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十二単の意外性

この記事は、16年前の自分へのツッコミというスタイルで書いています。


 あるデパートで開催された京都西陣織展で、モデルとして舞台で十二単 (ひとえ)を着る機会があった。平安貴族の女性が着ていたという十二単。最近では、女優の藤原紀香さんが婚礼のさいに着用して話題になった。着物好きの私はうれしくて、前夜は興奮して眠れないほどであった。

 十二単とは、正式には「五衣 (いつつぎぬ)、唐衣 (からぎぬ)、裳 (も)」のことをいうそうで、十二枚の着物を羽織るわけではない。じっさいには「単の上には、五衣・打衣 (うちぎぬ)・表着・唐衣までで八枚、裳を数に入れても九枚」である(仙石宗久著「十二単のはなし 現代の皇室の装い」)。

 楽屋での準備では、舞妓さん用の白塗りと紅のメーク、特別のかつら、下着にあたる着物など身につけた。高貴な方なので歯を出して笑わないよう助言をいただいた。

 舞台では、前と後ろと二人がかりでの着付け。華やかな色の着物を一枚ずつ羽織るたびに会場から歓声が上がった。快感。徐々に気分は高貴な平安貴族になってゆく。

 今回身につけたものの重さは20㎏。でも事前に筋トレで鍛えていたので全く問題なし。ただ、衣紋 (えもん)を抜かないため、首周りが苦しかった。リンパの流れが悪くなるから、平安貴族はしもぶくれだったのではないかと確信した。

 優雅な十二単の仕上げは豪華な檜扇 (ひおうぎ)。でも扇を開いて顔を隠したら、額しか見えない。昔から富士額が美人といわれていた理由も実感できた。美人かどうかを判断する材料が額しかなかったのだから。

 最も印象的だったのは、十二単の意外性に気づいたことだ。十二単もまた男性にとって都合のよい衣装だったのではないか。重装備しているように見える十二単だが、脱ぐときは一瞬にしてセミの抜け殻。着付けには時間をかけるのだが、お殿様の寵愛 (ちょうあい)を受けるさいに待たせないために、脱ぐのは一瞬。こんな十二単の意外性を感じつつ、当時の興味深い男女関係に思いをはせた。

2007年9月19日


この記事は当時、周囲から一番反応がありました。特に、セミの抜け殻という表現に。おそらくセミの声を聞いて書いていたから季節感が出たのかもしれませんね。

十二単は本当に重たかったです笑 なぜあんなにも重たいのか、その理由としてよく言われるのは、お公家女性同士の見栄の張り合い、つまりマウントをとることを繰り返した結果のようです。いつの時代も、かたちは違っても、自己承認欲求があったようですね。おそらくどんな国でも、マウンティングってあり得そうです。

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