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【医師解説】腎臓の老化について

腎臓は解剖学的に皮質と髄質に分けられます。皮質は主に血液を濾過する糸球体と原尿から必要な物質を再吸収する尿細管から構成されています。髄質は一部の尿細管および集合管から形成されます。
皮質容積は徐々に減少するのに対し、髄質容積は50歳頃まで増大するため、総腎容積は50歳頃までは比較的保たれますが、その後徐々に減少し萎縮していきます。

腎臓の加齢に伴う組織学的な変化として動脈硬化と糸球体硬化、尿細管萎縮や間質の線維化などがあります。

研究では、腎硬化所見を示す割合は18~29歳の若齢患者で2.7%であったのに対し、70~79歳の高齢患者では73%と高い割合で腎硬化所見が認められました。

そして糸球体硬化数が標準値よりも多い人では、間質の線維化が強く高血圧の合併が多いことが示されました。

加齢に伴い腎機能が低下することも研究で明らかにされています。腎機能は主に糸球体濾過率 (glomerular filtration rate GFR) で評価されますが、推定 GFR (estimated GFR:eGFR) の計算式にはどの式においても年齢が変数として含まれており、腎機能に影響を与える年齢が反映されています。

その他の腎機能評価指標においても老化に伴い機能低下を示す報告がなされています。たとえば、腎予備能(renal functional reserve RFR) も加齢に伴い低下することが明らかにされています。

腎臓は片腎を描出してもGFRが半減せず非常に高い予備能を有する臓器です。

RFR は腎予備能を評価する指標で、タンパクやアミノ酸負荷後の一過性のGFR上昇が認められますが、ここの時のGFR の最大値と安静時 GFR の差分で定義されます。RFRは高齢者のみならず、CKDの進行に伴い低下することも明らかにされています。さらにRFR低値が心臓手術後の AKI 発症のリスクであることも報告されています。

単一ネフロン GFR (single nephron GFR: snGFR) という腎機能評価指標も最近注目を集めています。

snGFRは糸球体1つあたりの濾過量であり、GFRを両腎の硬化していない糸球体数で除することで算出される。snGFRは加齢による影響を受けない一方で、糸球体腫大や糸球体硬化、動脈硬化を伴っていた腎移植ドナーではsnGFR は有意に増大していました。このことから加齢に伴うGFRの低下は、機能的に有効なネフロン喪失と関連していることが考えられます。

線維化は全身臓器において組織障害に随伴して認められる共通した病理所見です。腎臓においても障害後には線維化が認められ、その重症度が腎予後と相関しています。
腎線維化は間質領域への細胞外マトリックス(extracellular matrix;ECM) の異常な蓄積で、障害に応答した線維芽細胞が形質転換し、コラーゲンやフィブロネクチンなどの ECMを産生することで生じます。
腎臓の線維芽細胞は低酸素に応答して造血ホルモンであるエリスロポエチン (EPO)を産生し生体の恒常性の維持をしていますが、線維芽細胞が myofibroblastへと形質転換する際にこの低酸素応答性のEPO産生能を失ってしまい腎性貧血となります。
また血管周囲を取り囲む間葉系細胞のpericyte が障害に応答して毛細血管から脱落し、間質でmyofibroblast へと形質転換します。このmyofibroblastへの形質転換が線維化を誘導すると同時に、pericyteを失った毛細血管は構造を保つことができずに退縮し、傍尿細管毛細血管密度が減少します。

線維化による酸素拡散能低下と傍尿細管毛細血管密度減少による酸素供給能低下により、腎臓は低酸素状態へと至り、低酸素状態は myofibroblastへの形質転換を助長することで更なる線維化・低酸素を惹起するという悪循環を形成します。

以上のように線維化は病態の進行と密接に関わり負の側面が多いですが、その一方で障害の急性期には臓器保護の役割も担うこともあります。

線維化は本来組織修復のための生体の適応応答ですが、組織修復が十分に行われなかった場合には、CKDの進行を促進することになります。

AKI 発症後にCKD へ移行する症例もまた高齢者で多くみられます。 AKI の主な障害は腎臓の近位尿細管で、近位尿細管の障害が腎臓へ及ぼし、間質線維化、硬化糸球体、遠位尿細管障害など広範なネフロン障害をひき起こすことが分かっています。また、虚血再灌流障害の慢性期の高齢マウスでのみ AKI 後に異所性のリンパ組織である三次リンパ組織 (tertiarylymphoid tissues: TLTs) が誘導されることが分かっています。

TLTsは獲得免疫応答を末梢臓器内で誘導します。すなわち、TLTs内部でリンパ球の増加と活性化が起こり、大量の炎症性サイトカインや自己抗体の産生に繋がることが報告されています。

TLTs によって腎臓内の炎症が遷延することが高齢個体における AKIの予後不良の一因である可能性が考えられます。

TLTSの形成には特殊に分化した線維芽細胞が関与します。若齢個体では線維芽細胞の大部分が障害に応答して myofibroblastに形質転換するのに対し、高齢個体ではこれに加えこの TLTs 形成に関与する線維芽細胞にも形質転換しますが、この加齢に伴い線維芽細胞の形質転換の質的な変化に関しては不明な点が多く、更なる解析が必要です。

青山メディカルクリニック 院長 松澤 宗範


参考文献:

1) Wang X, Vrtiska TJ. Avula RT. et al Age. kidney function, and risk factors associate dif.ferently with cortical and medullary volumes of the kidney. Kidney Int. 2014: 85: 677-85.
2) Hommos MS, Glassock RJ. Rule AD. Structural and Functional Changes in Human Kidneys with Healthy Aging. J Am Soc Nephrol.2017: 28: 2838-44.
3)老化腎と線維化(総説) 大久保 明紘(京都大学 大学院医学研究科腎臓内科学講座), 高橋 昌宏, 山本 恵則, 佐藤 有紀, 柳田 素子アンチ・エイジング医学(1880-1579)17巻3号 Page268-272(2021.06)

・院長プロフィール
総合内科、形成外科、美容皮膚科、美容外科。
がん診療に関しては10代の頃に母親を末期癌で亡くした経験と形成外科で癌術後の再建で患者様と日々関わることで、早期発見、予防医療の重要性を痛感し、がん検査や治療も行っている。
疾患の種類を問わず、アンチエイジングまで幅広い患者様に対応し、体の内側・外側ともに健康に綺麗にをモットーにしている。
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