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ラッパー【P-NOM】インタビュー “そして彼女はラッパーになった”

【男、男、男、男、たまに女子】
HIPHOPのパーティは、いい意味でも、悪い意味でも男くさい。

男性的なマッチョさ、ギラついた野心、ハングリーさと裏腹な女々しさがHIPHOPらしいと言えばそうなのだが、表現が男性に偏っているため、常々女性ラッパーが増えて欲しい。そうしたら表現に多様性が生まれ、パーティにも女性が増えるのにと思っていた。

最近では、性別を凌駕した活躍を見せる Awich、実力を兼ね備えたキュートさが人気の chelmico、女子会ノリで結成された Zoomgals(なみちえ、Marukido、ASOBOiSM、あっこゴリラ、valknee、田島ハルコ他)など活躍するアーティストが増えてきたが、まだまだ絶対数が少ないのが現状である。

そんな中、京都からまた1人のフィメールラッパーが現れた。
彼女の名前は P-NOM (ピーノム) 

みんなが思い描くラッパー像とは少し違う。HIPHOPファッションを身を染めている訳でなく、一般人と変わらぬルックス。人を引き寄せる親しみやすさとチャーミングさがある。

大学に進学し、正社員として働くOLだった彼女が、なぜラッパーとして生きる決断をしたのか。どのようにして1stアルバムまでリリースする事になったのか。その秘密に迫ったインタビュー。


P-NOM & BoNTCH SWiNGA/1stアルバム『HAPPY VERSE DAY』

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1.HBD
2.Go Ahead
3.ING
4.P Name Is
5.Desire (feat. MC frog)
6.skit
7.2020 (feat. MC玄武)
8.traveling
9.andante


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【P-NOMインタビュー】

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Photo by TOM ANDO


── P-NOMさんがどういうきっかけでラッパーになろうと思ったか気になります。まずは、HIPHOPとの出会いから教えて下さい。

中学の時にバンドをやっていた親戚のお姉ちゃんにRIP SLYMEを教えてもらい、高校でKICK THE CAN CREWを知りました。HIPHOPをガッツリ聴いていた訳ではなく、J-POPとか流行っているものを聴いていました。

でもHIPHOPは、恋愛とか友情でなく、自分の知らない世界を歌っていると思っていました。ドラムを聴いている感覚も他とは違うと感じていました。

── 好きなジャンルの一つぐらいの認識だったのですね。

高校卒業前ぐらいに、スポーツで知り合った先輩がスケーターだったので、「自分もスケボーやりたい!」って一緒に滑りながらスピーカーからHIPHOPを流してました。DJ機材を持っている人だったので、それで遊んだりしていましたね。

── その頃からラッパーになることを意識していたのですか?

いや、ラップって自分できるもんやとは思ってなくて。ただHIPHOPが好きで、スケボーを滑って、DJの機材が触れるぐらいの奴でしたね。

── まだラッパーにはたどり着かないですね。

大学に行って、頑張って就活してスポーツ関係の会社に就職しました。その頃、SNSが広まり出してサイファーの存在を知りました。ラップって普通の人でもできるんやってようやく分かりました。

編注)※サイファーとは、複数人が輪になって即興でラップをすること

京都でもサイファーがあったので早く行きたかったんですけど、そのタイミングで仕事が忙しくなり、新入社員だったので休めなくて。兵庫県から就職のために京都に来たので知り合いもいなくて、精神的にいっぱいいっぱいでした。

土日も仕事だったので、HIPHOPのイベントにも行けなかったんです。平日が休みだったので、車の中でUMBのMCバトルのDVDをよく見ていました。疲れていた時にラッパーの人たちを見たら、めっちゃ楽しそうで、自分もラップやりたいと思いました。



上司に「自分ラップやるんで、もう辞めます」って言って


── いつサイファーに行けるようになったのですか?

サイファーに行けたのが2016年の秋ですね。全然知らない人ばかりの中に突っ込んでいった感じです。

── サイファーに飛び込んで、いきなりラップできるものですか?

無知って怖いなと思うんですけど、10人ぐらいいて全員男の子で。すでに友達同士で繋がりができている中、誰も知り合いのいない変な女が入ってきて急にVerseを蹴りました(笑)

── すぐに受け入れられたのですか?

最初にいった梅小路サイファーはみんなラップを始めたてで、「僕も先週来たばっかりです」みたいな人ばかりでした。多分そこにベテランの人がいたら心が折れていたと思います。リーダーの人が親切だったので、Verseを蹴って「めちゃくちゃ楽しい」と思いました。

もう一つ、京都駅サイファーというものがあって、私が行った2016年末〜2017年頭ごろは、高校生ラップ選手権に出場し、2016年 京都UMB代表となったRACK君、2016年 滋賀UMB代表の君、2018年 UMB京都代表のBluek君、2017年 UMB鳥取代表のJAKEさんなどが不定期でいました。

── 名だたるラッパー達とサイファーしていたのですね。

思い返しても、凄いメンバーに出会えたと思っています。最初は怖くて、輪の中に入れませんでした!全くVerseを蹴れずに皆さんのラップを聴くだけの日も沢山ありました!

しばらくは1日1バース蹴れるのがやっとでしたが、先輩方が輪の中に入れて下さって、更にラップが好きになったのを覚えています!

── その時、どんな内容のラップしていたのか気になります?会社の不満とかでしょうか?

「私はラップが好きなんです」みたいな事を言ってたと思います。もう緊張しすぎて誰がいたとか、みんなの表情は憶えていますが、ラップの内容まで憶えてないですね。

── 必死さが伝わります(笑)

編注)2015年9月〜テレビ朝日『フリースタイルダンジョン』の放送され、MCバトルが注目を集めた時期。大会規模がどんどん大きくなり、サイファーが全国各地で行われるようになった。


── ステージに立つのはどれぐらいのタイミングですか?

サイファーの何人かが、だんだんLIVEをするようになっていました。「LIVEに来てや」と誘われるんですけど、相変わらず土日が仕事で行けなくて、ずっと羨ましいなと思っていて。

そんな思いがだんだん抑えきれなくて、正社員として入った会社だったんですけど、ここにいたらラップできへんわと思って仕事を辞めました。

── えらい思い切りましたね!普通はそう思っても、なかなか決断できないと思います。

決めたらすぐ行動するタイプなんで、上司に「自分ラップやるんで、もう辞めます」って言って(笑)

── 上司の方はどんな反応だったのですか?

ラップしてる事を言ってなかったので、ビックリしてたと言うか理解を超えてて、何も言うことがなかったみたいです(笑)

── そうでしょうね(笑)

仕事から解放されたんですけど、まだ自分の曲がなく、LIVEもやった事がなかったんで、2017年から"UMB"とか"戦極"、"ENTER"などのMCバトルの大会に出だしました。ステージに立ったら余計に楽しくなっちゃって、LIVEもしたいと思って曲を書き始めました。


── soundcloudに上がっているのもそこ頃の作品ですね。

ただ全然納得のいくものが作れなくて、そこから一年ぐらい曲を書いて、納得がいくものができたのでLIVEして、制作に入りました。

── 「楽しい」を続けていたら、1stアルバムの制作までしていた感じですか?

そうですね。ステージでも、ステージじゃなくても、ラップをするのが楽しいです。HIPHOP系のクラブでやるよりも、路上とかで、歩いてる人に聴いてもらいたい思いがあります。とにかくいろいろな所でやりたいです。

── HIPHOPのパーティーって男性が多いじゃないですか。女の人はどう感じるのですか?

初めてクラブに行った時、こんなに女性が少ないんやと思いました。でも、スポーツ関係の仕事をしてて、男性の中で行動すること多かったので違和感はなかったです。逆に私はそっちの方が良かったんかなって。

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Photo by TOM ANDO


「HIPHOPはこうあるべき」とこだわる人が多いですけど、私はそういう風にはしたくなくて


── 制作に話を戻します。今回のアルバムはP-NOM & BoNTCH SWiNGA名義になっています。プロデューサーのBoNTCH SWiNGAさんとはどのような出会いでしたか?

先輩の 山本ビンタ さんに2018年の滋賀のUMB予選に「遊びにおいでよ」と誘って頂いて、「行きます」って私もバトルにエントリーしたら一回戦でボロ負けだったんです。けど、「頑張ってたね」って声かけてくれたのがBoNTCH SWiNGAさんでした。ライブとかクルーでも様々な活動をされていたのを知っていたので嬉しかったです。

それがきっかけで2018年からBoNTCH SWiNGAさんの音源をちゃんと聴くようになって、音作りが私の好きなものが多かったです。けっこう色々なことに挑戦される方なんだというイメージを持ちました。

ラップをやっている人って、結構「HIPHOPはこうあるべき」とこだわりがある人が多くて。それはそれでカッコいいと思うんですけど、私はそういう風にはしたくなくて。何でもやりたいんです。

曲を作るなら、共感できる人に依頼したいなと思ってて。ただ単に仲がいいとか、一緒にいるからとかではなく、お互いリスペクトできる部分があってこそ、いい作品ができると思うのです。直感的に感じた部分もあったので、BoNTCH SWiNGAさんに楽曲を依頼しました。

── 制作時のエピソードはありますか?

初めてビートを送ってもらったのが、10月18日のちょうど私の誕生日で、リリースできたのも10月18日でした。

── アルバムタイトル『HAPPY VERSE DAY』に繋がる訳ですね。

偶然が重なってそうなりました。

── 実際にレコーティングしてみていかがでしたか?

もう好きって思えるビートを送ってもらえたので楽しかったです。私は曲を作る時、ビートを聴き込むんです。けど、何回も聴くうちにしんどくなる曲もあって。送ってもらったビートは何回でも聴けました。

── 直感は間違ってなかったと。

ただリリックを書くのに悩み過ぎて、時間がかかってしまいました。実際にやってみないと分からないタイプなんで。時間がかかった分、曲が身体の一部みたいな感じです

── アルバム配信と同時に、MV「ING」が公開されました。服装がHIPHOPっぽくなくて、どんなラッパーなんだろうと余計に興味がわきました。

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撮影とディレクターをしてくれたのが、京都のPay a.k.a wildpit¢h さんです。このビートを初めて聴いた時に思い浮かんだのが“赤”と“黒”やって、赤と黒の服を着たいと言ったんです。でも夜に撮影するので、黒は映らへんかもって言われて…

それでもどうしても着たくて、そこらじゅうに探しにいって反射するような質感の生地を見つけました。パスタが好きでパスタ柄なんです。パスタをフォークでグルグル巻くのも「ING」の動きやなって(笑)

撮影が終わった日の夜中にパスタを大盛り食べました(笑)

── そこにも意味があったんですね(笑)

「MVみたよ」って声かけられるんですけど、まだ誰もパスタに突っ込んでくれませんね(笑)

── アルバムにはM−⑤「Desire」にはMC frogさんが、M−⑦「2020」にはMC玄武さんが客演で参加されています。2人を選んだ理由はありますか?

先ほども言ったように、アルバムを作るなら価値観を共有した人がいいと思っていました。MC frogとは全然喋ったことなくて、急に私が依頼しました。


最初に会ったのが、2017年の『戦極 MC BATTLE』で、フィメールで出場してたのが私とMC frogだけで。ライブもイケてたので声をかけたんですけど、私が全然目立ってなかったから覚えてもらえなかったです。

内に秘めたものがありそうやなと気になってて、私が一方的にファンだったので。

── MC frogさんが低音ボイスで、P-NOMさんが高音ボイスなので、声質の違いから選ばれたのかと思っていました。

声質では選んでなかったんですけど、ラップの聴き心地がいいので、2人の声が合わさればいい感じになるんじゃないかと思っていました。

── “赤ちゃん婆ちゃん”のMC玄武さんを選ばれた理由は何でしょうか?

MC玄武 は、お婆ちゃんと一緒にクラブに来ている少年がおる、ヤバイ奴がおるって思いました。サイファーに来てくれたり、イベントでちょくちょく会うようになって、ソロLIVEが重なる時は2人でLIVEの練習をしてました。

話をしたら年相応ではないしっかりとした考えがあって、ときどき少年やなという考えもあって、そういう純粋さが好きで共感もできました。

── ジャケットについて伺います。M–⑦「2020」では“闇夜に食らいつき”というリリックがあり、アルバム全体として吠えてる狼のイメージなんですけど、右下に花が描かれていています。このバランスがP-NOMさんらしいと感じました。

ジャケットを手がけてくれたのは、70m(naomi)さんです。まだお会いしたことはないんですけど、SNS上でイラストを見たときに直感でスゴいなと思い声をかけました。

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花の部分は梅が描いてあって、私がお願いしました。なぜ梅かというと、最初にサイファーをしたのが梅小路公園で、そこでラッパーの私が生まれたようなものなので、アルバムタイトルにちなんで入れました。

狼に見えるのは実はシベリアンハスキーで、子供の頃に飼ってて相棒と呼べるぐらい仲が良かったのです。私が産まれた時に側にいてくれたのでジャケットにしました。

── アルバムのM–⑧「traveling」やM–⑨「anfante」では、P-NOMさんの華の部分が表現されていると思います。

狙った訳ではないんですけど、偶然一致したなと思います。

── これからの活動で、この華の部分がパッと開くような感じもしますし、シベリアンハスキーの牙が研ぎ澄まされる気もします。本人はどう感じていますか?

そうですよね、どっちも行きたいですけどね(笑) 今どっちのイメージもある状態なのかなと思っています。「traveling」「anfante」のような楽しい曲調も好きなんで。

Coolなラップをしようとか、かわいいラップをしようとか、そういったこだわりは全くなくて、その時の感情とか気分で作ってるんで、次はどっちが前に出るか分からないです。

── 本人も分からないと。

誰にも分からないという。次回を楽しみにしてもらえたら嬉しいです。




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HIPHOPを広めたい一心で執筆しています。とは言え、たまにこれを続ける意味があるのかと虚無感に襲われます。 このまま頑張れ!と思われた方、コーヒー1杯おごる感じでサポートお願いします。自信をつけさせて下さい。