見出し画像

竹刀の表は手のひら、裏は手の甲

にしのし


いつもであれば、「内地はいいですね、こちら、春はまだ先です」とお返事を書いているであろう、4月2日。残雪があってなんぼの新年度ですが。

外はとてもうららかです。今朝の気温は3度だったんですけど、日中は12度くらいまで上がりそう。そしてなにより、雪がもうないんです。

今年はもしかして、もしかすると、桜がゴールデンウィーク前に咲くんじゃないかなあ。それくらい、ものすごい勢いで雪が解けました。過去に経験したことのない潔さ。

つい先日も、タイムラインに「北海道で日本酒づくりが盛ん!」などという話題を目にしました。酒造好適米を作れる北限がどんどん上がっているんですよね。いや、まあ、そう簡単なものではないと知ってはいるのですけれど、誰もが口に出さないまでも、「これが温暖化かあ……」と、ひそかに納得していたりもするのです。


**


手紙のなかに、ファイナルファンタジー(FF)シリーズの「おもいだす」が出てきて、「おもいだす、って誰のアビリティだっけな」と思い出すのに苦労した。

使うのは……テラ、だったかな。第4作目。かつての大魔導師・テラは、年齢のために魔法をほとんど忘れている(だからレベルが低くなっている)という設定だった。違ったっけ。

……「おもいだす」が思い出せない、という循環に苦笑する。たしかにこのアビリティ、ギャンブルであろうな。



人間は、記憶というアビリティを手に入れることで時間を操作できるようになった。

脳のあるイキモノは、単細胞生物とは違って、外から何かの刺激がやってきたときに、すぐに反応する(例:細胞膜をたわませる、鞭毛を震わせる、浸透圧の差から逃げ出す)必要はない。「アビリティ:きおく」を用いて、やってきた刺激をいったん受け止めて、考える。覚えておいて、いずれここぞという時が来たらその情報を使う。

こうして時間を操作する。強力だ。

ただし、「時間を操作する」ということは、ある種の暴力性を秘めている。そもそも「○○を操作できる」はすべて黒魔法系だ。

人が何かを操作するということは、「人が、モノを、自在に動かす」だけでは留まらない。何かを操作することで、主体にも影響が跳ね返ってくる。主体と客体は上意下達の関係ではなく、互いに浸潤しあう関係である。

私たちは時間を操作して行動の自由度を上げているつもりでいるが、このとき同時に、時間の侵略を受けている。

だからだろうか。

記憶という最重要アビリティは、忘却というスキルとセットになっている。

記憶は黒魔法、忘却は白魔法。

我々は、忘却というスキルを使って、記憶から、時間から、開放される必要があるのだと思う。行動の自由を得るために、精神にぶら下がっていく重り袋がある。忘却はその重りを解き放って、気球を再び高く舞い上がらせる効果がある。



ああ、うん、「おもいだす」からの連想をつなげただけなんだけれど、いつの間にか、「何かに触れるとき、何かに触れ返される」という関係について書いている。偶然か、蓋然か、これもあなたが最後にふれていた、触感の話だね。

まだまだ書けそうですが、今日はこのへんにしておきます。



「ハンガーの話」から真っ先に思い出すのは金八先生より古い「刑事物語」なんですよ。おかしいな、「スキル:ぼうきゃく」が仕事していない。別にそんなの思い出さなくていいのに。剣道の竹刀の話でもすればよかった。ぼくは18年かけて手にしみ込ませた束の感触を忘れかけている。


(2021.4.2 市原→西野)