映画「月」


人間・社会の暗部。

都合が悪い事。

現実。

目を背けたくなる事、向き合えない事。

障がい者。

普通の人間とは。




オダギリジョーが凄すぎる。この役を受けて演じ切ったことに脱帽。助演男優賞を貰っていいレベル。てか、ノミネートとかされないとヤバい。

怪演の宮沢りえ・二階堂ふみ・磯村勇斗。

磯村勇斗が演じた「さと君」のダークサイドへの堕ちっぷりが良かった。純粋で正義感ある青年が、自身のプライドや人格を否定されて、起こしてしまった行動。その行動は、果たして本当に悪なのか?倫理や道徳的には間違ってたとしても、社会的に間違ってる事なのか?

綺麗事ばかり並べて、都合の悪い事は排除。

綺麗事で済まない現実を目の当たりにした人間が起こした悲劇を、普段目にしてない傍観者達がとやかく言える事なのか。

なにが正義なのか。



オダギリジョー演じる昌平と「茜色に焼かれる」の尾野真千子が重なった。『大丈夫』とか『頑張りましょう』と言って気丈に振る舞ってる人ほど心がやられてるというか。そう言ってないとおかしくなりそうだから、メンタルを保つ為にあえてポジティブな事を言ってる辛さ。

嘘に嘘を塗り重ねて、強がって虚勢を張ってでも、残酷な人生に立ち向かわなければいけない虚しさ。果たして、そこまでして、何か得ることがあるのだろうか。

観ててしんどい。

昌平のバイト先の上司がウザすぎる。アイツが1番嫌い。でも、ああいう無神経な奴っているよなぁ。


この作品の良さは、さと君が殺人計画を実行してしまうところ。結局は、洋子の説得じゃ止められなかった残酷さ。

起こってしまうことは、起こるというか。

そんな綺麗事じゃ行きませんよ。っていうのが良い。

人生を賭けて計画を実行したさと君の爆発した正義感。所詮、外野から言った声は聞こえませよ。響きませんよという。というか、確固たる正義感過ぎて、自分の間違えに気付かない。



宮沢りえ演じる洋子とさと君が対峙するシーンだけでも観る価値あり。緊迫感が凄い。

あっさりと殺人計画を話すさと君には、ちょっと笑ってしまった。

障害者を殺すことへの躊躇いの無さ。

狂ってるのはさと君か、それとも現実か。


観てて、難しすぎる。

もう何が正しくて正しくないのか分かんない。

さと君を完全な悪者には出来ないんじゃないかなぁ。

さと君は加害者であり被害者でもある。


話せないから心が無いのか。

話せなくても聞こえる声がある。

それは、さと君も耳に障害のある彼女がいるから理解してるはずなのに、視野がギューと狭くなり、話せない=生きる価値がないという事になってしまう。


映画冒頭の不穏で禍々しい演出・映像から、この作品に釘付け。

圧倒的なクオリティ。

石井裕也監督さすが。大好き。


神はいるのだろうか。

月は見ているのだろうか。



所詮は他人事に思ってるからとやかく言えるけど、自分事に置き換えたら何も言えない。

自分が「さと君」の立場になったら、違う行動を起こせますか?と問われると、黙ると思う。



高畑淳子の叫びが全てだよなぁ。


とにかくオダギリジョーが凄すぎ。


映画館で観れてよかった。

後味もあまり良くないし内容も目を瞑りたくなるシーンが多いけど、それも含めて最高な作品です。


大好きな作品が増えました。

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