騙しているのは【組織員26歳#1】

人を騙すのは中々難しい。
鏡の前で練習した笑顔を張り付け、大袈裟でわざとらしくない身振り手振りで説明し、ときには失敗談で親近感を感じさせる。いくら騙せそうなカモを見繕って客席に座らせても、人一人の前で演じきるのは中々むずかしい。

今日は一人‘仲間’が増えた。
つまりうまく騙すことができた。
良かった。最近は嬉さよりも安心感の方が心を満たす割合が多い。

会社の協力組織に入ってもう4年になる。組織員の中では古株だ。それなりに長い組織だが、入れ替わりが激しいため当時は8人程いた同期は自分含め2人になってしまった。


組織の活動内容は会社の商品の魅力をアピールし、利用者を増やし、その利用者に、また別の利用者を増やしてもらう。
ほんとに善い活動なのだが、以前、勧誘を断り不幸にも組織に入るチャンスを失ってしまった人からは、「ネズミ講なんかに入るわけないじゃん」と吐き捨てられた。

心外だ。ネズミ講なんかとはなんだ。なんかとは、こちとら誇りをもってネズミ講をやっているのだ。仲間を増やすためなら、ドブでもゴミ箱の中にでもカモを探しにいってやる。


「実際この活動は儲かるよ。大学時代の同期と比べれば2倍とはいかずとも、1.5倍は月収が多いですよ!」

とかなんとか言えば案外カモたちは興味をもって話を聞いてくれる。

ほんとは、同期の月収の半分もいかない。基本組織の活動は土日なので、平日のアルバイトで何とか生活をしのいでいる。

大丈夫だ。始めた頃よりは収入は増えている。このままつづけていけば、酒場のバイトに頼ることなく生活できるようになるだろう。それまでうまく騙していくだけだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?