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球団News!2023.2.24号 WBC中国代表戦から見えた「再生」

監督の掲げるキーワード

「再生」。
これが、昨年9月から鹿児島ドリームウェーブの指揮を執る戸嶋博監督の掲げておられるキーワード。

「輝かしい時代があったのだと思う。今一度そこに向かうために本気で勝ちに行こう。挑戦しよう」
そう話してくださったのは、昨年12月。チームはオフシーズンに入った。

薩摩おいどんカップ

ここ鹿児島では、2023年2月23日から『薩摩おいどんカップ』というイベントが始まった。
これは、大学、社会人、プロ野球といったカテゴリーを超えた交流戦。
これまでもオープン戦として一部では交流があったが、全38チームが名を連ねる規模での開催は日本初のことらしい。

このおいどんカップに鹿児島ドリームウェーブもエントリー。
公式戦ではないものの、ふだんは対戦できない相手との試合が組まれ気合も入る。

こうして、気持ちとしては例年より2ヶ月近く早いシーズンインとなった。

WBC中国代表との対戦

大会初日の2月23日、鹿児島ドリームウェーブが対戦したのはWBC中国代表。3月からのWBCを前に、鹿児島でキャンプを張っていたのだ。

日本のスモールベースボールと違って「野球が荒い」とも聞いたことがある中国代表。とはいえあれだけの大国から選りすぐりのプレーヤーが集まっているわけだから、弱いはずはない。

この対戦を聞いたときから、実は「試合になるのかな…」という思いが常にあったのが正直なところ。

しかし目の前のチームは、確かに生まれ変わりつつある。
中国代表との対戦を見て、はっきりとそう感じた。
はた目にも「楽しいだろうな」と思えたのだ。
一国を背負ってきている代表チームとの対戦に臆することなく、むしろ「こんなチームと野球できる!」ことを喜んでいるようにも見えたのだ。

投手陣

ただでさえ少ない投手陣は、昨年まで主軸でマウンドを守っていた選手が全員抜け、試合経験の浅い選手ばかり。
そんな中、右腕#13肝付 大昌投手[重信通信工業(株)]は安定感が増してきたように思う。
すごく球が速いとかコントロールがいいとか、そういう印象はない。でも打たれはしても大崩れせず、丁寧に投げている印象だ。

二番手の左腕#66江上 翔紀投手[(株)昴]が2イニングを投げて2回とも三者凡退に抑えたのは見事だった。
最後は#43 田中 辰徳投手[(株)リンクエージェント]。四球のランナーを出したがフィールディングよく結果的には三人で締めた。

主軸不在の中、それぞれが自分にできることをやろうとしている。
まだ頭一つ抜ける投手はいない中で、誰が出てくるか。この先が楽しみでもある。

全員野球

投手陣も踏ん張ったが、それを後押ししたのは野手だ。
動きがキレを増し、守備範囲が半歩ずつ広がっている選手も多くいた。今までなら諦めていたボールに食らいついている。ちょっと消極的だった選手ももちろんいるが、オープン戦だもの、失敗してもいいから楽しんじゃえ!とも思ってしまうのは無責任だろうか。
野手がボールに食らいついてくれるから投手が安心して投げられるというのは、こういうことなのか。試合後スコアブックを眺めながらそう感じた。

特筆すべきはファースト#55 川口 侑宏 選手[(株)ゼンケイ]。
これまでは指名打者での出場が多く、フル出場の経験はあまりなかった。しかし冬を超えて体が締まりスタミナもついた。
昨年は考えられなかった盗塁も仕掛けてくる。刺されはしたが、彼が次の塁を狙っていくということの、チーム全体に与える影響は計り知れない。

好青年なだけじゃなく

試合は2-4で敗戦。
試合になるのかなという不安をよそに善戦した。

試合後、主将である#2 下池 敦士 選手と少し話すことができた。

「いいチームになったね」そう声をかけると静かにうなずいた。
4点取られてこのままコールドかなとも一瞬思ったというが、そこで踏ん張れたこと、そのあと2度にわたって得点したことで、主将自身もチームの変化を体感したようだ。

実は彼も、ここ数か月で大きく変化したと感じる一人。
昨年は、主将としては少しおとなしすぎるような気がしていた。でも今はよく声が出ている。
優しい好青年だと思っていたら、意外と毒も持っている。個性ある集団を引っ張っていくにはそれが必要だと私は思う。
練習中に放たれるするどいツッコミの声を聴いているのも楽しい。
まっすぐ視線を返す澄んだ茶色い瞳に、いいリーダーになってきたなと頼もしさを感じた。

静かな意志

もう一人、私がはっきりと変化を感じている選手がいる。
#7 吉田 賢太 選手[城山ホテル鹿児島]。

4年目になる吉田選手は、一昨年に大きな怪我をした。主軸を任せられていた絶好調での怪我で、半年は棒に振ったのではないか。
そこからの復調はあったものの、去年は6番7番といった打順に甘んじていた。

ニコニコ優しかった彼が、最近は去年より笑わなくなった。
いや違うな。笑っているけれどなにか違う。
肚が据わったというか、俺が打つんだ、俺がクリーンアップだ、という静かな意志を感じる。

彼は口には出さない。たぶん。
まだはっきりと結果につながっているわけではないが、彼が5番にいることは何とも言えない安心がある。
さらにそのあとの、6番川口選手の不気味さが際立つような気がする。

信じられること、誇れること

おいどんカップは公式戦でもないし、こうして記事を書くことはないだろうと思っていた。でも昨日のWBC中国代表との試合を見て、どうにも書きたくなってしまった。こんなふうに感じていることを、誰かに話したくてたまらなくなった。

監督がチームの未来を信じてくださっている。
選手たち自身が「こんなもんかな」とどこかで思っていたのに。
けれどこの試合でも「あーー勝ちたかったなぁ!」といちばん大きな声で言っておられたのは監督。
それはつまり、お前ら勝てるよ!勝てたよ!ってこと。
そう言い続けること、信じ続けることは、きっと生半可なことではない。

だから今は、選手が自分たちの力を信じられるようになっている。
そして自分たちのチームを誇れるようになっている。
それが感じられるのがいま、いちばん嬉しい。

「再生」途中のチーム。
それ以前には迷っている時代があった。その時代もまた価値のあるものだったんだと思う。
そしてたぶん監督は、「再生」を果たしてからのことも見据えている。
まだまだ、「再生」すらも始まったばかりだ。


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