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恥市場 1『猿山の惨劇』

怖い思いをしたが、怪談にはならない――そんな体験もある。

俗に言う「霊感」の類は持ち合わせていないし、心霊スポットを巡る趣味もないから、「怪談になる恐怖」よりも、「怪談にならない恐怖」のほうが、より多く体験しているかもしれない。

例えば・・・。

小学5年か6年の遠足で、筑波方面のレジャー施設を訪れた。

そこに、猿山があった。

猿山は木製の柵で囲われていて、その柵にもたれ、猿と大差ない知能の私は馬鹿面で猿の群れを見物していた。

すぐ隣には親子連れ。お母さんと、3歳ぐらいの女の子。

柵にしがみついて無防備に猿を見ていた女の子に、1匹の猿が近づいてきた。

ちょうどその柵の下部で地面がえぐれ、少し隙間ができていたため、悲劇は起きた。

問題の隙間から猿が手を伸ばし、女の子の足首を掴むやいなや、力任せに引っ張ったからたまらない。女の子の小さくて柔らかな身体は、柵と地面の隙間をスルリと抜け、猿山の内部へと引きずり込まれてしまった。

突然の無体な仕打ちに、思わず絶叫する女の子。悲鳴を揚げるお母さん。その声に驚いて、女の子の足を掴んだまま走り出す猿。響き渡る女の子の断末魔。助けを求めて喚き散らす母親。他の観光客たちも異変を察知して騒然とする。その騒ぎにパニックを起こして猿の走りはさらに加速する。それにともない土の上を引きずり回される女の子が泥団子と化していく。やがて道具を手にした施設の人が猿山に突入して・・・。

ちょっとした地獄絵図である。

「いまにも猿の群れが女の子に殺到し、生きたままムシャムシャ食べるのではないか?」

そんな妄想にとらわれ、私は物凄く怖くなってその場を逃げ出したため、事件の顛末はいまだにわからず仕舞い。

まあ、私より女の子のほうがはるかに怖い思いをしたのは確かだ。

筑波で猿山を引きずり回されたあの女の子は、いまごろどうしているだろう・・・。

#恐怖体験 #トラウマ記憶 #怪談にならない恐怖 #猿 #バカ子供

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