映画「愛にイナズマ」


「愛にイナズマ」と「月」

石井裕也監督の作品が2本も劇場で公開されてる贅沢さ。

今年一番期待してて、楽しみにしてた作品。

どうしても公開初日に観たくて、でも日程的に無理だなぁと思ってたら、色々な事が重なって急遽観れる事になった。突発的な事が起こって、この作品を観れたことに縁を感じる。


期待を遥かに超えてく面白さ。


兄弟達がハグをするシーンに胸を打たれた。

家族の絆・愛。いいなぁ。



映画序盤の、自殺しようとしてる人を、野次馬達がスマホで撮影したり、面白がったり野次ったりするシーン。生々しくてよかった。自分はそういう光景を見た事ないけど、野次馬の立場だったらスマホを向けてしまうかもと思った。緊迫感とかより、人が死ぬ光景を見れるイベントを楽しんでしまうかもなと思った。

そんな事を普通の人間は思わないし、しないよと、綺麗事だけを語る偽善者は沢山いるだろうけど、果たして本心からそう思ってる人がいるんだろうか。

何でもかんでもスマホを向けてしまう時代。自殺現場を撮影してSNSに投稿したら絶対にバズる。バズって有名になりたい自己顕示欲が無い人間などほぼいないと思う。

こういうシーンを撮ってしまえるあたり、石井裕也監督だなぁと思ったし、着眼点が改めてすごい。


窪田正孝演じる舘正夫が喧嘩の仲裁に入るシーンも最高。学生の間違った善良さ。マスク警察過ぎる。最初は学生の発言に「わかる。わかる」と頷いてたけど、いや言い過ぎじゃね、てか学生の方が狂ってんじゃねと思い始めてしまう。マスク無しで飲酒してて何が悪いんだと思うし、コロナ禍の歪んだ常識というか、マスク無しでいる人に異常な嫌悪感というか、不思議だったよなぁと思った。そして、仲裁に入ったのにブン殴られる正夫の理不尽さ。他人の飛沫に敏感なのに、身体を触られたら、まぁあぁなるよねー。学生の歪んだ正義感、浅い考えが、利口ぶってるのに逆に軽薄に見えてしまう。善良だと思ってる人間の成す悪ほど、タチが悪いよなぁ。すごかった。



三浦貴大演じる荒川めっちゃ良かった。超腹立つ。花子と対極の意見しか言わないし、女や年齢で判断してる感じがウザい。意味がある事しかないと思ってるところとか、最高。こういう中身空っぽで、ズルい人間演じた時の三浦貴大いいよなぁ。

その荒川の上司役で登場するMEGUMIも良いし、めっちゃ腹立つわーと思わせてくれて最高。

仲野太賀演じる落合が突発的に自殺してしまうシーンは残酷。人間死ぬ時に理由とか予兆なんてありませんよみたいな。予想外の事が起こるようになってるし、自分で起こすかもしれませんよみたいな。なんか自殺する時って「ちょっとコンビニでも行くか」みたいな感じで、死んじゃうかもなぁと勝手に僕は思ってる。映画とかドラマのフィクションだと理由が無く自殺しないけど、現実は理由なく自殺するし、殺人鬼は理由なく人を殺す。フィクションなんかより、現実の方が残酷。



窪田正孝演じる舘正夫のアベノマスクが、出血すると日本の国旗みたいになるの笑った。不織布マスクじゃなくて、アベノマスクしてるのがいいよなぁ。

舘正夫最高すぎん?憤怒・悲哀・諦観を内心抱えてるのに全く無いようにも見えるし、でも、花子と対峙したシーンで爆発した時の感情の昂りに胸を打たれた。正夫の口からは嘘が無いように思える。だから空気を読めないと言われてるんだろうけど。


池松壮亮と若葉竜也は流石です。兄弟喧嘩してるシーン良かったなぁ。あんなにぶつかり合う家族初めて見たかも。喧嘩売りに行く池松壮亮演じる誠一も、花子の事を馬鹿にされて憤る誠一も良かった。若葉竜也演じる雄二も一緒にマスク付けて徒党を組むシーンとか、ブレーカーが落ちた事をいいことにビールを飲むシーンは笑った。

池松壮亮は石井組常連だし、若葉竜也も「生きちゃった」に続いての出演だし、信頼されてるよなぁと思う。てか、この2人が4・5番手で出てくるとか豪華だよなぁ。


佐藤浩市演じる父・治は可愛い気があって素晴らしい。シャイで口下手だけど、家族の幸せしか祈ってないところ、家族に明かしてなかった過去とか。誤解されてただけで、良い父ちゃんだったんだなぁーと思うし、涙無しには見れない。


そして、主演・花子を演じた松岡茉優のスゴさ。もう素晴らしい。圧倒的に松岡茉優の映画です。


石井裕也監督といったらの鶴見辰吾ね。今回は出番無いのかなと思ったら、声だけ出演ね。で、当たってますよね?間違ってたらすんません。電話のシーンもグッと来た。治が声を荒げるシーンが無かったのも良かった。携帯ショップでちょっとあるけど、あれもそんな爆発した感じじゃ無いし。妻の再婚相手とあんなに冷静にかつ感謝出来ます?真実を知ってしまった時の家族の何とも言えない空気感すごかったなぁ。

北村有起哉って、いい意味でどの作品でも、北村有起哉だよねー。どんな役演じてても「北村有起哉の演技好き!!」ってなる。


高良健吾の役不足感は控えめに言って最高だし、短い出番無のに、誠一をビンタしまくるシーンが脳内にこびり付いてるというか。スゴい。



勧善懲悪で無いし、綺麗事で片付けないし、スカッとしないし、悔しい事ばかり起こるけど、ラストに待ってるカタルシスが鑑賞後「明日も頑張ろう!」と思わせてくれる。

誰も傷付けない作品とか、登場人物みんな優しいとか、そういうのも良いけど、やっぱり自分はこういう映画を観たい。自分が持ってる認識を覆してくれる作品が好き。

石井裕也監督が体験して来たであろう屈辱や不条理を、花子が代弁してるのが良かったし、常識とか風習にカウンターパンチしてるのも良かった。


「月」を先に上映して、少し後に「愛にイナズマ」を公開した理由がなんとなく分かった。色んな事情があってたまたまこうなったのかもしれないけど、「月」を観た後に「愛にイナズマ」を観るのがオススメ。当たり前だけど「月」と類似した台詞もあるし、どちらの作品も理不尽な事、都合の悪いこと、にブチ当たってもがいてる姿は変わらない。



身体にイナズマが落ちたような衝撃。

マスクの下では嘘をつくし演技するし、でもカメラを向けられた姿が本当だし。

生きてる事は、演じる事。誰もが役者。

無かった事に出来ないし、自分の人生カットするところなんて無い。

そんな都合よく生きてられない。

意味も理由も無い事が起きるし、意味も理由もなく傷付けられるけど、それでも人生は続く。

しょうもない事ばかりだけど、石井裕也監督の撮る作品は素晴らしい。石井裕也監督のもとに集るキャスト・スタッフ・関係者の熱意が凄まじくて、今作も邦画史に残る傑作になった。

エンドロールで流れるエレカシの「ココロのままに」も最高!!



石井裕也監督の作品を観て感動出来る人間で良かった。

ネットでレビューを見る前に、何も考えずに観ろ!!この作品は素晴らしい!!

大好きな作品が増えました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?