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あかいあったか〜い

12月の某日。
いつも通りライブなどが済んで東京から福島へ帰るバスに乗っていた。
ぽつぽつ空いて人が乗っている。
自分の隣も空いていたので荷物置きにする。
前の席には長い金髪が綺麗な女の人が座った。
「すみません席倒します」と声をかけられたので軽く了承した。こういう時は気を遣わせないように軽く返事をしてあげたい変なこだわりがある。
できているかは別として。

12月ではあるものの中に射し込む日差しの熱が強くて少し暑かった。東京は晴れてるなあ。もう少し雨降ったりしてもいいんじゃないか。

うたた寝したりノートを書いたり暇を潰していた。にしてもちょっと暑いわ。

ぼーっとしてたら「すみません」と声がした。
前のお姉さんだ。

鼻血が出ていた。

「ティッシュなんてありますか」
と恐らくお姉さんもこちらに気を遣わせないようにと笑顔を保ちながら言う様子は痛ましかった。

ある限りのティッシュとコンビニで貰ったおしぼりを一心不乱にお姉さんの席へ送った。
ティッシュは少ししか残っていなかったが何故かおしぼりを2つ貰っていたので何とかなりそうだ。


(以下の文は流しでよろしい。)

網膜がどうにも赤だった。
焼き付いてしまった。
自分以外の人間の血があんなに赤く見えたのがなんだかおかしかった。どうしてこんなに残るのか。人間の血はあんなに赤い。思ったより明るく鮮やかな。体に流れてる赤があんなに鮮やかなのか。
奇妙だ。肌の下にあんな赤があるのか。改めて信じ難くて恐ろしくも思った。だってあまりに鮮やかだったから。今も信じられない。赤だった。自分の血があんなに赤いと思えない。いつか見た自分の血はあんなに赤くなかったはずだった。
自分以外の人間だから赤いんじゃないだろうか。自分の血はあんなに赤いのだろうか。
自分が見えた赤が鮮やかだっただけでお姉さんにはどんな赤に見えたのか分からない。
自分の血も他の人間からあんな風に見えるのだろうか。
クオリア的な話と言ってしまえばそれまでだけど。それで片付けたくない。でもなんだったのか知らない方がいい気がする。

以上はスターウォーズのオープニングロールのイメージで。

このように思考が溢れてくる時があって
鍋状態と呼んでいる。


「すみません、ありがとうございます」
とお姉さんは鼻血を抑えながら言った。

後ろの席のやつがティッシュ類を渡しながらこんな不謹慎とも言えそうな事を考えていたなんて知ったら。映画の一部になってたなんて知ったら。心中はかりしれない。


しばらくしてバスがサービスエリアで休憩に入った時、声をかけられた。お姉さんだ。
どうやら血は止まったようだったので安心した。

「ありがとうございました、これよかったら」と綾鷹のほうじ茶のあったか〜いやつを渡された。

感激した。本当にした。
自分がお姉さんの立場だったらこんな気遣いできるだろうか。自身が1番大変だっただろうに。なんと素晴らしいに尽きる。尽きないで欲しかったけどその場は尽きた。

しばらく自分はこのお姉さんのために頑張れそうだと思った。

どうかこんなもの見ませんように。

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