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同種造血幹細胞移植時の防護環境

同種造血幹細胞移植時(前処置開始から生着まで)は防護環境内で生活することが一般的です。

防護環境は、昔は無菌室クリーンルームと呼ばれていました。部屋に入ってくる空気はHEPAフィルターで濾過され、室内は陽圧になっている部屋です。換気回数は1時間に12回以上となっています。

移植病院に造られている防護環境のレベルは100-10000クラス(FED.STD.209D)くらいかと思います。

100クラスは1立方フィートの中に浮遊してい0.5μm以上の微粒子が100個以内であることを表しています。

HEPAフィルターは、0.3 µmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率を有するそうです。

ちなみに微生物の大きさは以下のようになります。

真菌とはいわゆるカビのことですが、この真菌の胞子も2μm以上の大きさのようで、HEPAフィルターを通ることができません。

つまり、防護環境とは真菌を減らした部屋であるということになります。

基本的に空中に浮遊していて、移植後の免疫で感染を起こしうるものは真菌になります。防護環境は真菌感染を減らす目的で使用されています。

大きさからするとウイルスが入り込んでしまうと思われるかも知れませんが、基本的にウイルスが空気中をフワフワ飛んでいてそれを吸い込んで感染してしまうことはないので心配はいりません。

外からウイルスをもらうのは、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスのように飛沫を介して他人から移るか、ウイルスがついているところに触れてその手で口や目に触れるような場合です。

移植後によく問題となるサイトメガロウイルスはすでに感染して自分の中にあったものが増えてくるので、空気に乗ってどこからともなくやってきたわけではありません。

時々、防護環境から大部屋に移ったタイミングで熱が出て、大部屋に移ったせいだと言われる方がいらっしゃいますが、真菌感染でなければその可能性は低いと思われます。


海外の報告では、移植後100日がアスペルギルスという真菌の感染が最も多いタイミングになります。

これは、退院して病院より家の方が真菌が多いというのが一つの原因だと思われます。

では、家に空気清浄機を置いた方が良いのでしょうか。

空気清浄機にはHEPAフィルターが使用されているものがあり、確かに真菌の大きさならフィルターを通さないようです。

理論的に考えると、空気清浄機を使用すれば、空気清浄機から出てくる空気は真菌が減って、感染を減らしてくれそうです。

しかし、防護環境のように、小さな個室ではなく、陽圧室でもないため、HEPAフィルターで濾過された空気だけを吸って過ごすことは普通の家では困難かと考えます。

ですので、普通の家の片隅に空気清浄機を置いて、真菌感染まで減らせるのかは分かりません。

一般に販売されている空気清浄機で真菌感染が減るとの研究はなく、医学的根拠はありません。

減らせる可能性はあると思いますが、私の患者さんには特に勧めたりはしていません。

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