サマミシキ

浮き輪肉が落ちない

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浮き輪肉が落ちない

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黒いネズミ

 夜半、橙色の薄明かりの中、積み上げられたゴミの山の頂きから、小さく黒い影が此方を見ていた。顔であろう部分は嫌に逆三角形で、形状し難い不快感を覚えた。重い泥の中に居るような感覚で、目を見開けないし身体の自由も効かない。微かに見える黒い影を僅かに、目で追う事しか出来ないのであった。  心臓が加速して一気に恐怖が込み上げてくる。兎に角、此処には居たくない。逃げ出したいが、心臓とは裏腹に、身体はゆっくりとしか動かない。そのもどかしさが更に恐怖を増長させた。  次の瞬間、黒い影は此方

    • アコースティックギター

       日曜日の晴れた午後は、なんだか世界がゆっくりになる。見える景色全てが、のんびりしていて眠気を誘う。何処からともなく、アコースティックギターの音色が聞こえる。音に誘われるかの様に、自然と脚が動き出す。  その先には1匹の野良猫がいた。チッチッチっと手招きする。人懐っこい野良猫はこちらに近づいて来た。  しかし、次の瞬間、野良猫は車に轢かれてしまった。アコースティックギターの音色が止んだ。飛び散った肉片の一部が俺の身体にへばりつく。  「気取っていると碌なことがねえ。人生そんな

      • 克己

         朝起きて、さっと身支度をし、車に乗り込む。朝は苦手なので、毎日ギリギリの時間で、朝飯なんて食ったこともない。白く濁った視界を擦りながらダラダラ運転し、いつものようにバイパスに乗った。  ——刹那、腹に鈍い感覚を覚える。内臓は今目覚めたのだ。自ずと油汗が滲む。会社までは凡そ15分、己との勝負の始まりであった。  体内時差。俺はそう呼んでいる。決まって逃げられない状況でそれはやってくるのだ。先手必勝、まず気を紛らす為にiQOSを吸う。だが、これは悪手。メンソールの爽快さがかえっ

        • お父さん

          仕事が嫌すぎて、思わず「死にてぇ」と声に出した。何度も脳内を駆け巡った言葉だが、自然と外に漏れるのは始めての事であった。  瞬間、目の前に無数の黒い線が蠢き、死神が現れた。 「死にたいと言いましたね」 「はい」 「私は、あなたの心からの想いに呼応して来ました。願いを叶えてあげましょう。では、死をどうぞ」  死神は持っている大鎌で一振りすると、俺は死んだ。  死んでみてわかった事だが、死は意外と永く、考える時間がある。暗闇の空間を上に向かって漂うている様な感覚がする。この状態は