周波数圧縮あるいは移転はどんな症例が適応となるのか(その1)。

はじめに

補聴器の基本機能として、聞こえない音を聞こえるように「増幅」という機能があります。しかし「増幅」するだけですべての問題が解決できるわけではありません。スケールアウトの領域におおきな音を入れても意味をなしませんし、かりにスケールアウトでなく70dB以上の損失であったとしてもUCLを越えるような利得をあたえてしまうと、音が割れたり、耳に痛みを感じたりと、不都合なことが生じます。もちろんREMで正確なOSPL90を求めて、120dB超えないようにすることで解決できる部分もあるのでしょうが、語音明瞭度の向上を考えた場合「増幅」だけでは「ベター」は提案できても「ベスト」を実現することはできないでしょう。

今回のnoteでは、周波数圧縮(移転)補聴器の適応と選択そしてフィッティングのポイントについてお話ししていきます。どのような設備投資が必要となるか、そうした設備がないときはどうするかなどまとめていきます。

サウンドリカバリーあるいはFrequency Lowering

「増幅」だけでは、解決できないきこえの困りを解決する手段のひとつに、サウンドリカバリー(FL)があります。

サウンドリカバリーは、おおきく周波数移転と周波数圧縮にわけられます。残念ながら、国産(R社、M社)二社にはそうしたラインナップはありません。しかし「舶来」のメーカーの補聴器には、周波数圧縮あるいは周波数移転の機能を搭載した補聴器がところせましとラインナップされています(2019年8月現在)。

周波数移転には、特徴周波数帯を任意の帯域に移転させる(可聴域にピンポイントで帯域音を押し込む)タイプと子音をノイズバースととみなして移転する(幅広くまんべんない音として押し込む)2つのタイプがあります。

参考文献「フリークエンシーローワリング(FL)機能は、高音傷害型感音暗調の悪血高音域の補聴に用いられることが多い。FLの処理法にはリニアフレキュエンシートランスポジション(LFT)、ノンリニアフレキュエンシーコンプレッション(NLFC)、高周波音声の特徴の再構成(HFSFR)などがある。・・・高音急墜型感音暗調症例ではFL機能はどの症例でも聞き取りが改善した。(Audiology Japan(62)pp307-314、2019)」

周波数圧縮について

周波数圧縮は、リニア圧縮とノンリニア圧縮の2つがあります。スピーチバナナの形状変化からノンリニアとリニアの違いをイメージしてみましょう。ノンリニアの場合には、音素配列やそのバランスは変わりません。そのため、ひとつひとつの音素を聞き分けるのには有利なのですが、そのそも聞こえていた音の音色も変化してしまいます。スケールアウトで聞こえなかった音はノンリニアもリニアも同じように自分の自己内イメージのなかでも健聴者と同じように高い音色として聞き取ることができます。リニア圧縮はどの帯域も同じように圧縮してしまう結果隣接する周波数帯の成分を持つ音の明瞭度を高く保つことができません。結果として弁別能が低下します。

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