見出し画像

喧騒と静寂-theme : 音

所属している大学が移転する。今のキャンパスは郊外にあるので聞こえてくる音といえばこの時期蝉の声くらいだが、移転先の街中ではエンジン音やクラクション、電車が通り過ぎる音なんかの音で溢れるんだろう。現代的で、人為的で、ありふれている。

現キャンパスの最終入校日を来週に控えた今週、様々な専攻が春学期の授業を終了し、学生総出の引越し作業を進めている。自分の専攻は最終入校日の前々日が最終合評なのもあり、引っ越しは遅々として進まない。窓から見下ろすと引っ越し業者のトラックや、大荷物を運び出す屈強な学生、細かいものを持って行ったり来たりする細っこい学生(うちではこちらが多数派)、懐かしのキャンパスに別れを告げにきたOB OG、彼らの車、と平常時にしては驚くほどの人やものでいっぱいになっている。いつも閑散としていたキャンパスに、最後に花を持たせてやろうということか。

対して室内はそれはもう静かなものだ。院生で朝9時半に大学にいるやつなんかいなくて、この先2時間は1人である。暗いのが好きだから蛍光灯をつけず窓からの自然光だけ、クーラーが壊れているからと総務課がよこしてくれたスポットクーラーの音と、そう、蝉の声がわんわんと響いているだけ。

暗い室内から夏の陽光で満ちた外を眺めやる。木々の緑が強い光を受けて発光している。そんな木すら揺らせるのではと思うほど大きな声で鳴く蝉、蝉、蝉。

蝉の声はずっと聴いていると一定の抑揚があるように思えてくるタイミングがある。大きくはない、細波のような小さい満ち引きがずっとずっと続いているように聞こえてくるのだ。森に入ったりするとそれを特に感じる。奥の奥まで、大きな声の小さい細波が続いていて、眩暈がする。そして大抵、単なる蝉の声にそこまで感じ取ってしまうほど聞き入っている時は少し疲れているので、早く静かな(本当に静かな)ところに行って休んだほうがいい。

静かでうるさい、暗くて明るい、端から整然とされていく雑然さとももうお別れだ。しんみりしながら1分くらいの記録動画をとっていたら、後ろから留学生が登校してきてかなり驚く。ちゃんと来てて偉い。

(文と写真 sio)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?