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足摺海底館の思い出

その建物との出会いは10年前に遡る。

「足摺り水族館」より

panpanya氏の「足摺り水族館」という本をご存知だろうか。サブカルに謎に憧れる学生だった私はふと本屋で見つけたその異質な表紙に惹かれて購入してしまう。何処かで見た/何処にもない風景。日常と非日常の境目を曖昧にして不安になりながらもどこか郷愁を覚える氏の作風は私の感性に大きく影響を与え、世界に対する視力を強めてくれたように感じている。それから私はp氏の世界観の虜になり、新刊購入はもちろんサイン会にも応募するほど心酔している。

京都アニメイトにて。宝物。

panpanya氏(以下p氏)の作品にはしばしばp氏が訪れた場所や経験したであろう出来事がモチーフとなって登場することがある。作中で主人公が辿り着いたような第二の京都タワーが本当にあるのだと思って地図で探したこともあるが、これは徒労に終わった。本のタイトルにもなっている「足摺り水族館」についてもしばらくは実在しない物だと思っていた。しかし本の中に出てくるあの赤と白の奇妙なデザインに心奪われ、いつかこの場所に行きたいとぼんやりと思っていた。思えば廃墟に対する興味が出てきたのもこの辺りだったと思う。足摺海底館は絶賛稼働中だが。

10年前に存在を知ったとはいえ、10年間全くチャンスがなかったわけではない。他の廃墟(軍艦島や友ヶ島等)には時々探訪していたし、資金面もスケジュール面も全く無理ということは無かった。毎年発行されるp氏の新刊を書店で手に取りながら、脳裏にはその度にあの建造物のフォルムが浮かんでいた。しかし足摺海底館を実際に目にすることで建物に対するプリミティブな思いというか、ずっと心の支えにしていた何かが終わってしまうような、そんな不安ただ一点のみで実行を先送りにしていたのだ。

そんな中、東京でpanpanya×kashmir×飯田孝(敬称略)の対談が行われるというニュースが届いた。

いや実際私が耳にしたのはだいぶ後になってからなのでニュースでもなんでもないんだけれど、対談の応募は既に締め切っていて一生に一度しかないチャンスを逃してしまった。panpanya×kashmir(敬称略)だよ!?何この組み合わせ!?本当に行きたかった…。

泣くだけ泣いた後、何かしらの形でpanpanya成分を補給しなければならないと思った私はついに先送りにしていた作戦をえいやっと決行する。10年経ったし、行けるうちに行っておこう。

行ってきました

この目で見る足摺海底館は異質でありながらも堂々としていて、竜串海岸の風景に溶け込んでいた。ずっと脳内の存在だったその姿を見た時、思わず息を呑んでしまった。私が来る来ないに関わらず50年(!)もの間そこにいたのに、ずっと私を待っていたかのように「おかえり」と言ってくれているような気すらした。普通に泣きそうだった。

美しい…

遠くから見ても近くで見ても美しい。前衛的でありながらレトロな趣を感じるフォルム。親切な受付スタッフから説明を受けると、館内はもちろん一人でじっくりと海の中を観察することができた。小雨も降っていて海の中は少し濁っていたけれど、色々な種類の魚が泳いでいる(というか流されている)様を観察することができた。特に水族館趣味があるわけではないけれど、ふむふむとわかったフリをしながら観察したり説明書きを読むのは好きだ。

海底館のグッズ Tシャツは残りわずかだとか

海底館→海洋館→海のギャラリー→竜串海岸と一通り見て周り、お土産も沢山購入した。一人で来てめっちゃ荷物持ってうろつろするオタク、さぞ奇妙に見えただろう。

番外・近くで見つけた竜宮城。元は博物館

廃墟・建造物・異界趣味へ目覚めさせてくれたpanpanya氏。そんなp氏のある意味代表的?な建物に、連載10周年の節目に訪れることが出来て良かった。電車移動中にp氏の本を読み直したりp氏特集のユリイカを読んだりしながら、車窓を流れる風景に思いを馳せる時間はなかなか有意義だったと思う。まだまだ行きたかった高知の観光地があるので、また機会があれば旅行したいと思います。

主人公、似ね〜

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