Vulfpeck新プロジェクト「Wong's Cafe」全曲完全解説
KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、33回目の連載になる。では、講義をはじめよう。
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今回は、Vulfpeck(ヴォルフペック)の新しいプロジェクトとして発表された「Wong's Cafe(ウォンズ・カフェ)」についてまとめていきたい。
先日、サブスクリプションで「Wong's Cafe」の全曲が解禁され、その全容が明らかになった。
まずこのアルバムには、実は大きな謎がある。「果たしてこれはVulfpeckなのか?」というものだ。
実は今回のアルバムは、
①YouTubeでは「Vulfチャンネル」でリリース
②サブスクでは「Cory Wong」名義でリリース
③実際のレコードには「Wong's Cafe」だけ表記
という形で発表された作品であるため、誰の作品、何のためのアルバムなのか、というのが分かりにくくなっている。
それでも、この発表された楽曲群や、Coryのインタビューから、その答えを解明することができた。
結論から言うと――
今回の「Wong's Cafe」は、
2019年のVulfpeckのレコーディングと、2021年までのCory Wongのレコーディングをまとめた、コンピレーションアルバム
である。
それではまずアルバムの概要解説、次に全曲解説を行いながら、Coryの意図を解き明かしていきたい。
Wong's Cafe(ウォンズ・カフェ)概要
「Wong's Cafe」は、2021年12月10日~2022年1月8日の間、Vulf Recordsから発売されたレコードであり、「Vulf Valut」シリーズの5作目となる。
Vulf Records(ヴォルフ・レコーズ)はこれまでVulfpeckとTHE FEARLESS FLYERSのレコードをリリースする際の販売元になっていたレコード・レーベルであり、
VulfpeckリーダーのJack Stratton(ジャック・ストラットン)による経営のもと活動するインディーズ・レーベルだ。
Vulfpeckは悪疫の影響で2020年からレコーディングがストップしており、Jackはそこから「既発曲を再リリースする」という方針でレーベル活動を行っていくことにした。それが「Vulf Valut」シリーズである。
これらはVulfpeck主要メンバーをテーマにしたコンピレーションアルバムで、例えば1枚目となった「Vulf Vault 001: Antwaun Stanley」は、Antwaun Stanley(アントワン・スタンレー)の参加曲のみを集めたコンピレーションとなっていた。
「Vulf Valut」シリーズは基本的にはすべて既発曲のみで構成されていたが、ジャケットは全く新しいデザインとなっており、さらにJackが「再発は行わない」と明言していたために、ファンにとっては重要なお布施の対象となった。
そしてその第5作目としてリリースされたのが、今回の「Wong's Cafe」となる。
「Wong's Cafe」も過去の「Vulf Valut」シリーズと同様、主要メンバーを対象にしたアルバムとなっている。つまり今回は「Cory Wongをテーマにしたアルバム」という位置づけだ。
しかし、「Wong'sCafe」は過去の「Vulf Valut」シリーズと決定的に違う点がある。それは、ほぼ全てが新曲だったということである。
これについては、2022年5月号のギターマガジンに掲載されたCoryのインタビューで、その意図が解明された。
新曲のみで構成するのはCoryの案で、またVulfpeckのレコーディング・セッションでお蔵入りになっていた動画・曲が複数あったことから、この形に落ち着いた、ということだ。
詳しくは個々の曲の解説で述べるが、曲の内訳は以下のようになっている。
■「Disco De Lune」「You Got to Be You」「Let's Go!」「Radio Shack」の4曲は、2019年にVulfpeckが集まった時のセッションでレコーディング。
■「Smokeshow」「Sweet Potato Pie」「Out in the Sun」はCoryがバンドメンバーやWoodyと、おそらく2021年にレコーディング。
■「Memories」「Guitar Music」「Kitchen Etude」は、Coryひとりで、やはりおそらく2021年にレコーディング。
さらにタイトルやジャケットは、Coryの祖父と祖母が始めたお店から取られていることがわかっている。
また、CoryのYouTubeでは、「Wong's Cafe」は「Coryがサブスクにアップロード処理を行なった」ことも語られている。これは、Coryが「自分のアルバムとしてリリースすることにした」と話している点とも一致する。
また、なんと「Wong's Cafe」は、Vulfpeckのアルバムの中で最も売れた作品だと言う。
これはVulf Recordsにおけるクラウドファンディングでのレコードの販売数について語っていて、「Wong's Cafe」は10458枚の注文が入っていた。
2位がTHE FEARLESS FLYERSの「Tailwinds」で9059枚。Vulfpeckのアルバムに限定するのであれば、次は「The Joy of Music, The Job of Real Estate」の7604枚である。(参照:https://qrates.com/artists/12114)
これはCoryの世界的な人気と、悪疫があった後、最初のVulfpeckの新曲が発表されたレコード、ということで多くの注文が入ったことによるものだと思われる。ここは、Coryのビジネスセンスも強く感じるところだ。
では概要解説は終わりにして、各曲の解説へと入っていこう。
1. Smokeshow
アルバムの1曲目を飾るのは、2021年12月8日に公開された曲。
「Smokeshow」という名前どおり、ファッションショーに使われていそうな感じの、ちょっと妖艶な曲になっている。ジャンル的には非常に曖昧で、16ビートではあるが、ファンクというよりはCoryが得意とする「エレベーター・ミュージック」、つまりスムース・ジャズに近いと言えるだろう。
これは、Woody Goss(Vulfpeckメンバー)が作曲したものをCoryがアレンジ。Coryが鍵盤とサックス以外は全てレコーディング、後からEddie Burbush(※1)がサックスを追加した。
これはすべてリモートでレコーディングされたもので、Coryがほぼ全てを演奏していることからも、Coryのソロ・プロジェクトの曲である。
(※1 エディー・バーバッシュ(Eddie Barbash):Coryバンドに現在参加しているサックス奏者。以前、Vulfpeckにも楽曲「Eddie Buzzsaw」で参加したり、ライブにも複数参加している)
Coryがすぐにアレンジの全体像を見越せたのは、おそらく彼がこういったスムース・ジャズの曲を多数レコーディング&アレンジしてきたからだと考えられる。
本来のWoodyのデモがどんな感じだったのかは定かではないが、Coryが自らアレンジの際にかなりスムース・ジャズに寄せたのではないだろうか。
またCoryの口からも語られているが、YouTube動画はJack Strattonが担当した。映像はなぜか1995年のジャンニ・ヴェルサーチの、春のランウェイが使われている。このあたりのセンスがジャックらしくて面白い。
また、曲のタイトルは最初Woodyが考え、後に「Smokeshow」に変更されたと語られている。
「Smokeshow」は、2021年末に公開されたCoryバンドのライブ映像「WONG ON ICE!」でも演奏されており、ライブにおける定番曲となっている。
2. Disco De Lune
2021年12月14日に発表された2曲目。これが、約1年半ぶりとなる、Vulfpeckメンバーが勢ぞろいした演奏の動画となった。
これは「Vulfpeckの新曲」である。
ただ前述のように、これは過去にレコーディングされていた曲と動画である。
具体的には、「The Joy Of Music, The Job Of Real Estate(2020)」のためのレコーディング・セッションで録音されていたがお蔵入りになっていた曲で、場所やタイミングに関してもCoryがその詳細を明かしてくれた。
今回のアルバムには、このデンバーのスタジオでのレコーディングが合計3曲出てきたが、これらは全て、2019年に「3 on E」のインストゥルメンタルがレコーディングされたスタジオと同じであり、
その曲が入っていた「The Joy Of Music, The Job Of Real Estate(2020)」のレコーディング・セッションの時の作品という話の裏付けになっている。
メンバーはVulfpeck主要メンバーのうち、ヴォーカルのAntwaun Stanleyを除いた6名が揃っている。Antwaunも翌日のレッド・ロックスのライブには出演していたが、このレコーディング・セッションはインスト曲を録るという目的があったため、不参加だったのだろう。
作曲はJackで、内容は完全にVulfpeck初期、ミニマル・ファンクのアレンジだ。曲名はフランス語で「ディスコの月」という意味。
2012年のアルバム「Vollmilch」あたりを思わせる、いかにもこのうえにヴォーカルが乗りそうなアレンジ。そして当時とは違い、今回はディスコの曲になっている。
基本的に、Jackはピアノでベースラインしか弾いていない。おそらくJackがピアノの両手を使ってコードとベースラインを作って、その右手のコード部分をWoodyが弾いているのではないかと思われる。
また、JoeのベースもJackのピアノと一緒に慣らされているが、後半でそれを壊さないように、わずかなスキマにJoeがとんでもないフレーズを詰め込みまくり、Coryがニヤケるシーンが出てくる。
3. You Got to Be You (Instrumental)
2021年12月22日リリース、さきほどと同じデンバーのスタジオでレコーディングされた、Vulfpeckの新曲である。
やはりJackがピアノで作曲。これに関しては先日、JackがYouTubeのライブ配信でピアノによるチュートリアル動画を公開した。
内容的には、やはり初期を思わせるミニマル・ファンクのアレンジとなっており、いかにもソウルのバック・トラックといった雰囲気も、完全に「Vollmilch(2012)」の頃のVulfpeckである。
2021年末に公開された久しぶりの新曲が、活動初期のスタイルだったというのは、ファンへの何よりのプレゼントだったように思えてならない。
メンバーやスタジオ、録音されたタイミングも、先ほどの「Disco de Lune」と全く同じである。
Jack、Woody、Joeyの3人が並んで鍵盤を弾く構図になっており、こうした「画の面白さ」も取り入れているのがVulfpeckの面白いところだと言えるだろう。
またこの曲は表記が (Instrumental)となっているため、後に歌入りのテイクがリリースされるのがほぼ確実である。Vulfpeckは常に、そうやって曲をリリースさせてきた。
それが次に発売されるVulfpeckのニューアルバムになるのではないか?という予想をしているのだが――果たしてどうなるだろうか。
4. Let's Go! (instumental)
2021年12月29日に発表された新曲。これもVulfpeckの新曲だが、細かいことを言うとちょっとだけ違う。
正確には、Coryの「Airplane Mode」を基にして、Jackがイントロのギターなどのアレンジを加えた曲だ。
Coryのソロ曲をモチーフにしてJackがアレンジを施すのは、THE FEARLESS FLYERSの「Simon F15」も同様であるため、ふたりの間では慣れたやり方だったのかもしれない。
ちなみに、この曲も(Instrumental)表記になっているため、いずれ歌入りでリリースされるだろうと思われる。
イントロ、おおよそJackらしからぬ歪んだギターのリフが印象的だ。しかしすぐにCoryの爽やかなメロディーが始まって笑ってしまう。この対象的なアレンジはJackによる意図的なものだろう。
メロディを何度もCoryとJoeが一緒に弾く瞬間があり、そのシンクロ具合も非常に気持ちがいい。このテイクの半分くらいは、そこを聴くためにあると言っても過言ではないかもしれない。
またVulfpeckでは非常に珍しく、Woodyのアドリブソロを聴くことができる。
レコーディング&撮影に使われたスタジオはおそらく、Mike Viola(※2)所有の個人スタジオ。これは「Radio Shack」のレコーディングでも使われており、どちらの曲もカメラ、エンジニアはMikeになっているため、そう予想している。
さらに、おそらくこの「Let's Go!」がレコーディングされたタイミングも、「Radio Shack」がレコーディングされたのと同じタイミング、2019年だと思われる。場所が同じだけでなく、Jackの服装もまったく同じになっているのが理由だ。
Coryのインタビューでの話にあったとおり、「The Joy Of Music, The Job Of Real Estate(2020)」のレコーディング・セッションで「Radio Shack」と一緒に録音されたものだろう。
(※2 マイク・ヴァイオラ(Mike Viola):アメリカの有名シンガーソングライター&プロデューサー。TheoがファンだったことからVulfpeckと関わりが始まり、Mikeは「For Survival(2018)」にシンガーとして参加。以降は「Radio Shack」と本曲のクレジットで参加している。)
5. Memories
さて、ここからは現在、動画が公開されていない曲となる。しかし、クレジットに関してはCoryのInstagramで判明したので、それを転載させていただきたい。
クレジットからも分かるように、これはCoryによるセルフ・レコーディング作品だ。演奏時間も1分15秒と短い。この曲に関してはYouTube動画で解説が行われている。
まず、タイトルの「Memories」は、古代の地球や、何世代か前のものと自身が繋がるイメージで付けられたという。
この曲はCoryによるメロディ、バッキング、ベースが重ねられ、ドラムは入っていない。
解説によると、この曲は弦楽器だけで生まれるハーモニーに重点が置かれた曲で、彼の独自のサウンドメイキングが活きているという。
動画の解説によると、この曲の基本はギターメロディー、ギターカッティング、ベース の3種類の演奏で構成されているが、その中身が繰り返し、繰り返し録音されているため、通常のギターやベースの音を超えた、豊かなハーモニーになっているとのことである。
例えば、ギターメロディーだけでもなんと9回レコーディングされている。
コリーがここで語っているのは、彼はギターメロディーのハーモニーを①メロディー、②追加の2声のハモり、③さらに追加する刺激的なハモり の考え方で組み立てていくらしく、それをさらに左右のチャンネルで録音していたら9チャンネル分になった、という話だ。
特に、③さらに追加する1声の刺激的なハモり の内容が重要だということを熱く語っている。ちょっとここはマニアックな話だが、コリーのプレイを研究するギタリストにはヒントになるかもしれない。
ここはギタリストにとって非常に重要な話だが、それを聴いているドラマー、Peterの顔をご覧いただきたい。
ちなみに、バッキングパターンが常に固定であることに関しては、「"マントラ"のようにひたすら繰り返すパターンを演奏することで、曲のテーマに沿った何かを生み出せると思った」と語っている。
またベースラインも3回レコーディングされているが、左右のチャンネルに通常のオクターブ、中央に1オクターブ低いベースを配置して、独特の音像を狙ったとのことだ。
ベースのピッチシフトはLogicのプラグインで行い、これは2021年に一緒にレコーディングしたKimbraから教わったとのことだ。
この曲のクレジットではJackがマスタリングを担当しているが、これは最終的にレコードをプレスしたのがJackであるため、その処理をJackが行った、という意味である。実際にVulfpeckが楽曲の内部には一切関わっていない、まさにCoryの作品だ。
6. Sweet Potato Pie
やはりこちらも動画が公開されていないが、クレジットから、Coryの作曲であり、1曲目の「Smokeshow」と同じメンバーであることが分かる。これもCoryのソロ・プロジェクトの楽曲だと言えるだろう。
しかし、内容「Smokeshow」とはまったく異なっており、なんとちょっとお茶目な雰囲気のある、カントリーの楽曲となっているのだ。
ここでもEddie Barbashがメロディを担当しているが、Eddieはサックスでカントリーやブルーグラスなどのルーツミュージックを演奏することをメインに活動するミュージシャンであるため、彼を起用するのは非常に自然な流れであると言える。
「Smokeshow」、この「Sweet Potato Pie」、そして「Out in the Sun」のサックスは同じ日に、同じ場所で2時間ほどをかけてレコーディングされたそうで、そのあたりもCoryのYouTubeで確認が取れている。
7. Radio Shack (Wong's Cafe Version)
2022年1月5日リリース、Vulfpeckの曲を、同じメンバーが新しいアレンジで演奏しなおしたテイクだ。このアルバムの中では、唯一新曲ではない曲だと言える。
元のテイクは2020年のアルバムに収められたもので、先ほども紹介したMike Violaがレコーディングエンジニアを担当した際の楽曲となっている。
作曲はWoody Goss。当初はゲームミュージックを思わせる楽曲であったが、Wong's Cafeのバージョンはより生演奏っぽさを意識したアレンジへと変化した。
元はシンセとエレピだった鍵盤が、ピアノとエレピになり、またドラムがJackからTheoになったことで、サウンドにロックやポップスの要素が入り、またテンポが上がったことでドライブ感も追加されている。
Jackはこの曲では演奏に参加しておらず、カメラマンとしての参加。途中、一瞬だけ鏡に映る。
また、1分45秒あたりで飛行機のジェット音のようなサウンドが追加されているが、このオーヴァーダブはCoryの仕事だ。
これまでのVulfpeckのアルバムでは、オーヴァーダブはすべてJackが担当する作業だったが、今回のアルバムはすべてCoryが担当している。
さらにミキシングもすべてJackではなく、Coryが担当しているため、これはおそらくアルバムの音楽面での最終作業を担当しているのがJackではなく、Coryにあったことを意味している。
レコーディング・セッションは「Disco De Lune」などと同じく、2019年のデンバーのスタジオでのものである。
8. Out in the Sun (feat. Eddie Barbash)
やはり動画が公開されていない曲だが、先述のとおり、「Smokeshow」「Sweet Potato Pie」と同じようにレコーディングされた曲。メンバーも同じで、Coryのソロ・プロジェクトの曲だ。
おそらく、まずCoryが自分でギターやベース、ドラムなどをすべて入れたテイクを完成させ、それを持って自身のバンドで移動していた際、サンディエゴでEddieにサックスのレコーディングをお願いしたと考えられる。
Eddie Barbashにcomposerのクレジットが表記されているため、彼もメロディを作るのに携わったと考えられる。しかし曲を聴き始めて、メロディを考える時間を含めて、3曲を2時間半でレコーディングしてしまったのだから、さすがと言わざるを得ない。
曲としては、Eddieが吹くルーツミュージックっぽいフレーズを活かした、斬新なファンクの曲だ。かなりCoryのソロアルバムの曲に似ており、Vulfpeckとはまったく違う方向性のジャンルである。
こういった曲が入っていることからも、今回のアルバムがCoryの名義になっているのが納得できる。
9. Guitar Music
こちらも動画がないが、Coryによるセルフ・レコーディング作品であり、非常にシンプルな曲だ。解説をしていきたい。
演奏時間は1分12秒。入っているのはCoryのギターと、2拍で1回鳴らされるハンドクラップ音だけだ。
素晴らしくミニマルなファンクであり、個人的に繰り返し聴いてしまう最高の音源である。
これは、左チャンネルではまったく同じカッティングをCoryが繰り返し、右チャンネルで少しずつ違うカッティングを弾いているものを合わせているだけのテイクだ。
たったこれだけなのだが、生まれるグルーヴは素晴らしくファンキー。2022年において、1分12秒という短い時間、ギターを2回レコーディングしただけの曲で、ここまでファンクを表現できるギタリストが他にいるだろうか!?
左チャンネルでギターの音が消える一瞬のタイミングに、右チャンネルでギターが鳴らされる。そのタイミングの緻密さはあまりに完璧で、これだけでもこのアルバムを出した価値があると言える。
「どうだ?真似できるもんならやってみな」とでも言うかのような、世のギタリスト、そしてファンク・ミュージシャンへの宣戦布告とも取れる、おそらく世界一タイトなファンク・ギタリストの「Guitar Music」。
そう、この「Guitar Music」というタイトルで、カッティングしか弾かないというのが、まさにCory Wongなのである。
10. Kitchen Etude
やはりこちらも動画がなく、Coryひとりによるセルフ・レコーディング。
くつろいだ雰囲気で鳴らされるCoryのギターと、オーヴァーダブされたパイプオルガンによるベースライン。それに、キッチンでの会話や雑音が入っている、というテイクだ。子どもたちの笑い声がちょっと聴こえてくる。
演奏時間も0分51秒。小曲であり、アルバムの最後を飾り、全体をまとめる役割の内容だ。
Coryは結婚して娘たちがいることが動画で分かっており、キッチンでの会話は、もしかしたら、実際に自宅で録音されたものかもしれない。
そう考えると、この曲のくつろいだ雰囲気も、さらに微笑ましいものに思えてくる。最後にふさわしい曲だ、と言えるだろう…。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
以上が「Wong's Cafe」について、判明していることをなるべく多く書き残したものだ。今後も新しい情報が分かり次第、随時追記を行っていく。
(※2022年3月19日、大幅に内容修正しました。具体的にはVulfpeckの新曲が2019年のレコーディングではないかと判明したので、それに伴った修正です)
(※2022年5月2日、さらに大幅に修正しました。2022年5月号のギターマガジンのインタビューによって、アルバムの詳細が判明したためです。取材を担当された田中雄大様、そしてギターマガジンの皆様、ありがとうございます。アルバムの詳細が判明したので、随時追記はこれで終了とさせていただきます)
◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー
宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。
◇既刊情報◇
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