読んだもののメモ

 文フリやらなにやらで感想のメモをさぼっていたので、まとめて置いておきます。

エレナー・スコット

「At Simmel Acres Farm」
主人公の友人マーカムはラグビー好きだったが、腰を痛めてしまう。休養が必要ということだったので、ふたりは友人の先祖が住んでいたというコッツウォルズの村へ向かう。
滞在先の農場には奇妙な囲い地があり、地元の人間はそこを嫌っているということだった。なかは草ぼうぼうで、奥には水のわき出る井戸があり、古代ローマ風の胸像があった。
主人公は囲い地が療養にぴったりだと考えて、マーカムをそこに寝かせる。だが、しばらく経ってもどると、彼はなにかラテン語の文句を呟いており、さらには井戸の水を飲みたいと言い出す。
主人公が衛生面の心配をしつつも水をわたすと、マーカムは満足そうに飲んでいたが、そのあとで寝ているときの様子は胸像そっくりで、主人公はぎょっとする。
それからのマーカムはなにかに取りつかれているようだった。夜中にぶつぶつしゃべっているところに入っていくと、妙な影がわだかまっていたり、胸像とよく似た表情を浮かべていたり……。
異教の由来らしい井戸と胸像にまつわる話。怪物がそのまま出てくるというよりは、マーカムに取りついて変貌させていくというところがちょっと変わっている。彼の先祖の行いが関係しているような描写も意味深長でよかった。

「"Will Ye No' Come Back Again?"」
おもしろかった。
主人公のアニスはやり手の実業家で、今度は女性向けホステルを開こうとしていた。そのために買い取ったのはクイーンズ・ガースという館で、持ち主のキャンベル家が死に絶えて以来、長いこと空き家になっていたのだった。
友人たちはその屋敷に「うわさ」があるとしてアニスを心配したが、実務家の本人はまったく気にしなかった。それどころか館を目にした瞬間に心を惹かれ、すぐに購入したほどだった。
アニスは館の改装をはじめるが、訪ねてきた友人がなにかに怯えたり、だれもいないのに泣き声が聞こえたりして……。
この年代のこのジャンルで、主人公が女性の社会進出を進める実業家というのはあまり読んだことがないのだが、ただそうした人物を出すだけではなく、ちゃんとストーリーの鍵となるように書かれているところがいい。結末は謎めいているが、おそらく屋敷に宿る力と一体化(乗っ取られた?)ような感じだと思う。幽霊を直接登場させない技法も効果的でよかった。

ロード・ダンセイニ

「The Curse of the Witch」
ジョーキンズもの。
例のクラブで、魔女が話題になる。ジョーキンズは魔女を信じるかと聞かれて、魔女そのものは見ていないが、その力が作用するところは見たことがあるという。
彼は若い頃、気まぐれからスペインの田舎の村に滞在したことがあった。穏やかな心地よい村だったが、夜になると、荒野に建つ屋敷から、犬の怯えた鳴き声が聞こえるようになる。
ジョーキンズが調べたところでは、その屋敷はもともと、古い家系の貴族が所有していた。だが、財産が底をつきたため、やむを得ず、アメリカ人の一家に売り渡した。
引っ越しが済んだ日の夜、一家は図書室に集まっていたが、古い家具から差す影のせいか、だれもが囁き声になってしまって……。
この話は初期作品と似た雰囲気があるように思った。屋敷のまじないもそれをかけた理由も不明なのだが、現代的な一家が古々しさに圧倒されていくところはなかなかおもしろい。

H・R・ウェイクフィールド

「The Animals in the Case」
主人公は若くして成功した劇作家で、人間嫌いのわりに、鋭い人物描写で高く評価されていた。母親を自殺で失っており、その遺体を目にして以来、悪夢に悩まされていた。
彼は犬と猫を飼っており、早朝に散歩するのを習慣としていた。ある日、そうして散歩に出ると、池に見慣れない鴨がいるのに気がつく。片目がない雌の鴨で、気性が荒く、餌のためならほかの鳥を蹴散らすほどだった。
主人公はなぜかこの鴨が気に入るが、犬と猫はひどく嫌っていた。そうするうちに、彼の悪夢にはこの鴨が出てくるようになる。
しばらくして、彼が鴨の群れに餌をやっていると、例の鴨が大群の怒りを買って殺されてしまう。血みどろの死体を見た主人公は震え上がり、以後は鴨の死体が夢に出てくるようになり……。
公園で見慣れない鴨を見かけるという書き出しで、ここまでは日常的なのだが、そのあとがすごい。だんだんと主人公の背景が明らかになり、彼が抱えるトラウマと鴨が結びつくさまが描かれ、劇的なクライマックスにつながる。幽霊らしきものはほとんど出てこないにもかかわらず、超常的なものを感じさせる、すさまじい作品だった。

アルジャナン・ブラックウッド

「Her Birthday」「The Invitation」
ともに超自然要素のない短篇。
前者は、特別な想い人へ誕生日祝いの手紙を書くという話。ありきたりな書き出しと結びの文句も、真心がこもっていれば、すてきなプレゼントになるという内容……だと思う。店員が主人公に「お客さんが探しているものは売りものではないのでしょう」と伝える場面で、ある種の神々しさを帯びるところはちょっと幻想的だった。
後者は、顔見知りの男ふたりが、出くわすたびに(社交辞令として)今度お昼でもどうだと誘うが、結局実現しないという話。こちらも日常的な話だが、目のつけどころがちょっとおもしろかった。

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