モノローグ：こねこのしあわせ

謝辞

桃ねねこさんに捧ぐ

本編

ねこに生まれた時、わたしは思った。こんなにふわふわな体。白い靴下を履いたようなお手々。水たまりに映る顔はひょっとして、ねこ界イチの美人ねこさんじゃないかしら？

歩いても、座っても、にゃぁとおねだりしてもかわいい♡だからご飯に困ったことはないんだ。わたしがにゃぁと鳴いたらみんな何かご飯をくれる。だからわたしはこの緑がいっぱいな公園で幸せに暮らしてるんだ。

一番美味しいのはあの大きな人間たちが「チュールだよー」って言ってくれる鶏肉。あの味付けがたまらにゃいんだ。ほのかに塩味がきいてるんだけどとても上品な味付けで、ダシには昆布が使われてるの。たまにね、このダシがいい加減なチュールもあるから、そういうのはクンクンして見破って食べないんだ。

とにかく食べることは困らない。人間は毎朝辛そうな顔をしてこの公園の脇道を通ってどこかにいって、多分どこかでご飯を食べて帰ってくるんだろうね。ご飯を食べたはずなのにとても疲れた顔をして帰ってくる。見ていてあんまり幸せそうじゃないなぁ。たまにとても疲れた顔をしたお兄さんが話しかけてくる声は、それだけで本当に疲れていて。あなたも公園に座ってチュールを食べれば？とは伝えたいんだけど、わたしたちの言葉は通じないみたいね。

こんなにかわいくてこんなに幸せなんだから、わたしは今日もただこの公園でゴロンと転がって、ペロペロと毛づくろいなんかして。もうだいぶお姉ちゃんになってきた気がするから、そろそろ辺りを歩いてみようかな。この前会ったねこちゃんから、夜中に隣の公園でねこの集会してるとも聞いたし。ねこの集会かぁ。何人くらいのねこさんがいるのかな、この辺りで暮らしてるねこさんが集まってお仕事するんだって言ってたけど、わたしみたいなかわいいねこがお仕事する必要ってあるのかなぁ。

だけど、冬がくるって言ってるねこさんがいたな。冬が来る前に人間の住処を何軒かまわって自分のおうちにするんだよって。こたつっていうものがあるかどうかをちゃんとチェックしろって言ってたなぁ。こたつはあったかいらしいんだけど、家なんかにはいらないでお日さまにあたった方があったかくないのかな。

そういえば人間についていくとこわい思いもするって言われたな。びょういんっていう所に連れていかれそうになったら逃げなさいって。白い服を着た人間にじろじろ見られて、チクっと痛いことをするんだって。チクってなんだろうなぁ。たまにトゲのある枝とかがチクっとすることはあるけど。チクっとしても驚かない訓練でもしてるのかな？不思議なところね、びょういん。

そろそろ公園一回りしてこようかな。あ、あそこの家の窓があいてるから、ちょっとお邪魔してみようかな。誰もが美味しいっていうマグロをわたしも食べてみたいし、おねだりしてみようかな。マグロをもらうための鳴き方も教わっておけばよかった。

それじゃ、いってきまーす、にゃ

2024/08/03 みゆき・シェヘラザード・本城