パシフィック・リム:アップライジング感想(半分批評みたいなもの)

パシフィック・リム:アップライジングを観ました。かなり面白かったです。以下ネタバレ全開で色々語るので未見の人は(特に観る予定の人は絶対に)読まないでください。












まず、これを作り上げたスティーヴン・S・デナイト監督を褒めたいです。よくぞこのプロットを一本の映画にまとめ上げたと。そしてこの映画、良いところと悪いところがたくさんあります。

良かった所

・前作よりもしっかり映る脇役イェーガー達

・ジェイク・ペントコスト主人公のドラマとしてきっちり筋が通っている

・あまりに特撮とロボットアニメが好きすぎる演出の数々(例:若者で占められたメインキャラ、敵イェーガーとのバトル、空飛ぶイェーガー、メカKAIJU、合体KAIJU、巨大特撮の動きをやたらこだわって再現したセイバーアテナなどなど)

・オブシディアン・フューリーの存在感

・前作の視聴者を驚かせるどんでん返しの描写(特にニュート)

悪かった所

・前作からさらに設定を詰めこみすぎて語りきれていない世界観

・デルトロ監督が持っていた芸術性がなくなり、神話のメタファーとしてのイェーガーとKAIJUの構図が失われた

・キャラクターが多すぎることによる描写不足

・ジプシー・アベンジャーがジプシー・デンジャーほどの存在感を放っていない。

・前作の最初から最後までクライマックスをぶっ続けで畳みかける構成を踏襲できていない

・(予想通りの)中国推し描写

以上を踏まえてアップライジングに対する正直な感想を述べると、「前作ほどテンションは上がらないが大好きなシーンがたくさんある」という映画でした。そもそも前作が100点満点で余裕で500点ぐらい行っていた映画なのでマイナス点が気になりますが、普通に一本の映画として、あるいは普通の続編映画のハードルで見た場合この映画も完成度は相当に高いと思います。

ギレルモ・デルトロが監督しなかったことによる作家性の変化ですが、デルトロ監督がオタク気質のアーティストなのに対して今作のスティーヴン・S・デナイト監督は完全にオタク気質のオタク監督です。デルトロ監督のロボットアニメを神話のレベルまで分解して再構成し随所にメタファーを入れた上でドラマとしても成立するよう計算し尽くしたプロットから、とにかく巨大ロボットが動く姿が観たいという欲望と視聴者を引っ張るストレートな青春ドラマを組み合わせたロボットアニメそのままのプロットへ変わりました。メインのパイロット達が全て若者だとか、ヒロインが15歳のロボット好きの天才少女といった設定はデルトロ監督ならやらなかったと思います。

個人的にデナイト監督の作風が一番よく出てると思うのはイェーガーの戦闘シーンで、とにかくCGに対するこだわりが凄まじく、ここは最初の予告の印象に反して前作を上回っていました。ジプシー・アベンジャーはジプシー・デンジャーに比べて頭が大きいウルトラマン的な体格になってますし、機動性の高いセイバー・アテナは特撮特有の微妙に重心が不安定な前蹴りを完全に再現しています。前作より全体的に軽快になって重厚さは失われていますが、このこだわりがオタク的にはとにかく嬉しくて観ていて全く気になりませんでした(鉄の塊としての演出がなくなったのはちょっと寂しい)。ジプシー・アベンジャー対オブシディアン・フューリーの戦闘シーンは人間的な軽快な動きとロボット的な重い動きをシーンによって上手く切り替えて進むのでロケーションと合わせて迫力抜群でした。ついでに話を詰め込み過ぎて影の薄いKAIJUですが、終盤で合体KAIJUが登る山の描写が明らかに特撮に出てくるミニチュアの木を植えまくった山なのも最高でした。


さて、マイナス点について語ろうと思います。

この映画の最大の欠点は「前作以上に詰め込み過ぎている」ことです。イェーガー対KAIJUのシンプルな構図ですら2時間ギリギリだった前作から、さらに敵イェーガー、無人イェーガー、合体KAIJUといった新要素が詰め込まれ、それら全てを2時間に収めるために話の進みが全体的に駆け足で、かなり色々な部分が犠牲になっています。結果としてジェイクとアマーラ以外のパイロットはキャラが薄く、(前作もだが)ストーリーはほぼ司令部の中だけで進み、マコの死は掘り下げられず、ジプシー・アベンジャーは大暴れできず、終盤のKAIJU戦も前作ほど盛り上がらない、といった無視できないマイナス部分が生まれています。

ただ、個人的にこれらの要素は全て監督の力量不足ではなく今作の宿命だと思います。

まず、前作パシフィック・リムは「4クールアニメの最終話手前だけを切り取った劇場版総集編」と言われていました。前作自体が総集編であり、そもそも描写不足の塊なのです。だからファンはパシフィック・リムの物語を更に見たいと思い、続編のアップライジングが生まれました。よって、続編にはかなりの制約が生まれます。まず「描かれなかった前半部分に相当する話を描くこと」。そして「見劣りしない4クールアニメのスケールの物語を展開すること」。そして「新作として設定を更に発展させること」。

設定と4クールぶんのあらすじを全てモノローグで済ませてラストバトルだけをクローズアップして描けた1作目と違い、2作目の映画は新しい設定と物語をきっちりと最初から描かなくてはなりません。更にファンが観たいものは前作で描ききれなかったバリエーション豊かなイェーガー達の戦う姿です。製作決定の時点で2部作が発表されていましたが、前半部分だけでもまともに描いたら2時間に収められたものではありません。

しかしデナイト監督はやってのけました。神話性を削除したことでファンが想像し観たかった映像を全て詰め込み、2時間のドラマにほぼきっちりまとめ上げました。これは本当にすごいことだと思います。

作風の好みはあり、もしデルトロ監督が撮っていればより重厚な演出、重厚なプロットで、細かな役割を与えられ整理されたキャラクター達で展開される物語になったとは思います。ただ、イェーガー対イェーガー、KAIJU化した瞬間角が生える無人イェーガー、死の直前に一矢報いるタイタン・リディーマー、腕を突き出してウルトラマンばりに飛ぶジプシー・アベンジャー、むやみやたらとぶっ壊されるトーキョー(明らかに東京ではない)の映像などはデナイト監督のよりオタクな感性がなければ生み出せなかったものだと思うのです。

色々面倒なことを書きましたがパシフィック・リム:アップライジング、前作には及ばないまでも十分に名作と言えるオタク映画です。字幕版だったので吹き替えでもう一回観たい。あと続編!!!!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?