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ハッピーラッキーデイ 2020

健太です。
先週のことになるけれど、5月11日に『ハッピーラッキーデイ 2020 Remaster』を配信リリース&サブスクリプション解禁をしました。
みんな聴いてくれたかな。

この配信リリースとサブスク解禁は、僕らのおじいちゃん、C.W.ニコルさん追悼の意を込めたものです。

もっと早くできればよかったのかもしれないけど、ニコルズっていつも、どうしてもスピーディーに動けない。衝動や勢いで動くことに躊躇い、割とじっくり考えてしまう。今回も意思決定からその実現まで1ヶ月もかかってしまった。
でも僕は、それで良かったと思っている。ニックさんのことを忘れないで欲しいから。訃報がニュースになって、きっと誰の訃報でもそうだけど、その時はみんなワーワー言って悼むんだけど、少し経ったらみんな忘れてしまう。それを悪いと言っているわけではないんだけど、ただ、やっぱりそれでは悲しくて。1ヶ月経って、またじっくりとニックさんのことを偲ぶことができていいのかもしれないと思ってもいる。

ニックさんにもう会えないなんて、今でもまだ信じられない。

僕らの世代では、ニックさんのことを知っている人は少ないかもしれない。きっと僕らより少し上の世代の方がCMなどでもたくさん目にしてきたと思う。でも、ニックさんの活動や考えまで、ちゃんと知っている人はきっと少ない。
多くの人がなんとなく持っているイメージはきっと、漠然とした「自然愛好家」なんだと思う。とにかく自然を大切にというイメージ。木を切るな、とか笑。でもそれは実際とはだいぶ違っていて、ニックさんが提唱していたのは、あくまでも「自然と人間の共生」であって、単なる自然愛護の精神ではない。ニックさんはいわゆる「里山文化」をとても大切にしてきた人だ。(ニックさんについては、本もたくさん出しているし、知る方法はたくさんあるので、興味のある人は是非知って欲しいと思います)。

僕はニックさんに会って、アファンの森を訪れて、ニックさんやアファンの森財団の皆さんからいろんな話を聞いて、その理念に大きく感銘を受けた。
山、川、田んぼで育った僕の心の原風景、美しい記憶というのは、その里山文化がもたらしてくれたものだと知った。厳密に言えば、里山文化の「名残り」だ。実際、僕の幼少期にはほとんど里山文化と呼べるものは残っていなかったのだと思う。でも僕の父はまさにその里山文化の中で育った世代で、父がたくさん聞かせてくれた野山の話は、それこそが里山の話だったのだと思う。父からそういう様々な自然の仕組みや、植物、生き物のことを聞きながら、山や川や田んぼで遊んで育った僕は、あたかも自分が里山文化の中で育ったように感じていたのだった。
だから僕は、ニックさんの話は目から鱗だったし、その考え方にとても共感するとともに、ニックさんを心から尊敬している。

ニックさんはずっと会う度に「アファンの森へおいで。森で音楽を作ったらきっと素晴らしいものができるよ」と言ってくれていた。そしてやっとそれが実現し、初めてアファンの森を訪れたのが2015年。森を歩き、色んな話を聞いた。地球の話、森の話、海の話、動物の話、人間の話。震災で心に傷を負った子供達が、森で笑顔を取り戻した話も。そしてまたたくさん一緒にお酒を飲んだ。ニックさんはいつもユーモアに溢れていて、たくさん笑わせてくれる。

そしてだいちゃんが書いたのが「ハッピーラッキーデイ」という曲だ。聞いた瞬間に、アファンの森の情景が浮かんだ。あとはそれをアレンジにまとめるだけだった。とてもスピーディーにできた。
この「ハッピーラッキーデイ」は、僕が初めてバンジョーを使った曲だ。バンジョーは、ずっとやってみたかったという思いを実践すべく、ちょうどその少し前に買っていた。しかし買って触ってはみたものの、難しくてなかなか進めずにいた。そこに「ハッピーラッキーデイ」ができて、この曲こそバンジョーだと思った。そして再びアファンの森へ行ってレコーディングするまでの1ヶ月くらいの間に猛練習して、レコーディングになんとか間に合わせたのだった。
僕はこの曲のおかげでバンジョーが少し弾けるようになったとも言える。バンジョーは僕にとって、そしてニコルズにとって今やとても大きな存在になっているけれど、それもこの曲があったからだなとつくづく思う。

レコーディングはアファンの森で、『スマイル』からずっと一緒に制作しているエンジニアの古賀くんとフィールドレコーディングを行った。とても天気が良くて風の気持ちの良い日だった。「アファン」とはケルトの言葉で「風の通るところ」という意味だとニックさんが言っていた。この日はまさにアファンの森でのレコーディングに相応しい日で、森のざわめき、鳥の声や虫の声も一緒に録音された。本当にこれ以上ないくらい気持ちよくて、そんな環境で音楽を作れる喜びを全身で感じた。僕らの演奏も歌も自然と弾んだ。でもただ明るく楽しいだけじゃなくて、何か大きなものが宿り、凛とした前向きなサウンドになった。本当に本当に素晴らしい、忘れられないレコーディングだった。

そしてこのシングル『ハッピーラッキーデイ』収録の、アファンの森でレコーディングした全3曲は、全て生楽器のみで演奏している。電気を使った音は森が嫌がるというニックさんの意を汲んでのチャレンジだったけれど、この経験はその後のニコルズのアコースティックサウンドの礎になった。

ニックさんを追悼しての配信リリース&サブスク解禁に際して、古賀くんが意に賛同してしてくれて、ミックスとマスタリングをやり直した。よくリマスターでのリリースというのはあるけれど、ただの過去の作品の再リリースにしたくないという思いもあり、ミックスからやり直した。日々研鑽を積んでレベルアップした古賀くんとともに、楽曲の方向性をより明確にし、より躍動感と雰囲気溢れるサウンドに仕上げることができた。

またオフィシャルで発表している通り、この配信の収益の一部を
C.W.ニコル メモリアル自然再生基金
に寄付させていただく。D.W.ニコルズはその「呼びかけ人」の一人となっている。
(一部ニュースサイトで、あたかも我々ニコルズが開設したかのような書き方をされてしまったが、そうではないのでご注意いただきたい。ろくに調べもせずに書いたことが見え見えで、甚だ遺憾だ。)

この基金はアファンの森財団によって開設されたもの。
アファンの森財団の活動についても知るきっかけになったら嬉しい。

C.W.ニコル・アファンの森財団
https://afan.or.jp/

C.W.ニコル メモリアル自然再生基金
https://afan.or.jp/cwnicol-memorial-fund/


いつもニックさんはハグしてくれた。
大きくて、あたたかくて、懐の深い胸にもうハグしてもらえないんだな。
とてもとても寂しい。
想いが溢れすぎてなかなか文章にできないけれど、
『ハッピーラッキーデイ 2020Remaster』のリリースに寄せて。

健太


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