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さよなら、ブラック・ジャック(3)自分ごとにしてしまう医者

こちらの記事(↓)の続きになります。




ほむほむ先生が選んだエピソードはこちら。

(ほむ選エピソード:抜粋)
残念ながら流産してしまった妊婦。検査のときに医者が「うーん、今回はダメかもしれませんね」と言ったときの「あまりの軽さ」にショックを受けてしまう。
その後、手術を受けて、別の医者から「残念ですが、やはり稽留流産でした。」と言葉をかけられた。ところが、このときの印象は、最初の医者とは違ったのだという。
「『残念ですが』という言葉を聞けて、やっぱり悲しんでいいんだという何か許されるような、心が少し軽くなった気がした」
非常にわずかな言葉使いの差なのだが、受け止める患者の側には大きな違いがあった……。

「選考理由」をたずねられ、彼は、会場のスクリーンにこのような文章を映した。

医療者のひとことが、患者さんの気持ちを辛くしたり、軽くしたりする。その「ひとこと」は様々でしょうし、経験をいくら積んでもできるようになったという境地には達しないのだろうなあと考えました。

”境地” という言葉が印象的である。禅の世界を思わせる。

そして彼は、マイクを持って、付け加える。

ぼくはそこで笑ってしまった。なぜなら、スクリーンに映し出された文章を彼は読まないのだ。

スクリーンにあるのは彼が事前に提出した文章であり、立派な「選考理由」であるに違いない。しかし、今日の彼は、すでにその先を考えている

彼はとうとうと語り始めた。


ほむほむ「うちは家族に医者がいないんですよ。ですから、家族はみんな、患者目線です。家族が病院に行った日は、私に、病院であんなことを言われたとかこんなことを言われたと報告します(笑)。

そして、同じような会話はきっと、ぼくが担当した患者さんとその家族の間でも行われているんでしょう……


ぼくは司会役としてマイクを持って彼の横にいたのだが、このあたりで内心、「あっ」と思った。


「自分が担当した患者もこういう苦悩や安心を感じていたのだろうか」という問い。

これってすでに単なる患者目線じゃないよね?

今日のほむほむ先生は、選んだエピソードに、彼なりの医者の視点を混ぜてる。

ぼくはこのとき、ハウリングが激しいマイクの電源を切って腕を組んでいたのだが、彼の言葉にあわせてブンブンと首を縦に振っていた。

オープニングアクトからヘドバンである。全盛期のシドかよ。



患者と医者とは視点が異なるから、医者が何気なく放ったひとことに患者が傷つくこともある。

その「傷ついた患者」が医者の周りにはどれだけいるのだろう? 診察室を出てから、帰りの道すがら、あるいは家で家族と話す間、患者はどれだけの傷を感じているんだろう?

堀向はさらに、とどめとばかりに付け加えた。ここからの話が秀逸すぎて、ぼくは首がとれてしまった。

彼は小児科医だ。だから、診察室では子どもに対してとても気を配っているのだという。しかし、エピソードを通じて我が身を振り返った彼は、自らを省みて、こう言った。

「診察室にいた、親のことです。ぼくは親に対する心遣いがまだ足りなかったかもしれない。これからは診察の最後に、『親御さんもよく頑張ってくださいましたね』と伝えようと思います。この『ひとこと』があると、また何か変わるかもしれない。」

ぼくの首はパージしてリフトオフしてランチャー化してスイングバイしてしまった。


【さよなら、ブラック・ジャック(3)自分ごとにしてしまう医者】


大塚先生の選んだエピソードはこちら。

(おーつか選エピソード:抜粋)
主人公は入院中の患者。新人の看護師が自分を担当している。注射はへたくそで針はなかなか入らない。しかし、洗髪がとても上手だった。そのことをほめると、看護師は思わず涙ぐんでしまう。最初のうちはいろいろうまくいかなくてつらかったのだろう。
けれども誰もが最初は初心者だし、がん患者もある意味「がん医療については初心者」。お互い様だと思う。一生懸命やる姿に元気づけられた。将来、失敗していた日々のことを笑って振り返れたらいいね。


ぼくはもうこのエピソードを読んだ段階で早くも声が漏れているのである。

「あああああーーーーー、視線が複数あるエピソードを選んでる……」

エピソードの主人公は患者なのだが、この患者自身が、看護師目線に立って考えて、思ったことを記しているのだ。医療にさまざまな視点が存在することをわかっているのは医療者だけではない。当然患者だってわかっている


ぶっちゃけこのエピソードが表示されたときに、ぼくはもうこのイベント成功したな、終わった、と、宇宙空間をさまよう首の部分で考えていた。

大塚先生の「選考理由」。

こんな優しい言葉をかけてもらった新人看護婦さんは、
これから出会うたくさんの患者さんに優しい気持ちで接してくれるはず。
成長した看護婦さんの姿がみたいな、と思いました。

そうなんだよ。患者視点エピソードだけど、追いかけたい気持ちになるのは看護師のほうでもあるんだよね。

彼もまた付け加えた。大塚先生には第二部で幡野さんと斬り合う仕事があるのでここではあんまりしゃべらないと言っていたが、わりと普通にしゃべった


おーつか「応募されたメッセージはどれもよくて、選ぶのが難しかったです。」

ぼく(アッ選ばれなかった人のための目線だ! すげえ!)

おーつか「僕が医療で大事にしていることはなんだろう、と考えてエピソードを選ぼうと思いました。僕が誰のことをすごいと思っているか。それは、『やさしさ』を見せて下さる患者さんでした。」

ぼく(アッ患者視点なんだ! そうか! でも選考理由のところには一見看護師目線で書いてたように見えた……けど……?)

おーつか「つらい、苦しい、痛い、余裕がない状況で、なお、『やさしさ』を出せる人は強い人ですよね。」


ぼく(そうか……患者だけじゃないな。患者も、医療者もだ。これはやさしさの話なんだ。やさしさを持った様々な視点の人が絡んだところにあるエピソードを彼は選ぼうとしていて、これによって、医療現場にやさしさの総量が増えれば、それh)


おーつか「いや先生マイクでしゃべんないと会場に伝わらないよ(笑)」


ぼく「うるせえこのブルーライトメガネ! 会場目線まで持ち合わせやがって!!」


(長くなったのでけいゆう先生エピソードの話は次回にします)

(文中敬称略してない)(2019.12.17 第3話)


続き(↓)