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四福音書の調和表

私のことを身近に知っている4人の人にそれぞれ私のことを書いてもらったら、どれほど似たものが出来上がってくるでしょうか。同じ出来事を書いていても、それぞれの人の視点が違えば、ずいぶん違ったものになるでしょう。福音書は、書いた人がそれぞれに非常に特徴的で、しかも書かれた時期もいろいろ。

そして、出来事が起きた順にきっちりと書いているのは、おそらくヨハネだけで、他の3人は、ある程度のテーマごとのまとまりがあって、時間順に関しては二の次になっている箇所がしばしばあるように思います。

それで、昔から、時間順にそろえてみよう、同じ出来事を記している記事をまとめてみよう、という働きかけがありました。その一覧を、四福音書の調和表と呼びます。調和表を作る人の考え方によって、さまざまなものがあるのですが、私も自分の学びのまとめとしてその一覧を作ってみました。

四福音書を読み比べてみると、四人がそれぞれに選別した出来事を取り上げているのがまず目につきます。さらに、同じ出来事についても違った視点で書かれているのがわかります。マタイはユダヤ人を読者層として想定しているようで、ユダヤ人の習慣をいちいち説明することは皆無。マルコは説明を加えるところがあるので、想定読者はユダヤ人以外だろう、といった具合です。

時間に関していえば、ヨハネが時間に最も注目しているのがわかります。ユダヤ人の祭、特に過越の祭の記述があって、イエス・キリストの活動した時期を推定することができるのです。特に、イエス・キリストが捕らえられて裁判を受ける場面があります。大祭司の邸内で裁判が進行しているのと同時に、庭ではペテロが自分はイエスなど知らない、とその場にいた人々に言っているのですが、その同時進行している二つの場面をそれぞれ短く、交互に語るように、非常に劇的にまとめています。ほかの福音書は、裁判の場面、ペテロの場面を、ほぼそれぞれまとめた形で提示しているのとは大違いです。ヨハネが「時」という言葉をしばしば書きとどめていることも注目したいところです。(このことから、「ヨハネの黙示録」も、時間の流れに厳密に記述が進められているのかも、と、推測されます。)

ユダヤ人だったイエス・キリストと弟子たちの活動は、本来、ユダヤ人の時間のとらえ方の中で進んでいたはずでした。そして、特にイエス・キリストが成し遂げなければならない事の「時」までのカウントダウンが、四福音書の調和表の中から見えてきます。

ユダヤ人の一日は、日没から始まります。たとえば、イスラム教の断食が日中だけで、日没とともに食事ができるようになるのですが、そこがBREAK-FAST。断食の終わりが、一日の初めなのです。断食月が終わって「大祭」と呼ばれる日に入るのも、当然、日没からです。ユダヤ人の「安息日」という聖なる休日がありますが、これが日没からスタート。私たちの普通のカレンダーで言えば、金曜日の夕方、日没からがユダヤ人の「週の第七日」である安息日になるのです。

ユダヤ暦というのも独特です。2020年9月19日が、ユダヤ暦5781年の新年でした。不思議なことに、この新年は「第七の月ティシュレー」から数えられます。月の数え方は陰暦方式で、新月が毎月の一日になります。それで、うるう年があって、3年ごとに第13月の「うるう月」が挿入され、太陽暦の一年と合わせるのです。(ちなみに、イスラム教カレンダーはうるう月もない、一年が354日の太陰暦です)

そんなこんなで、自分なりにまとめた調和表。といっても、ゼロからすべてを作り上げることは無理な話で、参考にしているのが、A.T.ロバートソンの四福音書の調和表 "A Harmony of the Gospels"。1922年に初版が発行されている歴史的な書籍です。それに少し自分なりの細かいところでの変更を加えてみました。

大枠は、次の通りです。

I. はじめ~公生涯前

II. 活動の最初~ユダヤ人の反対

III.伝道の拡大と弟子訓練の開始

IV.譬による教えの開始、弟子たちのキリスト告白まで

V. 受難の告知、ガリラヤ伝道の終了

VI. エルサレムまでの道程

VII.エルサレムでの受難までの備え

VIII.キリストの受難

IX. キリストの復活・顕現・宣教の大命令

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