フィンランドの都市とその成立発展を地理学で
先日はヘルシンキについて述べたが、ここではフィンランド全体に目をうつしてみよう。
一応、地理学科でてますが野良の地理学徒なので、これは言わせてくれってことがあったらぜひ色々とコメントくださいね、随時反映します。
1. ここまで
学友たちと話していると、ヨーロッパは割とそういう国が多いようだ。例えばポーランドなんかは学友が「マジでずっっっっっと平原だぜ!!!!」って言っていたのだけど、地図を見てみるとマジでそうである。どうやって"発展する都市が定まって"いったのか、ほんとにさっぱりすぎる。
2. 日本の都市発展の選好性
日本はそう考えると、"なぜそこにその都市ができたのか"が極めてわかりやすい国なのだなと思う。
まずは第一のグループが海。デカい都市として発展するための基盤は、例えば以下の4つだ。
- 太平洋側に面している
- 平野部を持っている
- 深く入り込んだ入り江(="崎")を持っている
- 比較的湾状になっている
(ちなみに川が流れている(荒川、淀川、木曽川…)みたい要素もあるけど、これは日本では、大きな平野部を持っている、と地理学的にはほぼ同値である…川が土砂を運び、平野部をつくるので。)
地図を見ればすぐにわかるだろう。太平洋側で、平野があり、湾状になっている。いずれも大阪、愛知、東京に共通する要素だ。太平洋側に面していることで、オーストラリアやアメリカとの貿易が可能になる。平野部が宅地開発=住民の人口増加を支える。
さて、わかりにくいのが"崎"と"湾"だろうか?
東京には「川崎」、大阪なら「尼崎」、名古屋には目立ったものは見当たらないが、木曽岬や冨具崎といった地名が見られる。崎/岬といった地名が意味しているのは、「そこ急に深くなっていきますよ」だ。つまり、船底が大きい「大型船がつけられる」場所が崎なのである。貿易には欠かせない要素だ。
続いて湾。湾になっているというのは、まるで都市から腕が伸びて、囲い込むような形になっている、ということ。
例えば東京はこう。千葉県全体と、三浦半島(横須賀)が、東京中心部から腕が伸びたように囲い込む形になっている。
これの何がいいかといえば、湾に直接波がやってこない、波の影響を受けにくいのである。湾になることによって、湾の中に一度入ってしまえば、風や波の影響が小さく、港として発展しやすい。また、津波の影響も受けにくい。
この視点で日本地図を眺めてみるとおもしろい。主に三大都市圏は上記のような理由で成立し、他の県庁所在地の多くは、上記の条件のうちいずれかが欠けている。
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第二の都市発展グループは、「(川が)山から出た」とこである。
例えば福島。阿武隈川が、平野部に"出た"とこ。
高崎なんかもそうか。「烏川」。
京都はもちろん鴨川。
山から平野部に出たとこというのは、主に参勤交代をはじめとして陸路での移動の際に、「山を超える前に一休みするか」「山を超えたら一休みするか」という形で、宿場街として発展する。
更に、山から川が出てくる場合は扇状地を形成する場合も多く、その場合は「扇端」と「扇頂」が水を得るのには最適だ、というのは高校地理でも習う内容だ。山形なんかは(馬見ヶ崎川はのちに人口的に流路を変えられているが)わかりやすい好例だろう。
つまり、以下の3つを有するところが、内陸では発展していくことになる。
- 交通の要衝であり
- 水の獲得が容易で
- 平野部を有するところ
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ここまでで述べたように、日本は山、川、平野、海、といった要素が混交しながら、結構わかりやすい「要因」を持ってまちが発展している。
一方フィンランドではこれがない。
海の方は良い。「港だから発展する」というわかりやすいポイントがあるので、あとは「川」があれば、淡水が得られるので発展する。これはまあわかる。
問題は内陸部で何より川と山がない。山がないということは、はっきり言って大体平野部だから、「どこにでも、どこまででも人が住める」ということである。「どの都市が発展するか」を決めるのは、じゃあもう、一種の政治的なノリでしかないってわけ?恐らくそういう側面が結構大きいのかもしれない。
とはいえ、よくよく見ていくとなんだかわかってきそうな気もするので、よくよく見ていくことにする。
3. フィンランドの地理基礎
3つポイントで見てみよう。
① 国土と人口:フィンランドの国土はおよそ34万平方キロ、日本が37万平方キロだから、ほぼ同じサイズである(南北に伸びている感じも比較的似ている)。実は森林率も近い。フィンランド73.9%に対して日本が68.2%。
だがほぼ同じサイズでありながら、フィンランドは人口500万、日本は1.2億。人口密度がもう、全然違う。ぜんっっっっっぜん違う。
② 標高:国土全体が低い。フィンランドの約3分の1は100m未満にあり、約3分の2は200m未満。例えばこれを比較すると、日本では長野市の標高が362m、松本市の標高が592mである。めちゃくちゃ低いことがわかる。( https://ja.wikiqube.net/wiki/Geography_of_Finland )
③ 氷河地形:フィンランドにおける特に重要な地形は、氷河地形である。モレーン(moraine、氷堆石)、ドラムリン(drumlin、氷堆丘)、エスカー(esker)…といった、地理の教科書でしか出てこなかったワードが、ここには現実にある。
・モレーンMoraine…割と峰みたいになるやつ。氷河が岩を押してできた峰
・ドラムリンDrumlin…氷河の動きによって、涙型のもっこりができる。線状に形成された筋もドラムリン?
・エスカーEsker…細長い峰のように形成されたもの。氷河がではなく、氷河が溶けてできた水や川が形成した地形。
氷河地形には他にもU字谷(氷河でぐぐっと大きめに削られたU字の谷)、フィヨルド(U字谷に海が入り込んだもの)、カール(山が氷河で削り取られたもの)、ケイムKame(まるっこい丘)、ケトルKettle(まるっこい湖)などがある。
フィンランドの氷河の流れを見てみるとこんな感じ。湖が左上から右下方向に向かってひっぱられているのがわかるだろうか?これが氷河の動きで、その氷河の動きに従って、細長い地形が形成されている。
印象的なのはここだ。
ちょっと分かりづらいかもしれないが、上2つの写真を順番に比較してみてもらえるとわかる。並行して、2つの線が並んでいるのがわかるだろうか?
これがモレーン(地図では確認しづらいがフィンランドには他にもある)。フィンランドではサルパウセルッカ(恐らく現地の言葉に近いのはサルパウッセルカ Salpausselkä)と呼ぶ。つまり、氷河期に、氷河が運んできた砂や岩がここに堆積し、ちょっとした峰を作っている。そしてまた、このモレーンが、湖の水がこここから先に流れ出るのを押し留めている。
こうした地形を理解してフィンランドを眺めると、都市の成り立ちが見えてくる。
4. フィンランドの都市ってどこやねん
そもそもデカい都市ってどこやねん、というところを整理しておく。以下の人口は2011年とのこと。おおまかな都市サイズの把握のためなので、正確性を吟味していない。
(引用元:wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E3%81%AE%E9%83%BD%E5%B8%82%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7 )
1-ヘルシンキ都市圏(ヘルシンキ、エスポー、ヴァンタ)、およそ100万人
2-タンペレ、20万人
3-トゥルク、17万人
4-オウル、14万人
5-ユヴァスキュラ、13万人
6-ラハティ、10万人
7-クオピオ、10万人
8-コウヴォラ、9万人
9-ポリ、8万人
10-ヨエンスー、7万人
ここまでが上位10都市。あとは今回重要な都市として、以下をあげておく。
ラッペーンランタ、7万人
ロヴァニエミ、6万人
セイナヨキ、6万人、
ミッケリ、5万人
カヤーニ、4万人
プロットするとこうなった。
うん、いい感じだ。笑
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てか、にしてもフィンランドの都市といえば、小都市of小都市である。
例えばフィンランド都市圏で100万人。日本で100万人都市といえば、広島市(120万人)や仙台(110万人)って感じだ。ちなみにヘルシンキ単体なら65万人、これはおよそ鹿児島市(60万)や岡山市(70万)ぐらいの人口ってこと。めちゃんこ小さいのがよく分かる。フィンランドでは割と重要な都市であるヨエンスーやロヴァニエミで6,7万だけど、その人口規模、鯖江と同じだからね。昨日もノルウェー人と話していて、オスロは50万人だよ、東京は?と聞かれて、1000万人といったらぶったまげてた。
5. フィンランドの都市-海
まずは港として発展してきたまちを見てみよう。こちらは比較的わかりやすい。
まずは旧首都トゥルク(フィンランド第3の都市)。
これはまず第一に、何より元の支配国・隣国スウェーデンとの関係性が大きい。ストックホルムに最も近い港がトゥルクなのだ。
トゥルクはしかしもう一つ、極めて重要な特徴がある。川(Aura River)があるのである!
日本と違ってフィンランドは降水量がそこまで多くなく、また標高が低いので川同士が合流してでっかくなっていって河口に流れ込む、みたいなやつがない。そのため、都市の成立においては、淡水が得られる湖または川が近くにある、というのは極めて重要な要素になる。
この2つ、スウェーデンから近く、川があることから、トゥルクは旧首都として成立した。
他の港町も同様だ。
北方の重要な拠点、オウル。オウル川。
ポリ。コケマエン(Kokemäen)川。
ちなみにヘルシンキは、ヘルシンキの地理で述べたように、淡水確保は相当難しいエリアだったのではないかと思う。ヴァンター川はあるが、なかなか貧弱だ。こうしてみると、ヘルシンキ発展のケースでは、川があるかどうかということよりも、支配国ロシアの影響が極めて大きかったことがわかる。
日本とは違うポイント。
港として立地するのに、平野が必要という条件はない(どこでも平野があるので、どこでもいい、笑)。かつ、湾である必要もない。そもそもフィンランド自体が非常に大きな湾になっているため、波の影響ははじめから小さいのだ。
こんなふうに。
6. フィンランドの都市-湖水地方
フィンランドといえば、氷河が削ってできた湖が広がるエリア=湖水地方が有名だ。これは日本にはないから、一体何がどういう影響をもたらしているのかよくわかっていなかったが、なんとなくつかめてきた。
日本では、山が人々の移動を制限する。これがフィンランドでは湖になる。そして同時に、湖は人々が水を確保する手段でもある。
まず、人々は生活のために淡水が必要だから、湖や川の周囲には、素朴に人々が住みだす。恐らく湖水の魚などは、貴重なタンパク源でもあっただろう。では、そこからいかに都市は発展するのか?
人々は移動する。
そんな素朴な観点から地図を見てみよう。
ポリやヴァーサといった西のエリアと、東のヨエンスーの人々とが往来することを考えてみよう。すると、タンペレ、ユヴァスキュラ、ラハティといった湖水地方の都市の成立が見えてくる。
ちなみに、タンペレはフィンランド第二の都市。ヨエンスーは東フィンランド大学があるまち。近くにはコリ国立公園など優美な自然が広がる。ユヴァスキュラはユヴァスキュラ大学やAlvar Aaltoミュージアム、中央フィンランド美術館といった施設が並ぶ、中央フィンランドの中心地。
なんとなく、僕の感覚ではフィンランドにいる日本人の方は、大体みんなヘルシンキ、トゥルク、タンペレ、ユヴァスキュラに住んでるイメージがある(あくまでイメージ)。
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フィンランド第二の都市タンペレ。
南北に細長く伸びた湖(南の端・ハメーンリンナから北の端・ヴィッラトまで、車で2時間ほど)において、タンペレは地峡(対岸とちょっとだけつながってる細い道)になっている。
つまり、湖が縦に伸びて、左右(東西)の行き来が切断されるなかで、タンペレはポリやトゥルクといった西岸部の港湾都市と湖水地方をつなぐ、窓口のようになっているのだ。
(ここで、ではなぜもう少し南のトイヤラやレンパーラではだめだったのか?という話になってくるかもしれない。しかし、レンパーラやトイヤラを窓口に東側に向かおうとしても、更にその先に湖があるため、結局タンペレを経由しなければならないことがわかる。)
当然かつては湖水の船運も発達していたのは間違いないが、車社会の進展とともにタンペレが発展していった様子が、タンペレから各方向に伸びる道路網によって理解できる。
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こうした「湖は車が通れない」という視点で見てみると、その他の都市の成立が見えてくる。
赤が湖(=通れない場所)、青が都市と都市を結ぶ道路だ。(厳密ではないのはご勘弁)
こうしてみると、湾岸部のヘルシンキやトゥルクといったまちから、湖水地方を抜けて東部へと至るまでの道が、湖のあいまを縫うようにうまく結ばれていることがわかるだろう。
そして、その道の道中、湖の端や地峡などにあり、道路の結節点となった都市たちが発展してきた、という流れが見えてくる。…いずれも一定の間隔で発展しているのが非常に興味深い。いずれも道路ならおよそ2時間、自転車でちょうど7,8時間という距離だ。人間の「サイズ感」みたいなものを思い知らされる。
これで湖水地方のタンペレ、ラハティ、ユヴァスキュラ、ミッケリ、クオピオ、ヨエンスーといったまちまちの発展が理解できた。
7. フィンランドの都市-サルパウッセルカと都市
ラハティ、コウヴォラ、ラッペーンランタからヨエンスーに至るラインは、実はフィンランドの都市発展においてはめちゃくちゃ興味深い成立をしている。
氷河の代表地形のひとつ、モレーン(サルパウッセルカ)上に立地しているのだ。
これは標高のわかる地図で見てみるとよくわかる。
ラハティ〜コウヴォラ〜ラッペーンランタと、すっと高いラインが見えるだろう。これがサルパウッセルカ(モレーン)だ。
フィンランドは氷河に削られて、道は常にうねっている(ヘルシンキも無限に坂が多い)。上がったり下がったり、湖があったり、ちょっと丘になったり……、まっすぐ道を進むのが極めて面倒なのがフィンランドである。
その点サルパウッセルカ上は、まるで誰かが「ここを通ればいいよ」と教えてくれているかのように、小高い峰がまっすぐ続いている。フィンランドの人々にとっては、ラハティからラッペーランタへの道は交通網として極めて使いやすかったはずだ。また同様に、サルパウッセルカ上に一定の範囲の平地は、まちを形成する上でも都合の良い場所だったに違いない。
(日本でも、こうした微高地に旧街区が成立している。それは日本では河川の氾濫が極めて多く、高いところに住んでいなければどうしようもなかったからだ。フィンランドも低地が多く氾濫は起きやすそうだが、どうだろう。今調べた感じでは、フィンランドではあまり洪水や氾濫は起きていない/起きづらいようだ)
ちなみに、ラッペーンランタはフィンランドの端にあるが、人口7万人と比較的大きな都市である。その発展の鍵は、隣国ロシアのヴィボルグおよびサンクトペテルブルクである。
ヴィボルグはかつてフィンランドの土地(ヴィーポリと呼ばれた)であり、独立当時はフィンランド第二の都市だった。また更にその先にはサンクトペテルブルグもあり、ラッペーンランタはいわば、ロシア側からフィンランドに至る最初の窓口として発展したのである。
8. 日本っぽい?成立のまち
最後に、あれ?割と日本っぽくね?という成立のまちについて書き記しておく。
西部の平野に成立したまち・セイナヨキ。ヘルシンキでは、湖の近くでもないのに平地に発展した町は珍しい(湖あるけど)。
こうしてみてみるとセイナヨキが、湖水地方ユヴァスキュラから、港町ヴァーサに至る結節点、しかも上記の日本の地図で述べたような、「山から川が出てくる箇所」に成立した都市であることがわかる。もちろん、(めっちゃ小さいが)川も流れている。
もういわばあれっすよ。サエイナヨキはもはや、フィンランドの高崎といって過言ではないのでは???
ちなみに、目盛りが10倍以上変わっていることに注意してください、笑 日本の山はホントに高いので…。1000ftが300m程度、10000ftは3kmくらいですね。高さがほんとにほんとに全然違うから…。
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北部ラップランドの中心都市・ロヴァニエミ。ケミ川というフィンランド最長の川が流れ、サンタクロース村が近い。オーロラを見に行く拠点であるロヴァニエミ空港もここ。
おお、山っぽい。といっても、これでも1500ft(500mくらい)の山なので、まーーーじで大したことはない(東京の、ハイキングで気軽に登れる山・高尾山で600m。ちなみに六甲山は931m)。
それでも、こういうまちを見ると、なんだかホッとします。
ロヴァニエミ発展は、二本の川が合流しているところがポイント。
特にこのような、そこまで湖が大きくない(大きいし多いけど)地方では、淡水を得られる川の役割は非常に大きい。恐らくこの規模だと、川の船運も相当発達していたものと思われる。こうした経緯から、ケミ川流域沿いは、湖のそばではなく川沿いにまちが発展。その結果、2つの河川が合流するロヴァニエミが、交通および交易の要衝として発展してきたということでしょう。ざっと見た感じ、このあたりは製紙や木材パルプで発展してきたとのこと。その木材運搬路として、ケミ川が利用されていたと考えていいでしょう( https://en.wikipedia.org/wiki/Kemi 、 https://www.portofkemi.fi/en/portofkemi/history/ )。…河口部に成立したケミ市は、「collect tree charges」、いわば樹木税のようなものを徴収する権利があった、と記述があります。おもしろいね。
このような、2つの川が交わる内陸都市発展の事例は日本でもいくつか例が見られます。
例えば同じ木材を主要産業にしている、岐阜県の郡上八幡市とか。
福井もそうですね。足羽川、日野川、九頭竜川という、福井を代表する河川が一箇所に集い、かつ北國街道沿いという、船運と陸運の交通の要衝であったことが福井の成立基盤。
9. まとめ
こうしてつぶさに観察したり調べたりしてみると、いろんなことがわかってくる。特に氷河地形は初邂逅だったのですごく興味深いです。正直氷河地形、発達経緯がまだよくわからないところがあります。わかりやすいやつがあったら教えてほしいです。
こうしてみるとフィンランドの都市発展経緯もただただなんとなくで決まってきたのではなく、地形との関係、政治的関係で随分変わってきたことがよくわかります。何フォビア(何フェチ)なのかわりませんが、こういう経緯が見えてわかってくるととても落ち着く。今とても落ち着いています。
そういう意味では、それこそポーランドあたりとかどうなんだろうなあ、どのように発展都市が決まってきたんでしょうか、実際。知っていたら教えて下さい。
10. 参考
https://ja.wikiqube.net/wiki/Geography_of_Finland
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