恋活をした話。「山田さん」

不思議な事に社会人になって初めて参加した合コン以降、何度か合コンに誘われるようになった。今回はそのうちの「中島さん」とはまた別の話。合コンと呼ぶには人数が少ないが、面倒なので合コンと呼ぶ。


高校時代に友達の友達(喋るし仲いい方だと思うがクラスも違うし系統が少し違ったため友達というよりこの表現が近い)だった女の子と、卒業後に仲良くなった。仲が悪いわけでも特別仲がいいわけでも無かったのでお互いの連絡先を知っており、それこそ共通の友達とご飯行ったりなどがあった程度。卒業後にお互いを「名前+ちゃん」呼びから名前をび捨てで呼び合うようになって、そして今でも友達として時々ご飯に行ったりする。以降をMとする。

その子と合コンに行くことになったのは、本当にたまたま。共通の友人だった子に彼氏が出来て少し疎遠になり、Mもまた恋人と別れたばかりだった。

Mの職場の上司がMのために合コンを開いてやると言って企画してくれたのだそう。ただ一緒に行く人が居ないから一緒に来てくれるとありがたい。そんな程度ではあったが恋愛がしたかった私は快くOKをした。

Mは昔凄いギャルで、校則で染髪が禁止だったにも関わらず夏休み明けに金髪で登校してきたことがあった。当時、彼女は私が仲の良かった同じ部活の子の友達として知っていた。最初会った時は演劇部に入っており、美人だが大人しそうな印象だった。知らないうちに彼女は派手なギャルに変わっていた。勿論校則違反はすぐに見つかり生徒指導にお世話になっていたのを覚えている。私は高校生時代、それまでをいじめられたりいじめたりをしていた事と人見知りだった事から大人しく割と真面目に過ごしていた。1年の時に学年1真面目な子がピアスを開けていたのを見て私もそれくらいなら許されるだろうかと思い切ってピアスを開けた事があるぐらい(母親にピアスを開けたいというと自分で勝手に開けて病気とかになったら困るからと病院で開けるのを許可してくれた。費用も出してくれた)で、それ以外は本当に真面目にしていた。通っていた高校は偏差値が低く、テスト前の時期にはテスト対策プリントという名のテストの答えを学校が用意してくれる(出る順番が違ったり数字が違ったりするがほぼ同じ。教科によってはまるまるそのままそれ)ような所だったため、ろくに勉強が出来ず分数や地理も分からないような私が学年で1桁になれた。短期間暗記が得意だったため、テスト前日に対策プリントやテスト範囲を丸暗記して挑むという形をとっていたので教科によっては学年1位だったものもある。二年になってコース選択があった時も何処でも良かったが苦手だからという理由で理系を選べるほどどのコースでも大差なかった。私は何もしなくても大人しいだけで優等生扱いされていたのだ。そんな私とMが仲良くなったのは当時の周りからしたら謎なのだが、社会人なってから彼女とは仲良くなった。キャバクラで働いたりもしていたらしいがある程度落ち着いてきたのか彼女は公務員になったりもしていた。派手だった頃も、彼女は見た目と男関係が派手だっただけで普通の喋りやすい女の子だった。

そんな彼女に誘われていった合コンは2対2だった。Mはどちらかというとノリの軽い子という程度になっていたのでそんなやばそうな人との合コンではないだろうと思っていったその合コンの相手は、当時の私達より8歳上と10歳上の人だった。その場にMの上司さんはおらず、上司さんの同期と同僚だという二人だった。不潔な雰囲気は無いが、どことなく彼女は居ないだろうなという雰囲気のその二人は、気を遣って色々話してくれた。

二人ともMと同業他部署なので仕事の話で盛り上がっていると、8歳上の人が気を遣って私に話しかけてくれたりして、疎外感だとかそういうのは感じなかった。10歳上の人が向かいに座ったMと二人しか分からない話を初めてしまい、私はご飯を食べながら向かいに座っていた8歳上の人と話をした。お互いに一人暮らしであると分かると、8歳上のその人は普段料理とかするのかと聞いてきた。この8歳上の人を今後山田さんとする。

山田さんは一人暮らしであることと、その歴が長いこと、仕事はいつも定時上がりであることから家ですることがなく料理にハマったのだという。最近燻製する道具を買って~なんて話を始めた。私は当時、山田さんと同じように一人暮らしではあったが定時なんてものはなく、殆ど始発出勤終電帰宅だった上に休みも不定期でそんな何かを作るということも殆ど無かった。たまの休みに気が向いたら肉じゃがを作ってみたりハンバーグを作ってみたりした程度で、そもそも料理自体も得意ではない方なので共感を求められると困るなと思いながら「そんなの作れるんですか!?すごーい!めちゃくちゃ手の込んだ料理作れるんですね!」なんて言いながら褒めつつ「自分も頑張りたいんですけど時間があまりとれなくて…でもいいですね、今度の休みにやってみます!」なんて適当な事を言っていた。

隣の二人がLINEの交換を始めたので、流れで私達も交換をした。山田さんとMは二人共と交換していたが、10歳上の人と私はお互いに別にいいかと交換はせずに終わった。きっと10歳上の人はMしか眼中になかったようだった。

会計は向こうが全部出してくれた。私もMもちゃんと出そうとしていたのだがいいからいいからと強く言われ、じゃあ後で返しますねとその場では払ってもらった。お店を出てからはMと10歳上の人、私と山田さんで喋りながら駅へと向かった。「お金、いくらでした?払います!」というと「独身貴族でお金だけ持て余してるからいいよ。またご飯行こう」と言われるだけだった。駅までの距離を私は山田さんがこの前休みの日にクッキーを作ったという話を聞きながら歩いて、駅に着いた辺りで10歳上の人と山田さんが「この後どうする?」というようなことを私とMに訊いてきた。

Mが「明日も仕事なんで帰ります。今日はありがとうございました。私こっちなんで」と私の腕を掴んできた。何となく何かを察して「ありがとうございました」と頭を下げた。山田さん達は「じゃあ俺達はこの後カラオケでも行くわ」と何処かへ行ってしまった。二人が去っていく背中を確認して、私達は駅の中へと進んだ。

Mと私は住んでいるところが違うため電車も違うのだが、Mが乗る電車の本数が少なく、改札より手前の位置で時間を潰す事になった。カフェも何もない所だったので立ち話だったが、内容は「今日どうだったか」だった。Mは10歳も上だと会話がうまく成立せず言ってる事がよく分からなかった、仕事の話も部署が違うし自分がそれほど長く勤めていない(割と最近そこで働き始めた)からよく分からなかったと言っていた。私もまた当たり障りのない感じだった。山田さんが作る料理の話を聞いていただけだったしまぁ無いかなぁと話した。Mは「多分上司にまた訊かれるから正直に話すわ。ていうか実はもう一回別のメンバーでのもあるんだけどどうする?同じ上司が企画してくれたやつなんだけど」と訊いてきたので「行くだけ行くわ」と答えた。

Mとはその後1週間後ぐらいにまた別の2人と合コンに行った。その合コンは今度は私達より7つも下の20歳と3つ下の24歳の男の人だった。極端年齢差にMも私も笑ってしまった。この二人もまた彼女の居ない雰囲気が何処となく感じられた。20歳の人はちょっとだけ変わったキャラで一人でも平気そうに見えた(就職するまでずっと男子校だったらしい。あと全然違う県から仕事のため引っ越してきていたためまだ馴染めていなかった様子)し、24歳の人は昔からずっといじられキャラで友達以上に見てもらえたことが無いらしかった。下二人との合コンは24歳の人がいじられキャラとして盛り上げてくれたのでそれなりに楽しめた。食事の後にカラオケまで行った。何となくで24歳の人はMが気になっているように見え、Mは20歳の人が気になっているように見えた。24歳の人はカラオケでも三代目を踊ってくれたりと盛り上げてくれていたのでそこそこ楽しかった。

だけどどちらも年下であることと、何となく違うなと感じて友達程度になれたらいいなとしか思えなかった。

二回の合コンの後、Mと二人でご飯に行った。どうだった?という話になった。Mが「実は24歳の人とデートに行った」と言い出した。24歳は初めて会ったあの後また1週間後ぐらいにデートに誘ってくれたのだという。私は24歳と20歳のどちらとも連絡先を交換したが、当日にトークラインで「ありがとうございました」とやりとりをしてその日に4人で撮った写真を個人で送り合ったぐらいでそれ以上何もやりとりをしていなかったが、どうやらMはどちらともやりとりをしていたらしい。Mは自分が気になっていたので20歳と連絡を取り続け、24歳からも連絡が来るので連絡を取り続けていたという。ぶっちゃけて20歳が気になるが7つも年下なので「ババアと思われるのが怖い」と言っていた。不思議な雰囲気の20歳の人は本音を隠すのがうまそうなのでありえた。

これ以上Mについて詳しくするとまた別の話になってしまうので置いておいて。その二人の前の二人はあれからなんかあった?という話になった。

実はあれから毎日山田さんからLINEが来ていたのだ。Mは10歳上の人からLINEが来ていたがつまらなかったので返事を止めたと言っていた。私は相変わらず返事を止めるのが苦手だったので毎日送られてくるLINEを返していた。

山田さんは話題が無かったのか、「今日はお昼に何々を食べました。椎名さんはお昼何食べましたか?」というようなLINEばかりだった。質問で

送られてくるので正直に「今日はパンを食べました」などの短い文で返していたのだが、山田さんは話題を膨らませるのが苦手なようだった。

正直にその話をしていると、ちょうど山田さんからLINEが送られてきた。「美味しいおでん屋さんがあるので行ってみませんか?」という内容だった。私は山田さんは見た目の中身も好みでは無かったが良い人だなと思ってので仲良くなれたらいいと思っていた。一人暮らしの先輩としてアドバイスをくれたりするのが助かったりすることもあったのだ。

Mに正直に「恋愛対象にはならないけど良い人だから仲良くはなりたいと思う」と話した。その日から、Mと私と時々何かあったら報告をするようになった。


山田さんとは、それ以降で二回ほど食事に行った。どの時も私にお金を出させることはせず、頼むメニューも必ず何がいいか訊いてくれて、そしておすすめはこれだとかこれが気になるから頼んでもいいかと確認をしてくれた。山田さんは良い人だと思った。恋愛対象にまで思えないのはその年齢差もあったのかもしれない。私は職場に一回り上の独身の男の上司が一人いるだけで、あとは大半同い年か年下だったのだ。他部署の男性は皆既婚者子持ちだったので、上司に対する感じと少し似て思えたのだ(まぁ上司は仕事の関係で嫌いなんだけど)。山田さんの居る部署は人数が少なく、部下にあたる女性が一人いるだけなのと仕事上上手くやっていきたいと言っていたので時々相談のようなものに乗ったりしていた。山田さんにとって私は喋りやすい部下という感じなんだろうなと思っていた。

二回食事を終えた時、それまで会う時もLINEでも「椎名さん」と苗字にさん付けだったのに、突然「椎名ちゃん」と呼び始めた(下の名前は教えていないしMは私を名前で呼び捨てだが合コンの時しか会ってなければやりとりをしてもおらず、あの日も殆ど話していないので私の名前を知らない)。それまでのLINEでの会話や会った時の会話も自分がしている事を説明する時以外基本敬語(例えば「俺は今料理中だよ。椎名さんは何していますか?」みたいな)だったのがため口に変わった。許可をした記憶も無ければ特別親しくなったきっかけなども無かったので違和感を覚えた。何で突然ため口になったんだろうと思いながら私は相変わらず敬語で苗字にさん付けで話した。

ある時、Mから相談が電話がかかってきた。その時に「山田さんが椎名の事好きらしくって、職場で色んな人に相談している」と聞いた。

全くそんな風に思っていなかったので(向こうからも部下感覚だと思うぐらいだし)凄く驚いた。「LINEや会って話す時も結構盛り上がっている。これは脈ありだと思うか?」というようなことをLINEを見せたりしながらMの上司や山田さんの部下の女性に相談しているらしかった。MはMの上司に「椎名さんって子は山田をどう思ってるか知ってる?もし山田をもてあそんでる感じだったら止めたいから教えて欲しい」と言われたらしい。

突然、このまま良い上司と部下のような関係で居られたらいいと思っていた気持ちが冷めてしまった。Mの上司に私が嫌な奴だという風に思われているのに少しむかついた。脈ナシだと思って相談に乗って正直に言ったが山田さんは「でも」と言い返してくるからだというのは後で知った事だ。

仕事漬けで忙しい中、友達とご飯以外に山田さんとのご飯も楽しみになりつつあったのに(山田さんは良い人だし連れて行ってくれるお店は美味しい所が多かったから)、消えてしまった。山田さんが私に対してそういう期待を持っているのなら、山田さんに悪いので遠慮しようと思った。

直接告白されたり匂わすようなことがあったら、脈ナシだとハッキリ示そうと思った。その日から、LINEを毎日返すのも止めた。場合によっては返事自体も止めてしまったりもした。

クリスマスイブの日、私は山田さんに「会えないか?」と訊かれた。仕事のため難しかったが休憩時間の間の少しなら会えると答えると、それでいいと言われた。

その日の休憩時間はもう夜で、クリスマスイブを一緒に過ごすカップルが沢山居る中、私は山田さんと会った。

合流する時、私は初めて会うまで山田さんの顔を覚えていない事に気付いた。目の前に現れて初めて「この人だ」と分かる程度で、思い出そうとしても全然顔が思い浮かばなかったのだ。私にとって山田さんは「良い上司」でしかなかったのだ。上司とは仕事で会わなければただの他人だ。つまりそういう事だった。山田さんと合流して、近くの建物の前にあった大きなツリーの前に連れて行かれた。そこでクリスマスプレゼントだと言ってディーンアンドデルーカのクリスマスギフトを貰った。何がいいか分からなかったけど、コーヒーが好きだと言っていたからとコーヒー豆の粉とちょっとしたクッキーだった。その時初めて私は今日がクリスマスイブであったことを思い出した。ツリーがある事は知っていたし、もうすぐクリスマスであるという感覚はあったけどそれ以上特に何もない普通の日だったのだ。私は何も用意ず完全なる手ぶらで来たのにも関わらず、山田さんはこれを渡したかっただけだからとそれでいいと言った。やっぱり、山田さんは良い人だった。きっと私じゃない誰か、もしかしたら年下でも30代前半の人だとかが相手だったらうまくいったのかもしれない。そんな風に思って、次会う時が最後だと思った。

その日、クリスマスプレゼントのお礼を言って、何も返してなくてすみませねんと言うと「じゃあ今度一緒に水族館へ行きませんか?」と返ってきた。この前の突然のため口とちゃん呼びは無くなって元の敬語とさん付けに変わっていたけれど、何となくこの水族館が最後なんだろうなと思った。山田さんからの恋愛感情はそれでもなお全然分からなかったけど、もし本当に山田さんが私を気に入ってくれてて、付き合いたいと思ってくれているのだとしたらきっとこの日に言われるのだろうと思った。私は折角良い関係だったのになと少し残念に思いながらも「いいですよ!」とOKをした。最初、近くの水族館指定されたので現地集合現地解散だなと思っていたのだが、ある日車で行くか電車を乗り継ぎバスに乗らないといけない水族館に変更になった。どうやって行こうか、なんて話もしないうちに私は年末年始の更に忙しい時期を迎えて更に仕事漬けになった。合間に来るLINEに「当日は車運転するよ」と来ていたのも、忙しくて既読にするのが早朝になったりして返事のタイミングを逃してしまっていた。「良いお年を」「あけましておめでとうございます」そのLINEに返事をしたのは1月の終わり頃だった。年末年始の忙しいのが落ち着きつつあった頃、やっと返事が出来たのだった。スマホを見ているタイミングに来たLINEや返事が必要なLINE以外をあと回しにした結果がこれだったのだが、山田さんはそれでも何も言わずいつも通りだった。水族館いつにしますか?と訊かれたので3月頃なら仕事も落ち着いていると思いますと返したが、結局その後2月がまた忙しくて返事が出来ないまましばらく経った。

2月になると年末年始より忙しくなり、スマホ自体殆ど触らなくなって未読のままのものが沢山溜まっていた。ある日、山田さんから「水族館のについて話し合いませんか」と食事に誘われた。それにOKを出して食事に行くと、水族館を変更した理由を説明された。いつぐらいがいいかと訊かれ、3月のこの辺りならと答えた後、その食事の場で水族館について話す事は無かった。最初と同じ最近作った料理の話辺りと実家に帰った話を聞いた。実家で親にいつ結婚するのかと訊かれたと言っていた山田さんは、それ以上だから何とも言わなかった。私も「そうなんですね。うちも今は無いですけどいつかそういう事言われるんですかね」と笑っただけだった。

お店を出た時、コートを着ていたのに随分と外は寒かった。山田さんが駅までの途中で飲み物を買ってくれた。ホットレモンとホットの緑茶。どちらがいいかと訊かれて緑茶を選んで受け取って、相変わらずお金は受け取ってもらえなかった。「独身貴族でお金は有り余ってるから」といった山田さんが、何故か凄く不快に思えた。突然物凄く気持ち悪いものだったかのように思えたのだ。そして、中島さんの時に感じた恐怖と似た別の何かを感じて、怖くなった。その日家についてお礼を送ると、山田さんも「水族館行く予定考えておくね」と返してくれた。

翌日、毎日来ていたLINEが突然来なくなった。忙しかったり何かあったのかもしれないと思ったが、それほど気にも留めず過ごした。

その少し後のある日、突然10秒ほどの動画が送られてきた。何だろうと思ってみると、月がぽかんと浮かんでいるのを無言で撮ったような動画だった。その日は皆既月食だったか何か忘れたけど月が綺麗な日でテレビでもやっていた。肉眼では分からないその月を、更に小さな動画で見て何だこれはとよく分からず「今日雲無かったんですね。月が真ん丸」だとかなんとか送った気がする。それっきり山田さんからの返事が無くなった。私が送ったっきりで終わってしまったのだ。

Mから「上司が脈ナシだから諦めろってハッキリ言ったらしいよ」と聞いた。それによって本当に諦めたのかは分からないが、あの月の動画が何だったのかもよく分からない。それ以降山田さんに私から何かを送る事もなければ向こうから送られてくることもない。

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