見出し画像

写真はハワイですが

ゆんさま:

はじめて太字+センタリング使ったのそこかよ・・・・・・。


・・・


そうですか、体調を崩されていたとのこと、まことにおつかれさまです。お互い自分の体を大切にしましょう。

ぼくの9月は何をしてましたっけ。

いくつか異なるタイプの仕事をしたので、エゴサ(もしくは「病理医」で検索)するとだいたいほめられていたのですが、ほめられているときには必ずといっていいほど「エゴサしているぼくをへこませるためにわざわざ名指しで悪口をいう人」が出てきます。人生ですね。


・・・


ぼくは元来、分析が好きなのだが、分析にはいくつかのタイプがあるように思う。

1.自分が味わったモノを、頭の中にある複数の引き出しのどれに入れたら一番しっくりくるか考えるタイプの分析

2.自分が味わったモノを、個々の要素に分解して、バラバラに砕いていって、ひとつひとつをゆっくり眺めるタイプの分析

前者は、脳の解像度を意図的に下げることで、対象を近似的に項目わけする作業だ。ロングショットの分類思考。

後者は、脳の解像度をどんどん上げることで、細部の意匠にこだわって追究する作業である。ズームアップの顕微鏡観察。

人間、どちらかいっぽうだけの手段でモノを分析しようとすることはなくて、たいていの場合、両方を行ったり来たりしながら、対象を丁寧に解析していく。病理医なんてのも、まさにそういう仕事をしている。


あえて2つを分けてしまったが、これらの分析に共通する点がある。それはずばり、「サイエンスが持つ気質」と言ってもいいかもしれない。

これらの分析方法は、視点の高さ・画角の広さは違うが、いずれも、究極的には「どのように(how)」をしらべる作業だ。

どういうメカニズムでそれが成り立っているのか。

どのような効果を周りに及ぼすものなのか。

我々はそれをどのように扱えばよいか。

ぜんぶ、雑にまとめると、howに対する答えである。サイエンスが解き明かすのは、howなのだ。


小さな子どもが問いかける。なぜ夕焼けは赤いの?

すると大人は答える。それはね、光が長い距離を進んで、空気中にある水滴に当たって、このように、光が散乱して・・・・・・。

大人は、子どもの質問にサイエンティフィックに答えるために、夕焼けがどのようなカスケードの末に起こった現象なのかを丁寧に解説する。これはまさにhowに対する回答だ。

最近思う。ぼくら科学の子は、howに対しての答えばかり用意するようになってしまった。

子どもがたずねたいのは、本当は「why」のほうかもしれない。

「なぜ夕焼けは赤いの?」という質問の裏には、言語化されていないだけで、

「ぼくは今この夕焼けの赤いのをみて、なぜこんな気持ちになっているんだろう。いったい誰が何の理由で、夕焼けをこんなにきれいにしてくれたんだろう」

という意味が隠されているかも知れない。

大人は、夕焼けが赤い理由をwhyで聞かれても困るから、howで読み替えて答えてしまう。

the reasonを聞かれても困るから、the wayを答えてしまう。



「よほど食欲が落ちていたのかな,薬で味覚が変化していたのかもしれない,それかおいしくない西瓜にあたったか……あるいは自身の今後がわからないことへの不安や苛立ちがそうさせた可能性も……」

……そんなふうに思い出を分析して「ただしい」「わるい」「しかたない」と整理して仕舞い直したなら,この悲しみも和らぐ気がします。


あなたの書いた文章にはhowとwhyとが渾然一体となっている。

ぼくは、すかさず思った。「きっと薬で味覚が変化していたんだろうな」って。これはpathwayだ。あなたのお祖母さんの、行動のreasonに答えた質問ではない。

もしかしてぼくは、そして多くの医者は、howにばかり答えていて、whyに答えるだけの準備ができていないのだろうか?

あなたの手紙を読みながら、そして傍らにおいた『急に具合が悪くなる』(晶文社)の表紙を見返しながら、そんなことをふわふわと思った。


「つらいことはできるだけ避けたい」と願いながら,悲しい思い出を手放そうとしない,この一見矛盾する心の動きに,何かヒントがあるのかもという気がしているのです。


心が矛盾するのはなぜか。Howに対しては答えを持っている。でも語るまい。

心が矛盾するのはなぜ(why)か?

もうちょっとぼくはwhyにまっすぐ向き合ったほうがいいのかもしれないなあ。



最近ずっと誰かのhow質問にばかり答えてきた気がする。画像・病理対比について。病理診断報告書の書き方について。医療情報発信について。コミュニケーション・エラーについて。

ふと、今、whyで何かを投げかけてもらいたいなと思いました。なにこれぼく思春期かなにかなの?


(2019.10.16 第4セクター市原→西野)