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【医師解説】抗老化治療の歴史について

老化細胞を標的とした治療が数十年前から注目されるようになりました。Hayflickがヒト細胞の老化を報告して以来、いくつかの細胞老化のメカニズムが解明されています。
例えば、p53/p21, p16/Rbシグナル経路の活性化やp53の役割が明らかにされてきました。これらのシグナルは老化に関与しており、細胞分裂を停止させるためにこの経路が活性化します。
そこで、このシグナルを抑制することで、細胞は老化せずに分裂を続けることができ、組織の修復が可能になるのではないかと考えられました。

・p53の役割
p53を抑制することで糖尿病や循環器疾患が抑制されることがわかっています。ただ、一方で細胞周期を停止されていた傷害が蓄積された細胞を増殖させると癌が増えるため、p53欠損マウスは悪性腫瘍のため短命であることもわかっています。このように老化を癌化は表裏一体のところがあります。

・SASP因子の制御
次に注目されたのは老化関連分泌表現因子(senescence-associated secretory phenotype: SASP因子)です。
老化細胞は自身が役割を終えるだけでなく、SASP因子と呼ばれる炎症性のサイトカインやケモカインを産生し、周囲の健全な細胞にも影響を与えます。これにより、周囲の細胞の機能異常を引き起こします。
つまり、SASP因子の抑制が健康寿命を延ばす可能性が示唆されています。老化細胞から分泌されるSASP因子を抑制する薬剤はセノモルフィクス(senomorphics)と呼ばれ、すでに糖尿病抑制薬のメトホルミンや免疫抑制剤のラパマイシンなどにその作用があることがわかっています。
ただし、蓄積した老化細胞はそのままであるため、長期に薬の内服が必要になるなどの課題があります。

・老化細胞の除去
次に、老化細胞除去(セノリシスsenolysis)という新しいアプローチが注目されています。老化細胞のマーカーとしてp16を使用して老化細胞を特異的にアポトーシスするように設計された老化細胞除去マウスが作製されました。老化細胞を除去すると骨格筋から脂肪組織の萎縮や白内障、癌化も抑制されることがわかりました。老化細胞を取り除くことで組織の修復が著しく改善することが確認され、注目されています。

・老化細胞を除去する薬剤
老化細胞を除去する薬剤(セノリティクスsenolytics)が世界中で今探索されていて、現在で数十種類のセノリティクスが見つかっています。チロシンキナーゼを阻害するダサチニブをPI3Kを阻害するケルセチンはそれぞれ老化ヒト脂肪前駆細胞と老化ヒト血管内皮細胞にアポトーシスを誘導することがわかっています。この2剤を組み合わせたカクテル療法は老化細胞を除去し、運動機能や心機能低下を抑制することがわかっています。またセノリティクスは老年症候群だけでなく、動脈硬化や肺線維症、糖尿病、心不全、肝線維化、関節炎、骨粗鬆症、認知症などの疾患においても改善することが報告されています。
最新の抗老化治療の研究では、GLS1阻害薬やSGLT2阻害薬などの薬剤がセノリティクスとして有望視されています。これらの薬剤は、老化細胞を除去し、健康寿命の延長に寄与することが示されています。さらに、CAR-T細胞療法などの免疫療法もセノリティクスとして報告されており、老化細胞の特異的な抗原を標的にすることで、老化関連疾患の治療効果を高めています。
マシーンラーニングを利用したセノリティクスの同定など、新しいアプローチも注目されており、抗老化治療の分野はますます発展しています。

青山メディカルクリニック 院長 松澤 宗範

参考文献
・Roos CM, Zhang B, Palmer AK, et al. Chronic senolytic treatment alleviates established va- somotor dysfunction in aged or atherosclerotic mice. Aging Cel. 2016: 15: 9737.
・Xu M, Bradley EW, Weivoda MM, et al. Transplanted Senescent Cells Induce an Osteoarthritis-Like Condition in Mice. J
Gerontol ABiol Sci Med Sci. 2017 : 72 : 780-5.
・Wissler Gerdes EO, Misra A, Netto JME, et al.
Strategies for late phase preclinical and early clinical trials of senolytics. Mech Ageing Dev. 2021: 200: 111591.
・アンチ・エイジング医学一日本抗加齢医学会 Vol. 20 No. 3

・院長プロフィール
総合内科、形成外科、美容皮膚科、美容外科。
がん診療に関しては10代の頃に母親を末期癌で亡くした経験と形成外科で癌術後の再建で患者様と日々関わることで、早期発見、予防医療の重要性を痛感し、がん検査や治療も行っている。
疾患の種類を問わず、アンチエイジングまで幅広い患者様に対応し、体の内側・外側ともに健康に綺麗にをモットーにしている。
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