読んだものメモ

マシュー・G・リーズ「Driftwood」「The Lock」「Queen Bee」、ラムジー・キャンベル「Boiled Alive」、アダム・ネヴィル「Pig Thing」、H・R・ウェイクフィールド「The Assignation」、アルジャナン・ブラックウッド「Along Came a Spider」「The Fear of Heights」を読んだ。

「Driftwood」
主人公が聞いたところでは、学生時代の友人が、夜な夜な海辺に繰り出して、全裸で流木にまたがっているという。
その流木は巨大な怪物のようで、枝をふんばって海へ入ろうとしているようにさえ見えた。
ある夜、妻にたたき起こされると、その友人がまた流木にまたがっているらしく……。
巨大な生き物のように横たわる流木とそれにまたがる裸のおじさんという構図がシュールだった。

「The Lock」
主人公の老人は、少年時代に過ごしたおじの農場へ行こうと、船で運河を進んでいた。一帯を開発してリゾート地にしようと考えていたのだ。
やがて農場に着くと、そこには死んだはずのおじ夫妻がおり、屋敷の窓からは幼い頃の彼自身が現在の彼を見下ろしていた。
彼は慌てて逃げ出すが、屋敷やその土地が追いかけてくるのを感じる。
船で旅をするうちに記憶がよみがえってきたようにも読めるけど、土地そのものが男の意図を見抜いて追い返したようにも思える。屋敷とかもろもろが追いかけてくる(ように主人公が感じる)場面は迫力がある。

「Queen Bee」
養蜂家のルゼルフはウェールズの田舎に住んでいた。ある日、そこに若い養蜂家のロバーツが越してくる。ルゼルフは彼を訪ねて蜂蜜を試食するが、その味はまさに最高で、嫉妬の念を覚える。
その後、ルゼルフは蜂が妙におとなしいとロバーツに指摘され、ますます怒りをかき立てられる。彼は新来者を亡き者にすべく計画を練り、病気の女王蜂をプレゼントする。ロバーツはそんなこととは露知らず、お返しにとっておきの女王蜂を渡してしまう。
その後、ロバーツの巣では病気が広がり、ついには彼自身も自殺する。一方のルゼルフはロバーツの女王蜂で極上の蜂蜜を大量生産し、巨大な容器にいっぱいためていた。
ある夜、彼がいつも通りに全裸で寝ていると、やたらとすばしこい蜂が飛んで……。
蜂蜜をめぐる奇妙な話。ルゼルフは筋金入りのいじわるじいさんなのだが、それだけにまぬけな最期にはインパクトがあった。

「Boiled Alive」
ある夜、主人公のもとに電話がかかってくるが、相手は「生き茹で」とだけ繰り返しており、主人公はいたずら電話だと考える。その後、また電話がかかってきて、今度は「ドンカスター博士のお宅ですか?」と聞かれる。
主人公はどちらも相手にしなかったが、ある日、レンタルビデオ屋で『生き茹で』というSFホラー映画を見つける。
上司の家のプレイヤーを借りて観てみると、ドンカスターという科学者が精神エネルギーの実験をした結果、生き茹でになるという話だった。しかも、ドンカスター博士の家の電話番号は主人公宅と同じだった。また、刑事が博士に電話をかける場面では「ドンカスター博士のお宅ですか?」というセリフまであった。
自分が現実だと思っていた世界は実は別のなにかだったという話で、のちの「The Pretence」に通じるものも感じられる。主人公の精神状態がだんだんと不安定になっていくところはサイコホラーぽいかもしれない。

「Pig Thing」
おもしろかった。
舞台はニュージーランドの森に建つバンガローで、最近英国から越してきた家族が住んでいた。
三人の子どもはしきりに「豚みたいなの」という怪物がいると言っていたが、両親は相手にしなかった。
だが、ある夜、「豚みたいなの」が窓のところに現れる。両親はバンガローから逃げようと考え、父親が外に出るが、それきりなんの音もしなくなる。母親も様子を見に行ったきりで、あとには子どもだけが残される。その後、長男も近所に住む老夫妻のところへ向かい、次男と長女は冷凍庫のなかに隠れるが……。
森のなかに建つバンガローで怪物に遭遇するというだけでも怖いのだが、ラストを除くと、子どもの視点で話が進むため、背景となる情報が限られていたりして、余計に恐怖がかき立てられる。そのラストも安堵しかけた読者を一気に突き落とすようなものだが、作中にはちゃんと伏線が張ってあって、こんなかたちで最後につながるのかという驚きもあった。

「The Assignation」
おもしろかった。
妻を亡くして隠遁している怪奇作家と、それを見かねて外に引っ張り出そうと説得する通俗小説作家。怪奇作家は友人の話を快く聞いていたものの、十一時半になると、もう帰ってくれと言い出す。通俗小説作家はどうにか粘り、静かにしているという条件でその場に残る。
すると、外の階段に軽快な足音がして……。
大半は作家ふたりの会話で占められているのだが、通俗作家氏は「ゴーストストーリー読者は精神が不健全」だとか、「ほかのジャンルも書けるんだから、怪奇小説を執筆するのは才能の浪費」という説を開陳していて、なかなか興味深い。本作の怪奇作家はウェイクフィールド本人を彷彿とさせるし、彼はほかのジャンルの小説も書いていたので、もしかするとこうしたことを実際に言われて腹を立てていたのかなと思ったりした。

「Along Came a Spider」
よかった。
蜘蛛恐怖症に関するラジオトーク。
ブラックウッドは蜘蛛が苦手だったらしく、悪夢もしょっちゅう見ていたらしい。それでもなお、なぜ恐怖を抱くのかと探究するところはさすが怪奇作家だと思った。また、苦手だとしつつ、蜘蛛のすばらしい点も詳しく紹介しているのがとてもいい。蜘蛛の姿を見ていなくても存在を察知できる婦人の話など、奇妙なエピソードが出てくるのも楽しかった。

「The Fear of Heights」
こちらは高所恐怖症についてのラジオトーク。
高いところを怖がる人間と怖がらない人間がいるのはなぜか、そうした恐怖はなにが源なのかといったことを、作者自身の登山体験を交えて考察している。
いちばんぞっとしたのは、登山ガイドが崖っぷちで逆立ちをしてみせたくだりかな。怪奇小説とはまた違った意味で怖かった。空を飛ぶ夢の話も出てきて、個人的にはこちらのほうが楽しかった。

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