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東京の一極集中を緩和するには…

本郷三丁目駅から東大の方へ数分歩いていくと、その途中にあるビルにこんな川柳のプレートが貼ってある。

本郷もかねやすまでは江戸の内

このプレートを初めて見たときには「江戸ってこんなにちっちゃかったんだ!」と妙に驚いた記憶がある。それから、自分は大学時代には大学の近くに4畳半のアパートを借りて住んでいたのだが、そのときの大家さんの曰く

昔はこのあたりはほとんど畑だったのよ

…とのこと。それにも驚いた。当時のアパートは大田区の石川町という場所にあったのだが、いまではかって畑だったというその場所を想像することすらできない高級住宅街となっている。

拡張し続ける東京

東京(江戸)は何百年もの間、ずっと拡張をし続けている。最初は小さな「江戸」から始まって、戦後の高度経済成長で東京はどんどんと拡張していった。

人が集まり、金が集まり、仕事が集まって、また人が集まる。ブラックホールみたいに何もかも吸い込んで、東京はどんどんと大きくなっていった。

しかし、これが何もデメリットを生み出さなかったのか?と言えば、嘘になるだろう。これは昨今のコロナ騒動でもそうだし、東日本大震災での混乱ぶりでも明らかだ。東京は明らかに限界点に達している。

平常時であれば、なんとか回っているが、ほんの少し普段と違うことが起こると、それをきっかけに大混乱が発生する。それくらいに、東京は既に限界に近づいているのだ。

一極集中への対策

江戸時代には「江戸」は小さかった。江戸時代には電車がなかったからだ。「かねやす」くらいまでが東京だった。電車ができてからは、人の移動範囲は拡大して、山手線の内側くらいが「東京」になった。

その後、「東京」はどんどん広がって、いまではおそらく武蔵野線の内側くらいまでは「東京」という感覚になっていると思うが、電車だってどんどん速くなっている。だったら、一層のこと、圏央道の内側くらいまでを「東京」だと思っていいんじゃないか?というのが、以前から自分が思っていたことだ。

「何をくだらんことを…」と思う方もいるかもしれないが、基本的に人間の感じる距離の感覚は「移動時間」により大幅に左右される。だとすれば、交通機関を十分に高速化すれば、もっと広いエリアを「東京」だとみなすことはできるのではないか?というのが、以前から私が考えていたことだ。

つまり、「圏央道=山手線」くらいの感覚でみなせるくらいの高速な移動手段があれば、かなりの広い範囲を「東京」とみなせるのではないか?と思っている。

埼玉も川越までは江戸の内…

などと言える時代がいつか来るのではないかと思っているのだ。ただ、実際に圏央道の周辺にある衛星都市群の間を電車等で移動すると、驚くほどの時間がかかる。基本的に鉄道の路線は東京への通勤を前提に整備されているものが多いからだ。

八王子から川越、あるいは川越から久喜、あるいは久喜から筑波といった都市の間を電車で移動すると、直線距離ではそれほどの距離がなくても、驚くほど時間がかかってしまう。

自動運転バス

そこで、この問題を解決するのに使えるのではないか?と考えているのが圏央道だ。つまり、高速道路上にバス専用の駅をつくり、駅間をバスで結ぶことで、これらの都市間をもっと高速に移動できるのではないか?と考えている。

現在であれば、自動運転の技術も発展しているので、高速道路上しか走らないバス程度であれば、おそらく自動運転のバスとして実現することもそれほど難易度は高くない(はず!)。

理想的には、新幹線のような高速鉄道を圏央道に並走させた方がよいと思うが、この巨大な「山手線」を実現するにはおそらくかなりの財政的な負担と恐ろしく長い時間がかかってしまう。しかし、既存のインフラと自動運転のテクノロジーを組み合わせるだけならば、こうした都市間の移動もより安価かつ早期に整備することができるだろう。

大東京圏(Greater Tokyo)

このように、東京から少しだけ離れた衛星都市群を高速な移動手段でうまく結びつけることにより、東京の反対側にもうひとつの魅力的な極をつくるというのが、私が以前から考えている東京一極集中への解決案だ。このアイデアのメリットは幾つもあると思っているのだが、まとめると次のようになる。

☆ 東京の近辺にもう一つの極ができることで、自然に東京の拡張ができる
☆ 都心のような一点の「極」ではないので、地価の高騰を抑えられる
☆ 都市間を連携するために、既存のインフラを活用することができる
☆ 高度成長期に作られた住宅やインフラを有効に活用できる
☆ いざというときに東京のバックアップになる
☆ 海外からの投資を呼び込むことができる

地価の高騰を抑える

ずっと以前から思っていることだが、やはり地価の高騰は抑えた方がよいと思う。東京は素敵な街だが、ずっと住み続けるにはコストがかかり過ぎる。

都市の住みやすさという観点からは、東京よりも福岡とか、札幌とか、それくらいの規模の都市の方がはるかに住みやすそうだと感じる。ただ、専門性の高い面白い仕事はやはり東京の方が数が多い。

そう考えると、なかなか東京を離れることができない。しかし、そのために長時間の通勤で人生がすり減ったり、高い家賃を払うために長時間働いたり…というのは、なんだか虚しい気もする。

実際、出生率などを見ても、東京よりも福岡や札幌などの方が高い。感覚的にも生活のペースがゆったりしているように感じる。

既存インフラの活用

東京の反対側に極をつくる、大きなメリットのひとつがこれではないか?と考えている。つまり、高度成長期に作られた住宅や鉄道などの既存のインフラをうまく利用できるという点だ。

東京から遠く離れた場所に新たに首都を作るのはよいとして、そうした新たな首都が陸の孤島であってよいはずはない。だとすると、交通機関の整備に多額の費用と長い時間がかかってしまう。

しかし、東京から程よく離れた位置にある衛星都市群をうまく繋ぎ合わせることができれば、そうした問題は解決する。既に長年かけて整備してきた私鉄や JR などの鉄道があり、それらを利用することで、東京とはすぐに連携できるからだ。

ポイントはこれらの衛星都市をそれぞれ孤立した都市にしないという点だ。これらの都市を密に連携させることで、東京に負けない魅力を生み出すことができるのではないかと考えている。

また、東京とは反対方向に企業の拠点ができることは、実は鉄道会社にもメリットがある。逆方向に通勤する人の流れが生まれ、鉄道会社はそうした人たちからも恩恵を受けることができるからだ。

つまり、既に満員の通勤電車を更にギュウギュウ詰めにする代わりに、逆向きの人の流れから利益を生み出すことができる。既存のインフラからより効率的に利益を生み出すことができるようになることは、鉄道会社とっては大きなメリットになるはずだ。

都市の魅力を更に高める

但し、こうした都市群は単に連携するだけでは、その魅力を十分に高めることはできない。おそらく、首都機能の一部を移転するとか、大学や医療機関などを移転するとか、そうしたことも必要となってくる。

また、これから高齢化が進展してくるにしたがって、高齢者も安心して住めるような都市というのも必要になるかもしれない。

高齢になってから、健康に不安がある状態で、家族と遠く離れて暮らす、というのはなかなか難しい。しかし、だからといって、誰しもが一家全員が都心で暮らす、という選択肢を取れる訳でもない。高齢者や基礎疾患を持つ家族を持つ人たちがほどほどのコストで安心してくらせるような先進的な医療都市みたいなものもあってよいはずだ。

都市ごとに学術都市であったり、医療都市だったり、金融都市だったり、という風に少しずつ色合いの違う都市を作り、密に連携させることで、東京という特異点をうまく解消してやることができるのではないかと考えている。

そして、このアイデアのポイントは、こうした変化が不連続な変化ではなく、連続的な変化として実現できる点だ。ある日突然「首都をXXXへ移転しました」といった不連続な変化ではなく、少しずつ東京の機能を外側へ移していく連続的な変化とすることができる。

おそらく、この点においてこのアイデアは単純な首都移転よりもリスクの少ない、受け入れやすい選択肢になるのではないかと考えている。

テレワーク

こうした変化を促進する上で、テレワークといったツールも重要だ。「オフィスに出社する」という縛りが少なくなれば、企業が東京以外の場所へ拠点を移動する、という変化もより起こりやすくなるだろう。

しかし、人と人のコミュニケーションを考える上では、直接会って話をする以上に密なコミュニケーションはないし、それが最上であることは言うまでもないと思う。そういう意味では、やはりオフィスが完全に不要になることはないし、あった方がよいと思うが、それが全て東京に一極集中している必要もない。

そういう意味では、もっと東京から離れたところにサテライトオフィスがあってよいと思うし、そうした拠点を繋ぐためのさまざまな IT技術はあってよい。

そして、おそらくこうした手立てを幾重にも重ねてゆかなければ、おそらく東京という特異点は解消できないのではないかと思っている。

税制

税というのは、基本的には減らしたいものに重い税率をかけることでうまく機能する。タバコの消費を減らしたければ、タバコに重い税をかけ、酒の消費を減らしたければ、酒に重い税をかける。減らしたいものがあれば、何でもそれに重い税をかければよい。

東京に企業を集中させたくなければ、東京に拠点を持つ企業に課する税を高くすればよいし、地方に企業を分散させたければ、地方の企業に課する税を低くすればよいのだ。企業の動きをうまく誘導したいと考えるならば、こうした税制の観点も必要になってくる。

海外から投資を呼び込むために法人税を低くする、というのは十分にあり得る手法だが、おそらく日本全国一律に低くする、というのはあまりに芸がない。特に、企業を積極的に誘致したい場所では低くして、そうでない場所では高くする、といったメリハリの効いた税制をしかないと、やはり人は一番わかりやすくて便利そうな場所に集中してしまうだろう…

お金が足りないから消費税増税します…みたいな感じの思考停止した増税ではなく、日本にはもっとビジョンや意思のある税制が必要だろうと思う。

投資先としての日本の魅力

日本は人口が減りつつある社会だと言っても、治安も安定しているし、政治的にも安定している。国民の教育水準も決して低くはない。工夫次第で、この日本という国にいくらでも投資を呼び込めるのではないかと思っている。

但し、本当に日本という国を再生するには、誰もがこれから国の成長を期待することのできるような場所や機会を準備することが必要であって、狭い場所で窮屈な思いをしながら、互いを押しのけ合いながら生きることを強要することではないはずだ。

東京というレッドオーシャンから脱出するために、きっとどこかに新しいブルーオーシャンを作り出す必要がある。そのために、昭和の大人たちがつくりあげてきたものをもうちょっとうまく使えないか?というのが、最近ずっと考えていることだ。

東京圏以外はどうする?

おそらく、一番簡単なのは、地方の企業の法人税を安くしてしまうことだ。放おっておいたら誰も来ないような陸の孤島でも法人税が安ければ、税率が安ければ企業が集まってくる…ということは十分にあり得るのではないか?と思っている。

特に、日本は政情も安定しているし、治安も教育水準も高く、コストさえ十分に抑えることができれば、海外の企業にとっては魅力的な投資先になるはずだ。大企業がデータセンターやコールセンター、あるいは製造業の生産拠点を作るには十分に魅力がある選択肢になるだろうと思っている。具体的には、法人税の税率を10段階くらいに分けて、それを市や町単位で設定していくというイメージだ。

東京の都心部が最高水準だとすると、周辺の埼玉・千葉・神奈川・茨城などはそこよりは1段階か2段階くらい下げる…といったイメージだ。そして、交通のアクセスの悪い離島や豪雪地帯などは法人税はゼロか、それに近い水準に設定すべきだろうと考えている。

但し、こうした税制面での優遇措置は、きちんと企業の実態がそうした地方にないといけないので、従業員の住民票を確認を行うことができる企業に限るなどの厳密な管理が必要だろうと思う。

また、同時にそうした地域に住んでくれる人たちには、ベーシックインカムのようなものを給付してもよいのかもしれない。

そうでないと不便な地方に住むという積極的な意味がなくなるからだ。

例えば、月に1人1万円でも2万円でもベーシックインカムが支給されるようになれば、多少不便地方でも小さなビジネスを続けながら地方に住み続けるという選択肢も積極的に選択できるようになるのではないか?と考えている。これも法人税の水準に合わせて、より不便な地域は高く、より便利な地域では低く設定することで、特定の地域への人口集中が避けられるようになるだろう。

まとめ

最後に、これができるとどうなるか?をまとめてみたい。

1.東京にゆとりが生まれる

はっきり言って、いまの東京はパンパン過ぎると思う。ここから 30% でもオフィスが周辺の衛星都市に移動すれば、通勤電車もかなり快適になる。東京にも更に成長余力が生まれてくるのではないかと思う。

2.東京が安全になる

首都直下型地震やコロナなど、さまざまなリスクが指摘されつつも東京への人口集中が止まらないが、そうした人口集中を緩和することで、未来に起こり得るリスクを事前に回避することが可能になるのではないかと考えている。

3.地方が元気になる

税制面での工夫はもちろん欠かすことができないが、それと合わせて東京圏を改造することで、日本経済にもう一度成長余力を生み出し、地方にも活気を呼び戻すことができるのではないか?と考えている。

4.日本が元気になる

都会と地方が同時に元気になることで、日本全体がもっと元気になるのではないかと考えている。

日本の未来については、高齢化や財政面での不安など、さまざまな不安を持っている人も多いと思うのだが、おそらくちょっとした工夫でまたもう一度成長軌道に載せることはそれほど難しくはないかもしれないのではないかと考えている。


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