医の中の蛙(4) グラデーションの霧の中に立つ
▼前回記事
ナオちゃん「そうですね……」
(※この動画リンクは、クリックするとちょうど中島ナオさんの「そうですね」の後から再生できます)
ナオちゃん「私は31歳のときにがんを患ったんですけれども、そこから常に何かしらの治療を、ずっと受け続けてきた生活で……そういうのがなければ、『今』はほんとうになかったな、って」
ヤンデル「ふむ」
ナオちゃん「経験したくなかったことも、山のようにありますけれども」
ヤンデル(うなずきすぎて首がはずれる)
ナオちゃん「deleteCの活動の中で大事にしている言葉があります。
あかるく・かるく・やわらかく」
ヤンデル「あかるく・かるく・やわらかく」
ヤンデル「あかるく、はわかりやすいですが、かるく、やわらかく、なんですね」
ナオちゃん「ええ。自分ががんになってみて感じたのが、もう、全ッ然大丈夫じゃないじゃん、っていう」
ヤンデル「あああー(反る)」
ナオちゃん「さらにメディアで描かれているがん患者の様子や、がん患者について書かれている物語をみると、本当に、暗くて、重くて、硬い内容ばっかりだったんですよ」
ほむ(丁寧にうなずく)
ナオちゃん「でも……実際にはもっといろんな面があることも事実で。これ、もっと『更新』していけないかな……と」
*
今、中島さんの言葉を文字おこししたものをぼくは見ながら、でも実際にはZoomの画面上で見ていたときにはもっと複雑な、入り交じった印象を受けたんだよな、ということを、ふと思った。
なんだろう。心がちりちりする。
そしたら次の瞬間、画面の中でぼくが、今日のぼくの「引っかかり」に対応する言葉を、まさに言ったのだ。
それを自分で聞いてぼくは、「お前(俺)、なかなかやるじゃないか」と自分をいきなり褒めた。
そうだよ。そうなんだよ。
ヤンデル「今中島さんのしゃべられる言葉を聞いていて、慎重なようで大胆で、誰も傷つけないような配慮があり、そして、単にネアカで(苦しいことを)忘れているだけってわけでもない、すごいバランスを取られているなあ……と」
ぼくが生の声を聞きながら何を感じていたか。
中島ナオさんは、「あかるく・かるく・やわらかく」と言うことで、暗く、重く、硬いことを忘れようとしているわけではない、ということ。
その両者を単にまぜてわからなくしちゃうとか、ネアカにパーンと忘れ去ってしまうとか、そういったことではなく、なんというか、世の中における語られ方、考えられ方を、
「更新したい」
という言葉を使った。ぼくはこれにぐっときたのだ。
彼女は、がん患者の体験するものごとの「両義性」を背負おうとしている。
単純ではないものを、安易に近似しないように気を配りながら、
こぼさず丁寧に伝えるために、言葉を、語彙を、まさに更新し続けてきた。
だったらもっと聞こう。もっと聞くんだ。
ヤンデル「先ほどの小国さんからのお話であった、MDアンダーソンキャンサーセンターの名刺……そこからdeleteCの活動をはじめたというあれ……何か、きっかけみたいなものがあったのですか?」
ナオちゃん「ああ、あの名刺。あれMDアンダーソンの上野直人先生の名刺なんですけども」
けいゆう「めっちゃ有名な方ですね」
ナオちゃん「あれをいただいたきっかけは……えーと、私の手術を担当してくれた主治医がいてですね。半年に1年とかのペースで会うんですけれど――――」
***
ナオちゃん「がん患者の『今』を支える取り組み、たとえばQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を保つような取り組みはありました。私もいくつか携わっていますし。『今』を過ごしやすくすることはわりとできるんです。けれども、自分の『この先』のこと、『未来』のことに目を向けると」
ヤンデル「ふむ」
ナオちゃん「やっぱりがんというのはまだまだ治せない病気であって。できれば、(未来に向かう)ベクトルを変えていくような取り組みを、社会の中で見てみたい! という思いが、何年間かずっとありました。いろんな人に話を聞きにいってみたりもした」
ほむ「ほむ」
ナオちゃん「がんが転移して2年が経過したころ……今ここで動き出さないと、私はきっと後悔する、と思えたんです。そのような取り組みを社会の中で見てみたいけれど、こうして待っていてもはじまらないものなんじゃないかな、ってことも、いろんな人から話を聞く中で思って」
ヤンデル(ああ……)
ナオちゃん「その日、主治医に話をしたんです。外来でときおり会う外科医に」
ヤンデル「ふむ」
ナオちゃん「そしたらその外科医(主治医)が……」
外科医「その気持ちを応援したい。」
けいゆう(深くうなずく)
ヤンデル(まあそう言うだろうな、いい医者なら)
外科医「そういえばちょうど、会わせたい人がいる」
けいゆう「えっ」
ヤンデル「えっ」
ほむ「まさか……」
ナオちゃん「その日、私の診察は最後のほうだったんですけど……今日の外来が終わったら、たまたま来日しているMDアンダーソンの上野先生に引き合わせてあげるよって」
ヤンデル「えええええええええええ」
外科医「今日、外来が終わったら上野先生とお茶をする予定になってまして……」
けいゆう(こみ上げてくる笑みをおさえきれない)
ヤンデル「えっ、そ、な、それがきっかけなんですかあ!!?」
(↑動揺してYouTubeの音声自動認識AIが聞き取れない声でおどろくぼく)
ヤンデル「そ、そんな、たまたまですか?」
ナオちゃん「そうなんです、たまたま上野先生が来日していて、たまたま私が通っていた病院に来ていたっていう……」
ヤンデル「ぎえええっ」
ナオちゃん「そして……その日、私はたまたま、主治医の外来の、最後から2番目の患者だったんですね」
ヤンデル「おお」
ナオちゃん「なので、最後の患者さんが診察されている30分だけ、上野先生と直接ふたりでお話することができて……」
ヤンデル「ふおおっ、そうか、最後じゃなかったから、えっ逆に、逆にふたりで……」
ナオちゃん「そう、逆にふたりで」
けいゆう(いや逆にの使い方おかしいやろ)(という顔)
ナオちゃん「そこではじめまして……と名刺をいただいて、自己紹介をして、日本でこういうことをやってみたいと思うんですけれど、どう思いますかねえ、とか……」
ヤンデル(おお……)
ナオちゃん「すごく必要だと思うし応援するよって、なんかアメリカの先生に言ってもらえたんだったら、それはもう」
ナオちゃん「がんばっていいんじゃないかなって」
*
けいゆう「MDアンダーソンの上野先生は、超有名人ですよね……Cancer Xの立役者でもある」
けいゆう「さまざまな活動を裏でサポートしてる方なんですけど……今のナオさんのお話はぜんぜん知らなかったんで、もう衝撃を受けているところですね……」
けいゆう「あとナオさんの話をおうかがいしていてひとつ思ったんですけど」
ヤンデル(こいついつの間にか下の名前で呼んでやがる……! ちきしょう俺もnoteでは下の名前で書いてやるからな……!)
(つづく)
▼次回記事