーは乗り越えられたと思います。

全国大会常連の強豪校と比べると、同じレベルで競える選手がなかなかいなかったり、コーチが常駐していなかったりと不利な環境だと思いますが、そのなかで井上さんは着実に技術を磨かれています。どのような練習をされていますか?

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先輩たちは自分のフォームを動画に撮ってチェックしたりしてましたけど、私は試合前やフォームに違和感があるときたまに見直すくらいで、ほとんどやりませんでした。その代わり私がやっていたのは、「1日の練習で必ず1回は点取りをする」こと。試合で点取りをするんですから、練習でもできる限り同じ条件で射ちます。フォームに関しては、先輩やコーチにたまに見てもらうことはありましたが、基本的には感覚重視です。

社会人になってからは土日に練習して平日は筋トレでって感じですけど、仕事で疲れてしまって、土曜日は身体を休める日にすることもありますね。そのぶん日曜日は結構がっつり練習します。射型を崩さないように、(平日などは)自重トレーニングや腹筋・背筋をしています。

週1しか練習できてない人のフォームには全然見えないです。キレがあってまっすぐにラインが通った素晴らしいフォームだと思います

ほんとですか! 嬉しいです。

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小さな自信を、ひとつずつ

こうしてお聞きしていると、上達の早さに加えてそのときの実力を試合で発揮するのが非常にお上手なのかな、という印象を受けます。試合に臨むにあたって意識していることや、決めているルーティンなどはありますか?

試合の前日は絶対射たない。これは学生のころからずっと決めてます。

射ちたくはならない?

なります。なるんですけど、そこをぐっとこらえて、我慢します。試合の前に余計なイメージ、特にあたらないイメージを(自分のなかに)入れたくないんです。前々日くらいにあたるイメージをもって終わらせておきたい。前に一度、前日に射ちすぎて疲れてしまって試合当日に全然あたらなくなったときがあって。遠征とかだと朝早かったりするじゃないですか。前日授業後に練習してて寝るのが遅くなるくらいだったら、早めに帰ってしっかり身体を休めるほうが良いかなって思います。

それから、これはルーティンとはちょっと違うかもしれないんですけど、気合を入れたい試合の前は靴を新しくします。もちろん1か月くらい前に変えて練習で使ってみるのはするんですけど。

靴を買い替えるのはどうして?

試合中案外、足元って結構見るじゃないですか。スタンスの確認したり。そのときお気に入りの新しい靴が目に入ると気分が明るくなりますよね。あとは、メイクをちょっと気合入れてみたり。小さいことですけど、前向きな気持ちになって自分に自信がもてるようなことを大事にしてます

オフはしっかり作るタイプですか?

そうですね。メリハリを大事にしてます。オフの日はショッピングや映画に出かけることが多いですね。最近はなかなか行けてませんけど……。子どものころにハリー・ポッターにはまって、その流れで洋画を中心によく観るようになりました。ほんと観たい映画はたくさんあるんですけど、行けないでいるうちに終わっちゃいそう(笑)

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移り変わる生活のなかで、続けるということ

社会人になってみて、競技を続けることの難しさは感じますか?

学生のころよりも筋力トレーニングはしっかりやるようになりました。以前は部全体の練習もありますし、授業の合間にも射てましたが、働いている今は週末しか練習できません。日常的に弓を引いてるときと同じように筋力・体力を維持するのはやっぱり難しいです。上達を目指すというよりは、今は少ない練習量で身体や点数を維持する方法を模索している段階です。

練習量を確保できなくなることで、すっぱりとアーチェリーを辞めてしまう選手や、自信を失って離れてしまう選手もたくさんいます。大学卒業後も井上さんが前向きにアーチェリーに取り組めるのはなぜですか?

もう10年くらい前に卒業された先輩なんですけど、その方が今でも試合に積極的に出場されてるんです。その先輩も週に1回しか練習できてないんですけど、きれいな射型を維持されてて。それを見て、社会人になってもアーチェリーを続けていけるんだ、自分も続けていこう、と思えました

日本を代表するトップ選手で大学卒業後実業団に所属するような場合を除いて、働きながら個人で競技を続けて全日本選手権まで出場できる選手はそう多くありません。今、井上さんを取り巻く環境はいかがですか?

会社に日本体育大学でサッカーをしてらした方がいるんですが、その方のおかげもあってスポーツに対する職場の理解があるので、会社の協力はかなり得やすい環境だと思います。今回のような大会出場のためのお休みもそうですし、(今着ている)ユニフォームも出資してもらいました。すごく恵まれていると思いますし、ナショナルチームメンバーだとか、実業団じゃない私のような選手が続けていくことで、うちの会社のような企業がどんどん広まっていってほしいですし、たくさんの選手がもっと気軽に競技を続けていけたらいいなと思います。

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Dynastyのプロダクトについて

今日もDynastyのプロダクトをたくさん使っていただいてますね! 井上さんのお気に入りのポイントはありますか?

LOBOグリップはたくさんの色のなかから選べるのが良いです。普通は白や黒、あとは木目のグリップしかないですけど、LOBOはカラフルでかわいい。紫のグリップってほかにないし。おいしそうですよね

さつまいもみたいな?

ねるねるねるねみたいな。

だいぶケミカルな方面だった

最初に思ったのがそれで(笑) S Noir Weightもきれいだし、ENIGMAスタビライザーは振動の伝わり方が好みです。前に使ってた(EASTON社の)Contourスタビライザーは振動の収まり方がしゅっとして身体に優しい感じでした。全体で振動を吸収するというか。それと比べてENIGMAは軽いだけじゃなくて、キレの良さがあります。弓が飛び出していく方向がすごくわかりやすいし、射ってて気持ちが良いです

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大会に向けて

今回の全日本ターゲット選手権の目標は?

予選通れたらいいな。去年は通ったんですが、トーナメント1回戦でストレート負けで。トーナメントは経験があんまりないのでどうしても苦手意識があります。上のほうの(成績の)人って高校からやっててトーナメントも慣れてる方が多いじゃないですか? 大学はじめだとインカレか全日本くらいしか(トーナメント形式の試合が)なくて。関東だと個選(地区別の個人戦。インカレ出場を懸けた選考会を兼ねることが多い)でもトーナメントないですし。全国大会で慣れるしかないんです。あとは、関西とかでチーム作って出れる試合にエントリーするとか、そのくらい。やっぱり経験不足は感じますね。だからまずはトーナメントに出て、勝ちたいです。

ありがとうございました。これからも応援させてください

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