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「花咲か爺さん」を頑張って思い出しながら書いてみた

これも昔の話。あるところにお人好しの爺さんと婆さんが暮らしていた。
お人好しの爺さんと婆さんが暮らしている隣の家には、これまた爺さんが暮らしていて、
この爺さんの自慢の畑を荒らしたという理由で一匹の犬が叩かれていた。

そこにたまたま通りかかったお人好し爺さん。その優しそうなのんびりした顔を見て、「助けてもらえそう」と期待した犬は、お人好し爺さんの足元に隠れた。

犬が自分の足の周りでわんわんと騒いでいるし、隣の爺さんは怒っているしで「どうしようかなー」と思って突っ立っていたら、

「いや、俺本来こういう乱暴とかする人間じゃないしさ、それなりに心傷めてるし」と隣の爺さんの方が気まずくなり家に戻っていった。

犬はすっかりお人好し爺さんに懐いて家の中までついていってしまった。
それに驚いたのは婆さん。「あんた、その犬どうしたのよ?」と聞くも「いや、なんかついてきちゃって」と頭をポリポリしているので、
「また、この人は、お人好しなんだから」とすっかり呆れて、目も合わせず婆さんは黙って糠床を混ぜるのだった。

飼う予定のない犬ではあったが「名前もないのも可哀想よ」と婆さんが「ポチ」と名付けた。
爺さんはその犬を「ポチ」と呼んだり時々「シロ」と呼んだりしていたので、本当の名前はわからないということになっている。

ある日庭に出ると、ポチだかシロだかの犬が「ここ掘れワンワン」と泣くのであった。ワンワンワンワンうるさいので言われたとおりに掘ってみるお人好し爺さん。なんと、そこからは財宝がザックザック出てくるではありませんか。

それを見ていた隣の爺さん、「ここ一帯の土地って、かつて栄えていた城が沈んだ場所なの?全部掘ってみたら人生大逆転じゃね?」と興奮したが、「でもせっかく育てている畑を掘り返すのも嫌だし面倒だなー」と冷静に思う部分もあったので、「まずはあの犬の鼻を借りて、一発掘ってみるとしますか」と、膝をたたいた。

「というわけでさ、ちょっとお人好し爺さんだからできる相談なんだけどさ、しばらくその犬貸してよ」と隣の爺さん。
いつも他人に言われたまま言うことを聞いてしまうお人好し爺さんは、いつものように何も考えずにポチを渡してしまう。
ポチ(犬)は「クゥーン(そりゃないですってー!)」と鳴くのだった。

驚いたのは洗濯から帰ってきた婆さん。部屋には財宝はあるし、ポチはいないしで「爺さん、何があったの?」と聞くのだが、
爺さんは「はて、何があったんでしょう?」と逆に婆さんに聞く始末であった。

爺さんから1聞いて10理解した婆さんは「隣の爺さんはポチを叩くような人なんだから、今頃何しているか知らないよ」と真っ青になって、爺さんに今すぐポチを迎えにいくよう玄関の戸をあけて急かすのであった。

その頃、隣の爺さんの家では「ここ掘れワンワン」と犬が鳴く場所を掘り返しているところであった。ザックザックと財宝が出てくると思っていたのに、てんで期待はずれ、それどころかゴミが出てきたので「ここに生ゴミのコンポスト作ったの誰だよクソがっ!」とシャベルを振り回したら、それがたまたま犬に当たってしまった。

かわいそうに。思いがけず死んでしまった犬の亡骸。ちょうど、ノコノコと家にきた爺さんに渡す形で、二人の爺さん、ポチ(犬)を挟んで「可哀想に」「やっちゃったなー」「本当ごめんな」「わざとじゃなかったんだろ」と互いの罪悪感を薄めあった。

ボンヤリはしているが、心は優しく透明な爺さんなので、シロ(犬)のことを思い出してはため息をつき、犬の柔らかさや温かさを思い出しては、枕に顔を沈めて泣く夜が続いた。そんなある晩、ポチ(犬)が夢に出てきて「これから僕のお墓から芽が出て、あり得ないスピードで立派なに木になるんで、その木を切って臼にしてください」というのであった。

夢から覚めた爺さんは、忘れないうちに「あのさ婆さん、臼と杵って、どっちがどっちだっけ?」とに聞くのだが、「…手に持つ道具が、杵!!」とキレ気味の婆さん。

怒られすっかり小さくなってしまった爺さんだが、毎年正月の度に婆さんに同じことを聞き続けて、これで50回目である。

庭に埋めたポチ(犬)の墓からは、夢の予言どおり、芽が出てあっという間に立派な木になった。
「ここまで予言通りになったのに臼を作らない人間いる?いないよね?」と小さな体で爺さんは木を切り続けた。

狂ったように木を切る爺さんを他人のように見ながら「この夫にはもう何も期待していないんだな」と自覚を深める婆さんであった。

すっかり婆さんにも見放された爺さん。「えっと、どっちだっけな、手に持つやつが杵だから、あのスツールみたいな方が臼だよね?」と自分の記憶を頼りにしながら、せっせと彫った。

手にマメを作りながら完成させた臼で餅をつくと、なぜか餅が大判小判なるので、「ちょっと忙しいところ悪いんだけど、婆さん、これどういうことかみてくれる?」と聞くのだが、流石の婆さんもわけがわからない。

とりあえず、「すごいことが起きたのか?」と夫婦で大興奮、「めざましテレビに電話して取材に来てもらう?」と手を取り合って喜んだ。このボンヤリ爺さんの家に嫁いで50年目、テレビに出れるレベルのご褒美が来たと涙する婆さんは、幼児のように可愛く、すべてを悟った仏のように美しかった。

それを見ていた隣の爺さん、「餅が大判小判になっていく感触ってどんなかんじかな?」と興味津々、「それに自分も朝のテレビに出たいなー」とムクムクと欲が出てきて、爺さんに杵だか臼だかを借りにいくのだった。

さすがのお人好し爺さんも少し躊躇し「(婆さんに怒られるから)絶対返してよ」と念を押しながら、やはり言われるがままに貸してしまう。

腕まくりをして早速餅をつく隣の爺さんだが、これまた期待は大外れ、なぜか幽霊が出てきたので、「これは成敗しなくては」と勝手にお焚き上げに持って行ってしまった。

灰にはなったが約束通り臼を返しにきた隣の爺さんと、その灰を受け取り「マジかー」と左手を目に当て、天を仰ぐお人好し爺さん。

「いや、明日テレビの取材が来るからって婆さん今美容院行ってんだけど、マジでどうしよう?」と灰を手に、トボトボと河原を歩いていると、風がビューっと吹き、灰がかかった桜の木の枝から、次々と花が芽吹いていくのであった。

「え?どういうこと?」「何が起こった?」と、たまたま見ていたのは、パーマを当てて帰ってきた婆さんと、隣の爺さん、そしてお殿様。

しばらく桜に見惚れたあと、馬からスッと降りて手綱を持ち、シャンと立つお殿様。さすが人の上に立つ人間というかんじで、強さと柔らかさを兼ね備えた声で「そなたがこの桜を咲かせたのか?」と眼光鋭く聞くのだが、このお人好し爺さん、肝心な場面で気の利いたことが言えない。

「え?いえ、私は何もしていませんけど。すんません。」とタメ口。

そこで婆さんが「はい!私が咲かせましたって言わんかい!このド天然が!」と突っ込むよりも早く、隣の爺さんが「この私めが、桜の花を満開に咲かせて、お見せいたしましょう」と身を乗り出して言ったのだった。

そして、ギンギンになった目で「貸せ」と灰が乗ったザルを奪い取るように自分の胸に抱えた隣の爺さん。

ザルを奪われた手の形のまま「あー、こういう時に人間の性格って出るよね」とぼんやり思うお人好し爺さんと、その妻であった。

しかし、隣の爺さんが灰を撒いても、桜の花は咲かない。ビューと吹いた風で灰がお殿様の目に入ってしまった。「わ、マジでやめてよ、結膜傷つくと大変なんだよ?」
強さと柔らかさを兼ね備えた気品のあるお殿様ではあるが、結膜の擦り傷に関しては完全にオコである。

「もー、やだー、ホント無理なんだけど、とりあえずこの人を牢屋に入れちゃって」と目を抑えたまま顎で指示をだし、隣の爺さんは家来に連れていかれてしまった。

「この殿様を喜ばせると凄そうだけど、ちょっとでも怒らせるとやばそう」という雰囲気が漂う。デッド オア アライブである。

この緊張感の中、今まで受け身であり続けた爺さんは勇気を出す。
だって、どっちに転んでも、妻に見捨てられるか殿様に連れていかれるかのどっちかじゃないか。

小さな頃から自分の母上、父上、そして現在の妻に言われ続けていたことが、心の中でこだまする。

なんでもいいから頭を使え!
自分の言葉で説明しろ!
自分の力で人生切り開け!
今、ここで自分の状況を、自分の言葉で、変えていけ!!!

僕はここから変わるんだ。スッと目を閉じて、胸に手を当て誓う。

目が痛すぎて一時取り乱した殿様は、その失態を繕うように、優しく耳元で、歌うように言うのだった。「ほら、この灰で咲かせてごらんなさい?」

完全に覚醒したお人好し爺さんは、桜の木に登ると「枯れ木に花を咲かせましょう!!!」と灰をばら撒き、あたり一面の桜が満開になったのでした。

ひとりの男の人生大逆転劇を見届けた婆さん。満開の桜の上には清々しい青空、一つの雲がポチ(もしくはシロ)のような形になって、くぅうーん!!と鳴いた気がした。



この物語は、爺さんと言われる年齢まで、受け身でぼんやり生きてきた男性が、
まるでおとぎ話のような展開でブレイクスルーしていくお話である。



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