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沐浴担当大臣の失脚

 人間、誰にでも得手不得手があって、我が家の場合、妻は書類仕事や行政関係の調べ物(助成金申請や保育園情報など)にめっぽう強いが、手先を使うこと(耳鼻の掃除、爪切りなど)は僕の方が得意だ。そういうわけで、沐浴はポンが産まれてからずっと僕の担当である。
 産前のパパママ学級で沐浴練習をしたときも、新生児室で初めて沐浴をしたときも、助産師さんに「上手ですね、初めてとは思えません!」と褒めてもらって気を良くしたこともあって、自宅でも意気揚々と沐浴を続けていた。

 ポンは沐浴をするといつもご機嫌で、温泉につかっているかの如く、満足げな表情をするので、我が家では沐浴のことを東京都水道局源泉掛け流しの湯と呼んでいる。
 「源泉掛け流しの湯ですよ〜(笑)、温かいね〜」と話しかけているといつもにっこり笑ってくれる。
 2週間くらい続けていると要領よくできるようになってきて、洗い残ししやすい、首元、脇、陰唇部などは入念に洗って、かつ手早くできるようになってきた。沐浴は自家薬籠中の物にし得たりと妻や友人に自慢するほどであった。
 
 時は少し流れて、生後2ヶ月になる頃、区の助成を使って数日間産後ケア施設にお世話になり、久しぶりに助産師さんに沐浴をしてもらう機会があった。
 産後ケア施設初日の沐浴時のこと。
助産師さん「うーん、結構垢が溜まってますね。足の甲のところはかなり垢がありますねー。(ゴシゴシゴシ)ほら。」
 「。。。」
 擦るとどんどん垢が出てくる。
 「あと眉のところもかなりこびりついてます。これは1日だと難しいかも。明日もゴシゴシしましょう。」
 「。。。」
 「沐浴は誰がしているんですか?」
 「。。。夫です。」

 というわけでこの日、僕の沐浴担当者としての権威は失墜した。足の甲はつるつるだったので軽くお湯をかけるだけだった。まさかミルフィーユのように2ヶ月分の垢が積み重なっていたとは!眉のところもそんなに垢が溜まっていたとは。確かに少し茶色ぽい眉だなとは思っていたけれど、あれは垢だったのか!
 その後、僕は不遜にも沐浴が得意だと思っていた態度を悔い改めた。何重にも襞になっているところはもちろんのこと、足の甲や眉も入念に洗わないといけないことを学んだ僕は、失った名誉の回復のため今日も時間をかけて丁寧にポンの体を洗っている。


 


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