見出し画像

アメリカ国防総省の10億ドルプロジェクトに参加しているドローン企業はどこか?

アメリカ国防総省(DoD)が中国との軍事競争において技術的優位性を確保することを目的に、昨年から「Replicator Program(以下、レプリケーター・プログラム)」を開始しました。2カ年計画で10億ドル(約1500億円)の予算が要求されているものの、2年目に入った現在もプログラムの進捗状況が不明確だと各方面から指摘があがっています。

https://www.shephardmedia.com/news/uv-online/us-replicator-programme-approaches-the-second-year-with-uncertainties-and-challenges-ahead/

【ニュースの要点】

  • 2023年8月28日にレプリケーター・プログラムが開始され、2025年までに数千の自律システムを配備することを目指している。

  • 2024年度には5億ドル、2025年度にはさらに5億ドルの予算が要求されている。

  • プログラム開始から1年が経過したが、実際にどの程度進展しているかは不明。

  • プログラム初年度には、無人水上艇(USV)や様々なサイズとタイプのカウンターUAS(無人航空機システム)も含まれるとされているが、展開されたソリューションの数、モデル、能力、供給者に関する情報など、公開されている情報は非常に限られている。

  • これまでにDoDが本プログラムを通じて取得が確認されている唯一のシステムは、AeroVironment社のSwitchblade 600というロイタリングミュニション(徘徊型弾薬)です。携帯可能な筒状のケースから発射れるると、特定のターゲットに向かって自律的に飛行し、攻撃を行う無人航空機システム(UAS)の一種で、既にウクライナでも対ロシア軍用兵器として実践配備されている。

  • プログラムが2年目に入ったが、取得されたプラットフォームや供給元については具体的な情報は明らかにされていない。

  • CRS(議会調査局)のレポートでは、レプリケーター計画の資金要件が、他の重要なプログラム(弾薬や長距離対艦ミサイルなど)に与える影響について懸念を示す一方で、具体的なシステムや能力に関する情報が不足しており、議会が適切な監視を行うための情報が不足していると指摘している。

  • 国防総省は、レプリケーター計画の詳細な情報が公開されていないのは、作戦上の安全保障に関わるためであると説明している。

AeroVironment社のHPより。DoD Replicatorに採択と大きく書かれている。

【元しゃちょーのインサイト】
レプリケーター・プログラムは、ロシアのウクライナ侵攻で得られた教訓をもとに、アメリカが中国軍の大規模な軍備を凌ぐために構想されたと言われています。近い将来の台湾有事も想定しての緊急的な対応策のために始まったとも言われており、本プログラムが立案された時点では予算が確保されておらず、他のプロジェクトの予算を転用してでもアメリカ政府が立ち上げを急いだとか。

この計画で目指すのは"All-Domain Attritable Autonomous Systems" (ADA2) の兵器の開発です。ADA2とは、All-Domain(空中、地上、水上、水中、宇宙などのあらゆる領域)でAttritable(消耗品)として扱える、Autonomous Systems(自律システム)を指します。

この計画を通じて、大規模で高価なシステムに依存する従来の軍事戦略とは異なる、低コストで大量に配備可能な自律システムを配備することで、新しい軍事オペレーションのあるべき姿を模索しています。

ウクライナ侵攻において、安価な民生ドローンが戦況を変えたことからも、本プログラムでもドローンへの期待が大きいとされています。既に米陸軍によるショートレンジ偵察プログラム(SRR Program)や、米国海兵隊のショートレンジ・ショートエンデュランスプログラム(SR/SE Program)など、ドローン企業に開発支援をする軍事予算はありましたが、本プログラムで米国のドローン産業がますます勢いずくのではないかと考えられます。

米国議会から資金の使用用途が不明確だと指摘があるように、本プログラムに参加しているドローン企業は明かされていません。しかしながら、Skydio社が参加企業として有力視されており、現に本プログラムを立ち上げたキャスリーン・ヒックス国防副長官自らがSkydioの本社に視察に出向いています。

Skydio CEOのAdam Bry(写真中央手前)がヒックス国防副長官(写真右)に本社を案内している様子(Skydio社のPRより)

Skydio社は昨年にX10を発表した際に、新たな工場を設置し生産能力を増強したことも併せて発表していましたが、政府からの大量調達の要請に応えられる体制を構築していると見ていいのではないかと思います。

レプリケータープログラムに対して冷や水を浴びせるような議会側の意見もありますが、軍事秘密に密接に関わる以上、開示できない情報の方がはるかに多いので、外から見た際に不透明に見えるのは当然ではないかと思います。軍のプロジェクトとして、不透明であることがむしろ健全であると個人的には思います。Skydioをはじめとしたドローン系スタートアップ企業が、本プログラムを通じて一気に成長するのではないかと思うので、今後の動きも注視していきたいと思います。

【会社情報】
AeroVironment(エアロヴァイロンメント)

  • 設立年:1971年

  • 本社所在地:アメリカ・カリフォルニア州

  • CEO:Wahid Nawabi

  • HPhttps://www.avinc.com/

【参考資料】
Skydioのブログにて、W. Mark Valentine(the President of Global Government at Skydio)がウクライナ侵攻におけるドローンの重要性を説いている(2023/9/13)
https://www.skydio.com/blog/the-replicator-program-is-right-the-time-for-small-smart-survivable-drone-fleets-is-now
Skydioのブログにて、DoDのヒックス国防副長官によるSkydioのオフィス訪問の様子を書いている(2023/12/13)
https://www.skydio.com/blog/visits-by-dod-s-top-leaders-skydios-commitment-to-delivering-small-autonomous
 
米国議会調査局によるレポート「 DODレプリカ構想: 背景と議会の課題」(2024/3/13)
https://crsreports.congress.gov/product/pdf/IF/IF12611/2
 
(手前味噌ですが)筆者がドローンジャーナルに寄稿した記事:安全保障を追い風に躍進を続けるSkydio(2024/7/2)
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/series/column20230829-01/1186291.html

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?