産業集積論/地域イノベーションシステム論における学習地域、ローカル・ミリュー、集合的学習過程

'90頃から、経済地理学とかそのあたりで、いわゆる「産業集積がどう」という話から、「知識とイノベーション」の話へと議論が変化。そのあたりで生まれてきたのが地域イノベーションシステム論。名詞群が魅力的なのでざっと論文をチェックして流れや語などをまとめました。

主なワードと論者

主な言葉や論者として

Learning Region 学習地域:Richard Florida 1995, Asheim 1996, Kevin Morgan 1997
collective learning process 集合的学習過程:KeebleおよびTSER network
local milieu 地域環境:Camagni, 1991

これらのさらに基盤となった議論として、Piore & Sabel 1984を元手に、Lundvall, Storperなどが挙げられている。かな?

当時の日本語でのまとめとしては、以下がわかりやすかった。

・友澤和夫. 2000. 生産システムから学習システムへ:1990年代の欧米における工業地理学の研究動向. 経済地理学年報 第46巻第4号. 1-14.
・松原宏. 2007. 知識の空間的流動と地域的イノベーションシステム. 東京大学人文地理学研究 = Komaba studies in human geography (18), 22-43.

*松原さん、大学生時代に習ってた先生。こういうところで参考にできるのすごく嬉しいな〜

*僕の読者にはおそらく"地域"に関連する活動をされている人も多いかなと思うので念の為注意書きを。この議論は地理学とイノベーション論の重複ポイントでの議論であることから、"地域"というのはここでは「産業地域 Indsutrial Region」とほぼ同義である(福祉とか地域住民の話は出てこない)。

以下、主に友澤2000より。

大まかな経緯、バックグラウンド

>産業集積論

まず大本の議論として、地域に産業が集積するのはなんでだろう〜みたいな議論がある。いわゆる「東京に本社を置くのは、情報が集まりやすいから」みたいな話がよくあると思いますが、アレ。
・'80後半 企業がある地域に集積するのはなんでだろう?→取引コストを小さくするためだ、的な話が前景化していた。ざっくり言うと「近い方がモノ持っていくコスト安くね」的な。
・'90半ば 知識、イノベーション、学習=市場にのらない要素に着目が広がる。複雑系complex systemsの視座を含む。

結構ここの「Marketにのらない、取引されない」部分に着目しはじめた、というのは経済地理学においてかなり大きな転換点だったのではないかと感じる。

>知識経済化 knowledge-based economy

こうした産業集積論が知識やイノベーションに焦点をうつしてきた背景として知識経済化がある。
→ヒト・コト・モノ・情報に加えて、「知識」が大事だっていう議論が出てきた。情報(フロー)と知識(ストック)は違う、とされている(詳細は省略)。

知識には二種類ある。

形式知(codified knowledge):言葉になっている。動かしやすい。例えば、こういう組織構造にするとうまくいくんじゃない?みたいな議論とか。
暗黙知(tacit knowledge):文脈依存的。職人の技術とか。上記の組織構造の話でいうと、実際に組織構造を変えたときにどんな抵抗があって、どう対処していったか、そのときにどんな風に具体的なコミュニケーションをとったか…みたいなことって結局言語化できない。やってみないとわかんない。個々人に(=地域に!)くっついている=粘着性 sticky がある。

>(地域)イノベーションの流れ

上記で述べた暗黙知と形式知は、ぐるぐるめぐってイノベーションを起こす。その知識がイノベーションを興すモデルとして、「知識創造企業」の野中さんのサイクルが世界的に引用されている。

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図は松原 2007より。それぞれの流れは以下の通り。

① 個々の暗黙知が共有される socialization 共同化
② 共有された暗黙知がコンセプトとして形式知化する externalization 表出化
 →暗黙知が形式知化する重要な段階
③ コンセプトがプロトタイプ化 連結化 combination
④ 形式知が暗黙知化する 内面化 internalization

こういう"地域とイノベーション"の文脈=工業地理学(産業集積論)のなかで、知識とイノベーションが重要だよねという話のなかから3つのワードが出てきた。それがローカルミリュー、学習地域、集合的学習過程で、それを紹介したのが友澤 2000。

① ローカルミリュー local milieu

響きがかっこいい。milieuはenvironmentのフランス語、くらいの理解でよくて、要するに「地域環境 / 身近な環境」ってこと。Camagni 'innovation networks'が提唱した。ローカル環境の実際の現場ってもっと複雑で生々しいよね、っていう感覚を図式化したもの、という印象。

Camagniが考えるところによると、企業には、困った5つの不確実性がある。

1. information gap 情報が足りない
2. assessment gap 部品や技術の特性がよくわかってない
3. competence gap 情報を加工・理解する自分たちの能力の限界
4. decision gap 結果は正確に予知できないから決定は難しい
5. control gap 他のアクターの振る舞いにも影響を受けるから難しい

それらの不確実性は、企業としてはなるべくなくしていきたい。具体的には以下のような対応が必要なのではないか。

1. information gap→探査 SEARCH
2. assessment gap→スクリーニング SCREENING、シグナリング SIGNALING
3. competence gap→翻訳 TRANSCODING
4. decision gap→選択 SELECTION
5. control gap→コントロール CONTROL

こういう対処をする場所として、地域の環境=local milieuというものがうまく機能しているんだよ、とCamagniは提唱した。

つまり、こういう対処をするときって、情報はネットにも本にも意外となくて、結構ローカルな人々同士の会話などから情報が得られたりするよね、的な話。

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具体的に想像してみるとめっちゃよくわかって、例えばの話でいうと、補助金の話とかってだらっと日々を暮らしてると、めっちゃいい話があっても知ることは難しかったりする。でもなんか近くの社長勢と飲みに行ったりすると「最近使ったあの補助金めっちゃ便利だったよ」「え、なにそれくわしく」みたいな感じで情報を得ることができる。的な話。local milieuはこういう機能を果たすという意味で、イノベーションに寄与するんだよ、という話だと理解した(補助金の話とかは形式知っぽいけど、例えば「あそこの商工会議所のナントカさんに言うとめっちゃよくしてくれる」とかはすごく空間にくっついた sticky 情報)。

一方、local milieuは当然限界もある。例えば、情報がローカルだからこそ市場全体の大きな変化(e.g. リーマンショックをイメージ)に対してはローカルナレッジでは対応できない。だからこそ、milieu内の企業は外部ともネットワークをつくろうとする(というか、成功するには外部ともネットワークを構築することが重要)。このあたりの指摘も逆に割と重要で、local milieuの重要性を発見したっていうのは、同時に外部とのつながりの重要性にも同時に気づいた、ってことなんだよね。ローカルとグローバルそれぞれの関係性が重要だよね的な。

こういう視野角はネットワーク理論の側からも当然研究は進んでいて、先日見た東京大学のオープン講座のやつもかなりおもしろかったので参考までに。

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坂田によると、ネットワークのノードには「ハブ」と「コネクタ」という二種類の特徴的な機能があるじゃないかという話。

・ハブ=近くの・多くの要素と繋がっている人。陽キャ仲間的な。
・コネクタ=遠くも含めた「多様な」要素と繋がっている人。学級委員長。

この"両方"を演じられる企業がイノベーティブであるためには重要なのではないかという議論をされている。関東ネットワーク内の「東成エレクトロビーム」の立ち位置の話とかおもしろかったのでぜひ。

ちなみにこのあたりの話は、local buzzとglobal pipelineだとか、いろんなワードで説明されている。

② 学習地域論 Learning Region

Learning Regionについては、フロリダ 1995を皮切りに、エイシェイム 1996、Morgan 1997などが相次いで論文を出した。National Innovation Systemの概念を地域レベルにしたらどうなるだろう?というのを論じたみたいな話。

地域環境は「知識やアイディアの貯蔵庫として機能し、それらのフローを促進する環境やインフラを提供する」(Florida, 1995, p. 537)として、地域を「学習地域」として見るような考え方。

地域企業の地域での学習に向けた振る舞いへの分析もあるけど、自治体や大学の役割の重要性について論じたものも多い。フロリダも、大学がある地域ではイノベーションが多いみたいな議論をしているとのこと。(友澤論文ではこれくらいの扱い。記事後半にFloridaおよびMorganを実際に読んで簡単に抽出してあります。)

③ 集団的学習過程論 Collective Learning Process

ケンブリッジ大学KeebleおよびそのチームTSERネットワークが発展させたもの。企業同士で、共有する知識基盤をつくって発展させる過程を分析。

知識がめぐる要素には3つがあると指摘。

1)高度に熟練したワーカーからの要素
2)既存の企業や大学などからのスピンオフ的な要素
3)中小企業の、ユーザーとのやりとりなども含むネットワークからの要素

こうした要素から、地域の暗黙知が共有されて集団的学習が発生し、知識基盤の創造と発展が行われるとした。

こっちのほうが割と実証的で重要かもよ〜と友澤は述べている。

地域イノベーションシステム Regional Innovation System

たぶんこのあたりの要素を全体的に包括して地域イノベーションシステム論と言っているのだと思うが、'90頃よりNational Innovation Systemがブレイクダウンし、新産業地域論と組み合わさって地域的イノベーションシステム論が出てきたと松原2007の指摘。松原 2007では、フィンランド・タンペレの事例を取り上げて少し紹介している。

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こうした提唱はEUでの Regional Innovation System(RIS)への発展や、カナダでのinnovation system research networkへ発展したとのこと。

Cookeら1998(2004年に第二班)がRegional Innovation Systemという本を書いてて、14地域の地域的イノベーションの実態を紹介しているそうだ。

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ここまでざっくり友澤2000論文と松原2007論文をもとに全体を整理してみた。以下、個別論文をななめ読みしたもの。

Morgan 1997 の議論(Learnig Region)

Morgan, K. 1997. The Learning Region: Institutions, Innovation and Regional Renewal. Regional Studies, Vol. 31.5, pp. 491-503.

>概要

EUにはネットワーキング文化=相互協力する気質が全然ない。しかしネットワーキング文化の促進はめっちゃ重要で、それは地域レベルでこそ促進できるし、これは単なる社会福祉政策じゃなくてイノベーション政策としても捉えることができるんだよ。という論文。(本当にそう言っている)

>学習経済の提起について

Lundvall 1994は、企業の発展(≒イノベーション)のためには、知識が最も戦略的な資源であり、学習が最も重要なプロセスだ、ということを指摘した。野中の「知識創造企業」にも触れている。

>学習地域

Storper 1995で、学習経済の構造において、地域は極めて重要な役割を果たしていると指摘。暗黙知はそもそも集団的なもので、人間的・社会的な文脈に結びついているよね、的な。

* これは反グローバル議論だ、という考えではないことに注意。むしろ、グローバル企業がローカルに根付くことで、グローバルの情報フローがローカルに入ってきたり、あるいはグローバル側に対しても良い影響があるよ的な(Schoen Berger 1994は「支店は本社の受動的な生き物」ではないと指摘)。

>地域技術計画 RTP:Regional Technology Plans

具体的に何をしたかとかは省略。

・RTPは地域のイノベーションを促進するためのプログラム
・地域イノベーションの最重要要因は、R&Dとかがあるかどうかではなく、それらのユニットの「相互作用の度合い」である。EUの研究の結論として、成功した地域は、「コンセンサス、集団的成功、長期的目標、準法人主義的制度(3セク制度)」を重視した地域であることがわかっている(Dunford 1994)。

・地域側の受容性を高める必要がある。3つの能力が必要

「技術的能力」企業のニーズに合った特定の技術を習得する能力
「起業家的能力」関連する技術を企業戦略に統合する能力
「学習能力」変化する市場や新技術、革新的な組織構造に関する情報を吸収できるように、企業の組織や経営のルーチンを構築すること

・企業は、他の企業からまなべるんだよ、と気づくことが重要。=地域に、相互に利益をもたらす目的のために協力するネットワーキング能力があるかどうかにかかっている。
・つまりRTPの活動の目的は、Social Capital資産を構築することにある

>まとめると

学習地域の議論っていうのは、「地域におけるsocial capital社会資本や信頼の構築は、イノベーションのためにめっちゃ重要だよ」的な話。

・それっていうのは、ハード(インフラ)からソフト(社会資本)への転換だと言える。
・受動/消費から能動/生産=自分たちで行動する方向へと、イノベーションの議論を転換させる。これは、官民は二項対立関係というより、相互依存しあうことが大事だよね的な転換にも役立つ。
・RTPは「ボトムアップからの、相互作用的な集団的学習能力を構築するためのプロセス」の重要性を証明している="capacities for action"(行動のための能力)。

結構この議論は重要で、イノベーション政策を単に、がんばれ!!だとか、補助金を出すぞ!!とかってやってもダメで、社会資本に着目したところに価値がある。フロリダのクリエイティブクラスの議論でも、3つのT(talen, tolerance, technology)という議論があると思うが、要するに社会の寛容性が鍵になってくるところがある。そういう社会資本、ネットワークを作っていくぞという気質をこそ作っていかないといけないのだ、みたいなことを指摘したと言える。これはまた、地域イノベーション論を、単なる経済的な"イノベーション"という視点から、地域全体への着目にまで広げることを可能にしたともいえる。

ちなみに、「なにが学習なのか」はよくわからん。「まなぶ」というよりは、出会い、話すことによる「知識移転」みたいなことなのか。

Florida 1995 の議論(Learning Region)

Florida, R. 1995. Toward the Learning Region. Futures, Vol. 27, No. 5, pp. 527-536.

「学習地域」を提唱したフロリダ。やっぱ天才なのか。

グローバルな知識集約型資本主義の新時代において、地域は知識の創造と学習の中心地となりつつあり、実質的に「学習地域」となっている。これらの学習地域は、知識やアイデアの収集者や保管者として機能し、知識、アイデア、学習の流れを促進する基礎的な環境やインフラを提供している。
Regions are becoming focal points for knowledge creation and learning in the new age of global, knowledge-intensive capitalism, as they in effect become learning regions. These learning regions function as collectors and repositories of knowledge and ideas, and provide the underlying environment or infrastructure which facilitates the flow of knowledge, ideas and learning. 
学習する地域とは、その名が示すように、知識やアイデアの集積地として機能し、知識、アイデア、学習の流れを促進する環境やインフラを提供する地域のことである。学習する地域は、イノベーションと経済成長の重要な源であり、グローバリゼーションの手段でもある。
Learning regions, as their name implies, function as collectors and repositories of knowledge and ideas, and provide an underlying environment or infrastructure which facilitates the flow of knowledge, ideas and learning. Learning regions are increasingly important sources of innovation and economic growth, and are vehicles for globalization.

大量生産地域から学習地域への転換を提唱。論文の中身自体は提唱だけなのでちょっとずるい。

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図は松原2007より。

Learning Region論はどう変化したか?@2012年より振り返る

Rutten, R. Boekema, F. 2012. From Learning Region to Learning in a Socio-spatial Context. Regional Studies, Vol. 46.8, pp. 981–992.

*このregional studies vol.46.8自体が、特集としてLearning Regionを扱っているっぽい。「地域学習」を超えて、空間と学習の関係を明らかにすることを試みている。AsheimやMorganなどが、提唱からおよそ20年経って改めて振り返る特集になっている。→地域学習をTerritorial Innovation Model(TIM)に位置づけようとしている

とりあえずその序論としてのRutten and Boekemaを読む。

>1995年の提唱後、Learning Regionは全然発展しなかった。なぜ?

1)地域内のネットワークが地域学習の主要な手段だという、非現実的な仮定
→「地域」と「ネットワーク」を混同している。「学習ネットワークは地域内であるべきだ」という間違った信念につながってしまった

2)地域のイノベーション政策と密接に関連しているために、概念なのか政策なのかが曖昧になってしまった

→これらを踏まえて発展させたい。「地域学習」の背景となった議論(知識経済1.0)を更新し、空間と学習の関係へと変化させていく必要がある

…なんかすごくわかりにくい書き方がされているけど、要するに批判している内容は「学習っていうのは、ある特定の"境界"で区分される"地域"行われているわけではない。実際には、学習は個々の人々のネットワークによって成り立つ。だから、地理学の人たちの"地域"に執着するやり方は全然だめだ」みたいな点で批判を行っている。そのうえで、そのいくつかのネットワークのレイヤーのひとつとして「地域」に着目すべきではないか、と言っていると理解した。

これは確かに指摘するに足る議論で、変にlocal milieuみたいなワードだけがバズると、「地域内の社会資本をいっぱい増やせばいい!」と政策側が単純な動き方をしてしまうが、そこにはローカルの中でもハード的な側面や中間支援組織はやはり必要だし、既にCamagni論文で指摘されているように、「地域外でのネットワークを作っていくこと」も極めて重要。その意味で、"地域"という視座はむしろいくつかの要素のひとつとして相対化されていったほうがいいのでは的な話だと思う。

*Appaduraiが(完全に別の議論だが―Cultural Studiesかな?)いくつかの'-scape'でグローバルな文化分析を行う手法を提案している。例えば「ethnoscape」や「finanscape」などがあったと思う。そのような形で、ここで語られる社会資本/ネットワークの議論も、物理的な環境で語られるネットワークとしての「localscape」や、ソーシャルメディアでつながる「mediascape」みたいな、いくつかのスケープ(レイヤー)の重なりとして捉えることが必要なのではないか。

>知識経済1.0から2.0への発展

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たとえば…

- グローバルゼーション:国家・企業レベルだけでなく、個々人にも到達した。
- 知識:形式知vs暗黙知から、文脈依存なものだという理解へと変化した。
- まなびの過程:Formalで企業が主体で組織化される形式的なものから、informalで、個々人のインタラクションによるものへと理解が変化してきた。informalなやりとりの影響は極めて重要だという理解。
- ネットワーク:企業間から個人間へ
- 地域:1.0では、"地域"とは地域文化と社会資本を持つ、ある境界線で囲まれた区域であった。2.0では、生産・イノベーションのネットワークはグローバルでもある空間的広がりを持つもの=地域的な現象を超えてしまった。

*

なんか読んだけど全体的に主張したいことがブレてる感じで(僕の理解が甘いのだと思うが)よくわからない。

ざっくりまとめると、「空間」=ある境界線で区切った地域に着目するのではなくて、学習は個々人の関係性の中で行われるものなので、"個人間の関係性"、個々人の社会文脈中心へ、議論を転換させるべき。そのうえで、そのなかで地域はどのような役割を果たしているか?を考えていこう、みたいな話をしていそう。

*

更に最近?

Cooke 2021 まで来るともはや何言ってるのか全くわからないが、それこそ複雑系システム complex systemにおけるco-evolutionやemergence 創発みたいな議論や、進化経済学(要するに文脈依存な経済学、ヴェブレン-宇沢の制度主義的なもの、constructivismなものと理解した)との関連などが言及されている。例えばCookeもKaufmann(生物学的な。自己組織化とか)にかなり言及している。

いずれにせよ、それが掲載されている(pp.835-868)「Handbook of Regional Science」の目次を見れば、最近の動向が大体わかるかなという気がした。にしても、2300ページあるハンドブックってなんなの?どう考えても"ハンド"で持ち運ぶようなシロモノではない。

Section IV 'Regional Economic Growth'には「Endogenous Growth(内発的成長)」みたいな語が見られたり、地域における社会資本やwell-beingに関する議論がされていたり。Cookeが掲載されているのはSection V 'Innovation and Regional Economic Development'だが、そこでのMaleckiによる議論や、TripplによるInnovation Milieuの議論などもおもしろそう。

森のコメント

このある地域でイノベーションが起こるという議論が、経済的側面に収束してしまっているのがもったいない。これを政治や福祉、環境などの側面に拡張できないだろうか。みたいなことを考える。これは経済がお金的な側面に偏った議論をしがちになってしまうということでもあるし、地域論の側が、経済を軽視しがちだということでもある。でも、Morganが上記で述べたように、そもそも狙うポイントはSocial Capitalの充実であると考えれば、それは同じ議論に包括しうるように思う。

それがどのように議論しうるのか、誰にとって利益があり、どんなKPIを目指して議論すべきなのかがまったくもってわからないけれど、なんかそういう拡張的な議論ができたらいいな〜って感じた。学習地域というからには、それが包括するのは「学習する地域の"企業"」だけではないだろう。

*

また、これらが地域という特定空間へのフェティシズムを結局乗り越えられていない感じもする。例えば僕のことを考えてみると、割と"地域"に執着しつつも、そこは知識の場というよりも実践の場であって、知識自体はむしろSNSにおいてかなり都市と接続されていたり、本やラジオや論文やオンラインイベントを通じて、あるいはZOOMでの友人との会話を通じて蓄積されるものだ(ローカル内でももちろん知識の流通はある)。それをきちんとやってる人、絶対いそうだけどな。こちらはまあ、明らかにされたからどうということでは正直ないかもしれないけれど。

*

実際の自分の議論に引きつけて考えてみると…。

まさにこの議論を、そのまま「経済」だとか「イノベーション」という枠組みではない形で(ここで提起されるイノベーションの定義は全く意味不明だが、何をみんな共通了解だと思ってこの言葉を使っているのだろう?―いずれにせよ、この言葉はたぶん、そのまま地域の変化だとか、内発的発展などの同義語として使うことに、そこまで違和感はないだろう)地域に展開することは可能であるはずだ。

みたいなことを思いながら、逆に地域の発展とは、それなら、経済を抜きにしたら一体なんのだろう?みたいなことを思ったりする。なぜ僕は経済以外への敷衍を考えてしまうのだろうか?そしてそうであるならば、その経済以外を(も)巻き込んだイノベーションとは、一体どのようであるだろうか?おそらく神山町や西粟倉村で起きているようなことは、こうした議論と紐付けて見つめてみるとまた見えてくるものがあるのかもしれない(もしかしたらそれこそ内発的発展の現代版を考えている佐野淳也2021とかでも議論されているのかもしれない)。イノベーションが地域"経済"に留まらず、福祉や教育、内部の人々の寛容性(これがどう表出し評価されるのかはわからないが)みたいなものと関連しながら、それが相互作用していくような、学習と空間の連関。地域全体のアクター間が学習しあう(当然、ここでは地域を超えたネットワーク関係も含めて…)ような状況

残念ながらそこを学問的レベルで掘り込む力と意図は僕にはないが、少なくとも実践的な意味でそれを頭に描いておくことは、すごく意味があることだと思う。







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