中性漫画家Aの病態に関する考察①
■まえがき
自らを中性、半陰陽、両性具有、染色体が中間などと称し、LGBTQIA+の"I"の立場からセクシャルマイノリティの人々を描いた漫画で有名となったAという人物がいる。Aは女性として生を受けたが、30歳時にターナー症候群と呼ばれる染色体異常が判明した。時を同じくして男性ホルモン注射と縮胸手術を受け、以降現在に至るまで戸籍以外は男性として暮らしている。
そして筆者である私もまた、Aと同じターナー症候群である。AについてWikipediaで調べたところ、そこに記載されている160cmという身長の高さに疑問を持った。遺伝性疾患情報専門メディアである遺伝性疾患プラス - QLifeによると、ターナー症候群であれば99〜80%の確率で低身長となる。未治療者の最終身長については、日本内分泌学会の情報によると平均138cm前後とされている。幼少期から成長ホルモンによる治療を行った症例であっても、最終身長が160cmにまで到達することは不可能である。これについては主治医に電話にて確認を行った。なお、私自身は13歳から15歳まで成長ホルモン療法を行っており、最終身長は140cmである。
当記事の目的はAのターナー症候群、もしくはその他の性分化疾患であるという主張の検討を行うことである。検討には主に本人の著書を用いることとし、原則として引用元を直接確認できる情報のみ扱う。インターセックスという表現が不適当である可能性が高い場合は読者への周知はもとより、正式な診断書及び担当医の説明を要求する根拠としたい。
■本記事で取り扱う内容
本記事では主にAが著書内で述べている身体状態について、情報とその出典を確認していく。作品本編の画像引用については枚数が過剰となるため、本記事においては行わないこととする。
■本記事の概要
Aの幼少期は体格の良い子供であり、最終身長も女性の平均を上回る160cmである
8歳で初経を認め、思春期早発症の既往があることが30歳時に判明した
完全に女性として暮らしていたが身体が男性化し始め、30歳時に受けた染色体検査の前後で男性ホルモン注射と縮胸手術により男性化している
身体の男性化は高校生の頃から起こり、風俗勤務期間の女性化を経て30歳で再び男性化したとされている
主訴は月経不順、無排卵であること、膣の狭窄、男性ホルモンが女性の10倍で男性化していることである
染色体検査の結果はターナー症候群であったとの記述があるが、男性化については副腎の機能異常もしくは停留精巣が疑われている
具体的な病名の記載があるものは全て古い書籍であり、現在では単なるX染色体長腕の欠失だけではなく、XY女性の可能性も示唆されている
性分化疾患の診断書はなく、染色体異常の検査結果はある
性自認は男性に近く、性ホルモンの状態により身体が男性化したり女性化したりすると感じている
現在も女性器を持ち、女性ホルモン量が増えれば月経が戻りうる身体である
■情報と出典一覧
◆基本的な情報について
身長は160cmである[カムアウト―胸取っちゃった日記 p.176 より]
生年月日は1971年4月17日である[カムアウト―胸取っちゃった日記 p.176 より]
かつてのペンネームはCHACOであった[性別が、ない！ (2) (ぶんか社コミックス) p.42 より]
女性としての戸籍[性別が、ない！ (2) (ぶんか社コミックス) p.130 より]、女性名[性別が、ない！ (2) (ぶんか社コミックス) p.50 より]と女性の身体を持ち[性別が、ない！ (4) (ぶんか社コミックス) p.10 より]、女性としての二次性徴があった[「性別が、ない！」人の夜の事件簿in Deep (本当にあった笑える話) p.38 より]人物である
性分化疾患の診断書は無いが、染色体異常の診断書は出ている[性同一性障害30人のカミングアウト p.244 より]
◆染色体検査に至る経緯について
幼少期は思春期早発症と半陰陽のせいで、ひたすらデカくてゴツかった[性別が、ない！ (3) (ぶんか社コミックス) p.137 より]
性自認はどちらかというと男[性別が、ない！ (2) 性別が、ない! (ぶんか社コミックス) p.14 より]で、乳房が嫌だった[性同一性障害30人のカミングアウト p.249 より]
身体は時期によって男性化したり女性化したりしている[性別が、ない！ (5) (ぶんか社コミックス) p.61 より]
高校の頃に男性化していった[性別が、ない！ (4) (ぶんか社コミックス) p.25 より]とも30歳の時に急速に男性化していった[中性風呂へようこそ！ (アクションコミックス) p.10 より]とも書かれているが、20代の頃は風俗で働いていた影響で一旦女性化していたとされる[性同一性障害30人のカミングアウト p.247-249 より]
無排卵で[中性風呂へようこそ！ (アクションコミックス) p.4 より]、男性ホルモン値が女性の10倍だった[性別が、ない！ (2) (ぶんか社コミックス) p.138 より]ため、内分泌科[TwitterのDMにて本人より]にて30歳時に染色体検査を行った[中性風呂へようこそ！ (アクションコミックス) p.10 より]
検査結果を確認する前に男性ホルモン注射と縮胸手術を行っている[性別が、ない！ (2) (ぶんか社コミックス) p.139 より]
男性ホルモン注射の時期は著書によって異なり、内分泌科での検査前[カムアウト―胸取っちゃった日記 p.18-20 より]とも検査後[性同一性障害30人のカミングアウト p.250 より]ともされている
◆病歴や受診遍歴について
小学校二年生で初経を認め、三年生では大人なみの体格になっており、四年生では乳房がDカップであった[性同一性障害30人のカミングアウト p.245 より]
FtMである友人の勧めで受診した心療内科で性分化疾患の可能性を示唆され、内分泌科にて染色体や性ホルモンの検査を受ける[性同一性障害30人のカミングアウト p.248 より]
同時期に月経について、基礎体温が二層でないことや日数が短く不規則である[カムアウト―胸取っちゃった日記 p.16 より]ことから婦人科を受診している[性同一性障害30人のカミングアウト p.248 より]
結果を待つ間に男性ホルモン注射に興味を持ち軽い気持ちで打ったが、通常の女性よりも劇的に変化し後戻りできない外見となったため、美容外科にて縮胸手術も行った[性同一性障害30人のカミングアウト p.249 より]
染色体検査の結果は45Xモノソミーで染色体異常が認められたが、ターナー症候群の症状が無いため詳細は調査中とされている[カムアウト―胸取っちゃった日記 p.148 より]
思春期早発症であったことはその時の検査結果にて同時に判明している[性同一性障害30人のカミングアウト p.245 より]
その後の書籍には"46X0"(46Xモノソミーの意)のターナー症候群と記されている[性同一性障害30人のカミングアウト p.250 より]
2021年現在、Wikipediaにもターナー症候群であると明記されている
性別が、ない！に代表される新しい著書には半陰陽[性別が、ない！ (1) (ぶんか社コミックス) p.3 より]、両性具有[性別が、ない！ (3) (ぶんか社コミックス) p.8 より]、染色体が中間[性別が、ない！ (2) (ぶんか社コミックス) p.138 より]などと記載があり、一貫して根拠となる性分化疾患の病名は記載されていない
2021年12月22日時点の説明ではXが1本と、もう一方についてはXかYか不明なものが"上部分のみ存在する"状態とのこと[TwitterのDMにて本人より]
ターナー症候群では過剰に男性ホルモンが分泌される理由の説明はできないが、その点については副腎の機能異常や精巣の存在が示唆されている[性同一性障害30人のカミングアウト p.250 より]
その後の著書において、精巣の存在は否定されている[性別が、ない！ (2) (ぶんか社コミックス) p.47 より]
検査結果として思春期早発症と、それに伴い成長ホルモン過多であったことが指摘されている[性同一性障害30人のカミングアウト p.246 より]
◆身体状態について
中学生の頃は全く男性化しておらず、中学二年生で初めての男性経験があった[性同一性障害30人のカミングアウト p.246 より]
高校二年生の頃[性別が、ない！ (3) (ぶんか社コミックス) p.138 より]より陰核が肥大化、体毛が濃くなり、筋肉も発達し女性に対して性欲を抱いた[性同一性障害30人のカミングアウト p.246 より]
現在月経は止まっている[Twitter(2015/09/10投稿)]が、プラセンタを打つと再開する可能性がある[学校では教えてくれない「セクマイ」の話 p.88 より]
肥大化した陰核[「性別が、ない！」人たちの保健体育 (本当にあった笑える話) p.110 より]と小型の子宮を持ち[オレの周りの“性別が、ない！”人たち～新井祥のセクマイ交友録～ (ぶんか社コミックス) p.94 より]、子宮がん検診も受診[「性別が、ない！」人たちの保健体育 (本当にあった笑える話) p.61 より]している
膣は狭窄しており性交渉の度に千切れていた[カムアウト―胸取っちゃった日記 p.126 より]が、2018年時点では通常サイズの膣鏡が使用できる[学校では教えてくれない「セクマイ」の話 p.134 より]
前立腺の存在についても言及がある[カムアウト―胸取っちゃった日記 p.137 より]
■あとがき
Aの著書について、そもそも性分化疾患は性的少数者とは何ら関係がないという当事者の見解を述べておきたい。トランスジェンダーやXジェンダーとは全く異なり、一般的な男女として日常生活を送っているケースが私を含め大半である。中性を自称するAの性自認はXジェンダーやノンバイナリーが近いと考えられるが、Aが何らかの性分化疾患であるか否か、といった話と性自認については無関係であるということは明記しておくべきであろう。
またどの性分化疾患も単なる病気の一つであり、中性的になれるものでも性別を不明瞭にするものでもない。Aの著書では全体的に、性分化疾患に対する誤解を招きかねない表現が多用されている事実は指摘しておきたい。
Aに救われた性的少数者の存在もまた事実であろう、ということは著書から推察できる。インターセックスとしての活動にこだわらずとも、その自由闊達な人柄でこれからも多くの性的少数者にとっての翼となれるだろう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか？