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ドント・ルック・アップが描く政治の皮肉と多様性が生む分断の皮肉

あらすじ:天文学者が地球壊滅レベルの隕石衝突可能性を発見し、大統領に伝えるが、選挙対策やスキャンダル対策で頭いっぱいで相手にしてもらえずグダグダするうちに地球が消滅する話。

見た瞬間、アルマゲドンのパロディであり、アルマゲドンやタイタニックに代表されるような、90年代の白人至上主義に対するアンチテーゼやそれを伴う分断がテーマだと思った。
もちろん、政治に興味を持たないと人類が滅びるよ、というのを面白おかしく描いてるのはベタなメッセージとしてある前提で裏のテーマとしてそれを感じた。

話としては、天文学者が教え子の大学院生に地球に迫る隕石の存在を知らされ、計算するとあと半年で地球に衝突、地球壊滅と気付き大統領に警笛と解決策を相談しにいくが、大統領は不倫スキャンダルの火消しや次の選挙戦のことで頭がいっぱいで相手にしてくれない。
隕石衝突による地球壊滅を地球温暖化や宗教的対立同等の課題どころかオカルト的なものだと揶揄して構ってくれず、変な人を紹介して揶揄うTVショー出演して笑われる始末。
そこで天文学者は天然ぶりから人気が付きインフルエンサーになっていき、テレビタレントになったり番組キャスターと不倫して堕落していく。一方大学院生は機密情報漏洩者として田舎に追いやられる。
それでも科学者たちにオカルトでなく信憑性ありと判断され、かつ「政治的利用価値がある」と判断されたことで隕石破壊計画が進行するが、無人追撃機を使わず生身の人間を送り込みヒーローに仕立て攻撃しにいくあたりが滑稽。これがアルマゲドンのパロディになっている。
そして隕石破壊ミサイル発射直後に、まさかの中止。なぜかというと、隕石にレアメタルなど貴重な資源が含まれているということで経営者の利権によって破壊がもったいないということでストップ。
そのあと実際に隕石が地球に迫ってきて、空を見上げると隕石が見えるように。
それでもあれは隕石じゃない、ドントルックアップ!という声が上がったりして陰謀論者も現れる。
ドントルックアップというのは文字通り空を見上げるな(隕石を見るな)という意味と、真実を見るな(真実から目を背けろ)という意味、二重の意味がある。
後者は政治家が馬鹿な庶民に真実から目を背けてもらうことで利益を搾取し続けられるから
でもそれは良くないよね、と天文学者が民衆に目を覚ませ、と語りかけるが時すでに遅し。
天文学者は諦め最後家族や大切な人たちと一緒に過ごすことを選択して死ぬ。
大統領と経営者たちは冬眠カプセルで隕石を回避、はるか先の時を経て目覚めるが巨大生物に喰われてジ・エンド。
経営者は未来予測AIを持っており、大統領の死に方は予言通り(巨大生物に喰われる)だったが、天文学者の孤独に死ぬという予言は外れ、不倫を反省して妻と復縁したことで家族と死ぬことができた。

ベタには、政治に興味を持たないととんでもない陰謀論を信じて馬鹿になる、とか、政治の裏にある利権に気づかず政府の暴走を止められず滅びる、とか、インフルエンサーに騙されるな、ということがわかるが、メタ的には分断の深刻さというのがテーマだと思う。
具体的には90年代に大ヒットした映画、アルマゲドンとタイタニックのような世界がもう通用しない、ということ。
当時から自分は、アルマゲドンのような中年白人男性があたかも地球を代表するヒーローかのように振る舞うのを薄ら寒いと思っていたし、タイタニックのような白人の美男美女が船上でイチャイチャするのを心から軽蔑していたが、世間はそれに涙していた。
しかしもうその構図は成立せず、今それをやるとなんで白人なの?という白人至上主義に対して反対の声が絶対あがり、世界の危機を誰が救うべきか、世界最高の恋愛を誰がすべきか、の部分で揉めに揉めて分断が起きるに違いない。
マイノリティが社会進出し活躍できるようになったことでそれが皮肉にもわかりやすい代表性のようなものを作りづらくしている。
(タイタニックで主演を務めたレオナルドディカプリオが本作の主演なのも確信犯的)
誰もが活躍でき声を上げられる、からこそ、おそらく今地球が危機に陥った時、意思統一を図って一つの目標に立ち向かう、ということが、多様性を尊重するがゆえにできない、という究極の皮肉を描いているのだと思った

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