セルフレコーディング

健太です。
『CRAFT WORKS』リリースからそろそろ一週間。
きっとみんな聴いてくれたよね。
たくさんの嬉しい感想も届いています。ありがとう。
もっともっと、感想お待ちしてます。

『CRAFT WORKS』はセルフレコーディングで制作した作品。
事あるごとにそう言ってきているけど、「セルフレコーディング」とは?
という話。

音楽活動の中で最も重要なものの一つ、レコーディング。

これは基本的にはレコーディングの専門家であるレコーディング・エンジニアにお願いし、レコーディング・スタジオで行うもの。
レコーディングには本来、様々な専門的知識と技術が必要で、それを専門に勉強してきた人がレコーディング・エンジニア。レコーディングの為の機材の使い方はもちろん、マイクの立て方をはじめレコーディングについてのノウハウを熟知している。
レコーディング・スタジオは、練習を行うリハーサル・スタジオとは別で、レコーディングを行うために設計され調整されたスタジオ。

そしてレコーディングされたものを、そのままレコーディング・エンジニア、もしくは別のミックス・エンジニアが、ミックスを行う。
ミックスとは、これもかいつまんで説明すると、録音した個々の音を調整し、全体のバランスをとりながら混ぜていく作業。
歌は真ん中、ギターはちょと右から、コーラスは...などとそれぞれの音を配置して、ギターがギラギラしていると感じたら高音域を抑えたり、声がモコモコしていると感じたらその部分を削ってスッキリさせたり(イコライジング)。響かせたい音にリバーブやディレイなどをかけたり(エフェクト)。これもミックスの中の作業。
そして全体を聴いてベースが聴こえにくいと思ったら音量を上げたり、イコライジングで調整したり。歌が聴こえにくいなと思ったら、ギターの音量を下げたり、エフェクトをかけたり、配置を調整したり。とか。

それを繰り返して出来上がったものが、よく「ファイナル・ミックス」と呼ぶもので、ミックスまでが仕上がったもの。何度も確認と修正を繰り返し時間をかけて出来上がる。

そして最後に、マスタリングという作業があって、これがまた説明が難しいんだけど、全体的なイコライジングを行ったり、全体的な音量・音圧を調整したりする。一日で仕上げる。
因みにこれにはマスタリング・エンジニアというマスタリングの専門家がいて、マスタリング・スタジオというマスタリングのためのスタジオがある。
それでやっと「マスター」が完成する。このマスターをコピーしてCDができるというわけだ。

ニコルズは『スマイル』以降、ほとんどの作品を、古賀くん(古賀健一)というエンジニアと作っている。レコーディングとミックス。耳もセンスも良く、音楽的な知識もあり、信じられないくらい勉強熱心で柔軟な発想を持っている、まだ30代の素晴らしいエンジニア。僕は彼からも日々たくさんの刺激をもらっている。
ときどきお願いしているのが、クロスロード・スタジオの井上さん(井上勇司)。ボビーさんがいた頃からの長い付き合いで、ニコルズのことをよーく知ってくれていて理解も深い、なんだか家族のような人。ニコルズの初めてのレコーディング・スタジオでのレコーディングも井上さんだ。

レコーディング、ミックス、マスタリング。
作品ができるまでをざっと説明してみたけれど。

『CRAFT WORKS』では、この「レコーディング(REC)」と「ミックス(MIX)」を僕がやったというわけだ。

できることを自分たちで、というのは以前からニコルズが掲げているモットーの一つで、そのDIYによる良さってのはとてもニコルズにマッチするものだと日々感じているんだけど、それを作品に詰め込んでみよう、というのがこの『CRAFT WORKS』一連のプロジェクト。
もちろんコロナによる自粛の影響も大きくて、だからこそ今、自分たちで作品を作ってみよう、今こそDIYの作品を、という想いでスタートした。

普段からデモ音源や、ちょっとしたジングルの制作なんかは僕がやっているから、できなくはないだろうと。ただどこまでのクオリティの作品にできるか、というのは正直言って完成するまでわからなかった。

今回はデモ音源なんかではなく、れっきとしたニコルズの『作品』であるというプレッシャーはなかなかのものだった。改めてネットで色々調べたり、友人のエンジニアに話を聞いたりして、前準備にはなかなかの時間を費やした。今までのデモ制作などでの自分のやり方と照らし合わせたりして研究した。
しかし、知れば知るほど果てしない。それは当たり前な話で、一朝一夕でできてしまうなら専門家なんて要らないわけだから。それなのに、なんとかプロのエンジニアに追いつこうとしている、とんでもなく愚かな自分がいた。追いつけるどころか尻尾すら掴めるわけがないのに。それこそナメんなよって話だ。
じゃあどうするか。
考え方を変えて、自分ならではのREC&MIXをしようと思った。

MIXにしたってノウハウも技術も無いのだから、録った音をなるべくそのまま使うことを前提でRECした。マイクの立て方や楽器との距離を色々試しながら、自分の演奏に関しては弾き方と録り音も確認しながら、こう聴こえいているはず、こう聴こえて欲しいというイメージを頼りに、アレンジの延長線上のような感じでRECしていった。
そしてMIXではとにかく自分の耳と、これまで培ってきたはずの音楽的センスを頼りに、今までMIXはエンジニアと共に貪欲に取り組んできたことで得た知識をつぎ込んで進めていった。これまでMIXを立ち会い修正する際、僕の要望に対して、エンジニアがどういうことをやって、どう修正されるのかというのを、いつも興味津々に見てきたのが生きた。
オーディオ的に整った音やバランスなんて、そもそもプロの仕事に遠く及ぶはずもないのだから、そこではなく、セオリーは無視してもいいから自分のイメージや雰囲気を何よりも大事に。それこそが自分らしいMIXだと考えた。
しかしそれにしても難しかった。いちいち向かいたい方向を阻む問題が生まれ、それを解決するのに試行錯誤。ああでもない、こうでもない、と色々試し、うまくいったと思っても休憩してまた聴くと全然ダメだったり。それでも少しずつ学習しながらだんだん効率が上がっていって、なんとか形にすることができた。

このMIX、実を言うと期日を伸ばした。つまりリリースを遅らせたということだ。これもONLINE SHOPとAmazon限定リリースだから許された(本当は許されるわけではない)ことだけど、どうしてもなかなか納得がいかなくて、納得のいくまでやらせてもらった。
当初の予定に間に合わず悔しかった。もっと早くみんなの元に届けたかったし、届けられるつもりだったから。でも、本当に申し訳ないけど、周りにいくら迷惑をかけても、納得のいかないまま作品になってしまう方が僕は悔しい...。それでわがままを言ってしまった。まあ言い訳を言えば、本当にやってみないことにはどれくらい時間がかかるかわからなかったのだ。その読みが甘かった、というか、やっぱりナメてたんだな。

でもそんなわけで、僕は僕なりの納得のいくREC&MIXができた。
マスタリングは古賀くんにお願いした(古賀くんはマスタリングもやっている)。マスタリングで最終的に調整、仕上げてもらい、『CRAFT WORKS』は完成した。

ちょっと異常なほどまでに毎日毎日向き合って取り組んでいたから、完成してしばらくは、改めて聴いてもなんだか全くわからなかった。いつもの作品みたいに「やった完成した!」と喜びにあふれて毎日聴いてしまう、というようなことにはならなかった。聴く度にこれで良かったのだろうかと考えてしまうから、しばらく聴かなかった。

そして、リリース日に聴いた。
涙がこぼれた。もう本当に最近は涙もろくて恥ずかしいんだけど。
ああ、いい曲だなって、涙が出たんだよね。
RECもMIXもどうでもよくて、なんなら演奏もどうでも良くて、ただただ、いい曲だなって、心に沁みた。

だから成功だったと思う。
演奏も、REC&MIXも、そのためのもの。
ああいい曲だって思えたら、それでいい。

『CRAFT WORKS』
とてもニコルズらしい、いい作品ができたと思う。

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