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朗読:王女セイラ 第一話 楽しき会話

セイラとアグニスはそれから毎日欠かす事がなく顔を合わせては、勉強に遊びに、そして剣術にと忙しい毎日を送っていた。アグニスは王妃の計らいで学術顧問がつけられ、自らもセイラと一緒に勉強をして、それをセイラに教えるというさらに忙しい日々を送っていた。
「ではアグニス殿、答えなされい。コップいっぱいの水に塩をどれくらい溶かす事ができるのか。同じくコップいっぱいか、それとも樽いっぱいか。」
「え…え…そんなに多く溶けたっけか?」
「素晴らしい!それほど多くは溶けない。では少しでも多く溶かすにはどうすればよいか!」
「それならこのアグニスできます!しっかり混ぜる事です!」
「バカモノ!振っても混ぜても水の量と温度が同じであれば溶ける量は変わらないと申したではありませんか!」
この調子で毎日勉強を続けているものだから、セイラの教育長になってから7年、すっかりアグニスは優等生として育っていた。
「アグニス!聞いたぞ!わらわとアグニスの中等学校試験の結果が並んだそうではないか!」
セイラは嬉しそうにアグニスの部屋を開けると、机に向かっていたアグニスに飛びついた。
「おお、セイラ殿下。お祝いのお言葉をありがとうございます。わたくし、分不相応にも殿下と並ぶ成績を収める事ができました」
「うむうむ、めでたい!めでたいぞ!今日は勉強などやめて祝いじゃ!アグニス、何か楽しい事をしよう!」

アグニスは今や多忙。騎士団の仕事をしながらセイラの相手もしているために眠る暇もないほどになってしまった。セイラの暮らす東宮殿の警護部屋の隣に新しくアグニスの部屋が増設され、すっかりセイラとの生活に引き込まれていった。
「では殿下、今日はもう日没が近こうございます!明日にでも乗馬の訓練に参りましょう!」
「やったぞ!馬じゃ馬じゃ!アグニス!わらわは自分の馬が欲しいぞ!アグニスの愛馬ガスパールのような美しく早い馬がよい!」
「ガスパールでございますか。あれは国王陛下より賜った名馬中の名馬でございますぞ。他にはメルキオールとバルタザールの兄弟馬がおりますが、いずれも名馬でございます。とくにこのガスパールはこれ以上脚が長ければ走る事もできないと言われるほどに脚が長く、脚力も優れたわたくしの相棒でございます。」
「アグニス。ガスパールの兄弟はどこから来たのじゃ。父の名はなんという。」

「殿下はガスパールについてご興味でございますな。ではこのアグニス、今日はガスパールの物語についてお話をして聞かせましょう。
ガスパールの出身はここからさらに東へ向かった先にある、名馬を排出する村でございます。ハーグリムという今では軍馬の産地として知られたこの村は、元々競走馬をたくさん排出して生活をしておったようでございます。ガスパールの父の名は、現地の言葉ではなんと言いましたか…このアグニス失念してしまったのですが、こちらの国ではレングフートという名前で記載された名馬です。このレングフートは脚が長すぎて全力で走ると自らの脚を痛めてしまうとうほどの馬であったと我々騎士の間でも知られております。そしてこのレングフートに我が国自慢の牝馬(ひんば)をかけ合わせて生まれた最初の馬がガスパールでございます。」

「アグニス、この国の東にも国があるのか?」
「もちろんございますぞ殿下。ハーグリム村はフリースガル国の中の裕福な村でございます。大変寒い国で多くの大地が氷に閉ざされた大国ですが、人民は一部氷のない平地でそれぞれ農業を中心に営んでいる非常に美しい国でございます。そしてこれはつい数日前に顧問のライプニッツ先生に教わったばかりなので、きっと正しいかと存じます!」
それを聞いてセイラは大笑いし、アグニスも一緒に大きな口をあけて笑った。

「ハーグリムにもたくさんの妖精伝説がございまして、先程の馬レングフートはたくさんの子馬を残した後に、亡くなる際金色に輝いて神の祝福を受けながら天に召されたようです。それ以来はレングフートはハーグリムの守護妖精として信仰を集めているようですよ。」
「よし、アグニス!今日はガスパールに乗って競技場を走りたい!行くぞ!着替えて参る!」
アグニスの話を楽しんだセイラは飛び跳ねるように起きると、走ってアグニスの部屋を飛び出し自室へと向かった。

「やれやれ、成長なされる毎に好奇心も成長なされて、確かに先が思いやられる」
さすがのアグニスもため息をついて机の上をみた。そこにはセイラ姫と交際をしたいという各国王子の書類がのせられていたが、
「いずれも3日ともつまい…」
とアグニスから諦められ、情けなく積み上げられているのだった。

2024年8月7日 みゆき・シェヘラザード・本城


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