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さよなら、ブラック・ジャック(7)やさしさから始まるイエーイ


こちらの記事(↓)の続きになります。




大塚「幡野さんは、患者側からできることってなんだろう、ということを、よくおっしゃいますね」

幡野「そうですね……確かにそういう話をしてます。逆に、お医者さんは『医者が悪い』と言いますね。
ぼくは患者側なので、どうしても『患者が悪い』と思っちゃう。医療におけるコミュニケーションエラーって、わりと医療者側が責められがちだけど、ぼくは……なんか、患者側も悪いんじゃないかなと……だって、コミュニケーションって双方向ですから。」

大塚(うなずく)

幡野「患者側にもやっぱり問題があって……」

ぼく(……)

幡野「………」

ぼく(……)

幡野「相手の立場を考えること……医療者とか……医者やコメディカル……さらには患者の家族、親族、友人、それぞれの立場から考えることが大切……」

ぼく(一瞬で複数の視点を俯瞰した……)

幡野「……その上で、いろいろ汲んだ上で問題が見えてくるんで、やっぱり、患者側にも往々にして問題があるんじゃないか。」

ぼく(うわぁーすげえ、たった4秒くらいで、いったん俯瞰して、その上でもう一度患者目線に戻ってきた。思考が緻密だ)

大塚(深くうなずきながら幡野さんの顔をみる)


・・・


幡野「ちょうど2年前の今頃。はじめて入院したんですよ。病気がわかって。」

ぼく「はい」

幡野「担当医の一人がぼくと同年代くらい。それともう一人、やっぱり同年代くらいの看護師がいて。ぼくを入れて3人で、病気の話とは関係ない話題で、会話してたんですよ。雑談をね。わりとゲラゲラと、笑い合うかんじで。そしたら、周りにいた別の患者に、すっげー怒鳴られたんですよ。『うるせーぞ!!』って。」

ぼく「あー」

幡野「まあ、3人で、謝りますよね。医者も看護師もぼくも。すみませんって。……で、そのあとどうなるかっていうと、ぼくはともかく、医者や看護師は、なんとなく萎縮しちゃって、病棟で患者と雑談とか、しにくくなるんですよね。結局それっきり、雑談する機会はなくなっちゃったんです。」

大塚(ゆっくりと視線を回しながら、自分の経験をなぞるようなそぶりを見せる)

幡野「だって、周りの患者に怒られちゃうから。」

ぼく(頭のミ〇キーの耳がとれそうなくらいうなずく)

幡野「一度そういうことがあると、ドクターも、看護師さんも、新たにはじめましての患者が来た時に、『また地雷踏むかもしれない……』と思ったらね、やっぱ雑談は遠慮しちゃいますよ。……そういう事例をみると、患者が医療コミュニケーションエラーの元凶になってることもあるなーって思っちゃう。患者サイドのそういう態度が、医療側をイライラさせたり、なにかうまくいかなくなることにもつながったり……そういうことをね、2年前の今頃、ぼくはすごく感じたんです。」

ぼく(断絶だなあ……)

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・・・


幡野「で、その2年前のことですけど、苦手なスタッフが一人いたんですよ。」

ぼく「ほうほう」

幡野「なんかぼく嫌われてたと思うんですよね」

ぼく「ほう(笑)」

幡野「入院してるのに、パソコンとかバカスカ打ってるし、やけに写真とか撮ってるし、」

会場(ははぁー)(なぞの納得)

幡野「なんだこいつ、って思われてたんでしょうね。で、そのスタッフに、ちょっとしたいやがらせ的なことをされたんですね。」

ぼく(うーむ……)

幡野「参ったな……と思って、この人のことを怒ってもいいだろうし、誰かほかの人に告げ口してもいいんだろうけれど……」

大塚(ゆっくりうなずく)

幡野「……そこでぼく、その人のことを、めちゃくちゃほめたんですよ。」

ぼく「ん」

大塚「ん」

幡野「ほめた。

大塚「ほう?

幡野「といっても、直接その人に、『よくやってくれてますねー』みたいに声をかけたわけじゃなくて……別の看護師とか、ドクターとか、周りのスタッフに」

会場(……あー(笑))

幡野「周りにいる別の人間に、『あの〇〇さん、すげぇいい人で、よくやってくれて……』って言いまくったんですよ。」

会場(くすくす笑い始める)

幡野「看護助手さんとかにも、あの人すごいですよねってほめまくった。そしたら、いやがらせがピタッととまった。」

会場(笑)

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幡野「そりゃそーだよね。自分のことほめてくれるんだもん。職場の評価があがる。そんな人にわざわざいやがらせ……しないですよ。」

ぼく(おお……)

幡野「そのとき、やさしさみたいなもので、好循環がはじまるんだなーって、思った。」


大塚(スッと背筋を伸ばす)


ぼく(そりすぎてソリになる)


幡野「悪循環で、患者も、家族も、医療者も苦しむと思うけれど、どこかでやさしさをはじめれば、たぶん好循環に入るんじゃないかなあ。実際、2年まえのぼくも、それで外泊許可までもらえたんですよ。」

会場(笑)


大塚「今のって、スキルの一つですよね。」

幡野(大塚のほうをみる)

大塚「やさしさから始まったスキルだと思うんですよ。」

幡野(「やさしさ」のところでぐっとうなずく)

ぼく「やさしさから始まったスキル!」

大塚「もちろん、スキルとかテクニックみたいなものが独り歩きしてしまうと、医者と患者がうまくやるためのライフハック、みたいになっちゃいますけど……でもそこに、『患者も医療者も、お互い病院の中で気持ちよく過ごしたい』っていう思いがあれば、すごくいいじゃないですか。」

幡野「今の話は病院に限らず職場とかでも役に立つでしょうね。職場の嫌な人のことを、周りに向かってほめる、みたいな。」

会場(笑)


ぼく「幡野さんが今おっしゃった、『周りの人に伝える』というスキル……」

幡野「はい」

ぼく「それ、幡野さんは、病院の中にもともとあったネットワークを強化して、やさしい声の総量を増やしたんですね。」

幡野「ああ、なるほど」

ぼく「幡野さんが今おっしゃったことが何よりすばらしいなあと思うのは、やろうと思えば誰にでもできそうだ、ということ」

幡野「そんなに難しいことじゃないですからね。」

ぼく「大塚や幡野さんがいうように、やさしさからはじめて、ネットワークに接続する、これができたら何かもう少し、見えてくるのかもしれないですね。……今日のテーマである『複数の視点』にうまくつながりつつある気もします。

……まあまだ残り時間がいっぱいあるんで、ここでまとめなくてもいいんですけれど!

(文中一部敬称略)(2019.12.21)


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