社会全体のHCDを目指して
私たちはいまや多数の情報システムやサービスに取り囲まれて日々を暮らしています。
たとえば、朝目が覚めたらiPhoneの通知を見て、アレクサに「テレビつけて」と言い、電気ケトルでお湯を沸かしながらSlackを見ます。
あるいは、トラベルコで予約した航空券でJALの飛行機に乗ったり、マイナポータルで公金受取口座登録をしたりします。
私たちの暮らしは、あらゆるシステムをダイナミックに組み合わせることで成り立っています。
システムに取り囲まれた私たちの暮らし
このようなシステムの組み合わせ、特に一つのシステムでは成し遂げられないような目的を果たす複合的なシステムの組み合わせのことをシステム・オブ・システムズ(System of Systems)といいます。
システム・オブ・システムズは身の回りにたくさん存在しますが、利用者から目が向けられることはあまりありません。しかし、システムを提供する立場になると一変して、自社のシステムを取り囲むシステム・オブ・システムズについて考えずにはいられません。
さて、いまや私たちは数多くのシステム・オブ・システムのなかで生きているのに、HCDの実践は一つひとつのシステムに対して行うだけでよいのでしょうか。システム・オブ・システムズに対してHCDの取り組みを行い、より全体的な品質を向上したり、安全性を高めたり、良いUXにすることについて考える余地はないでしょうか。
システム・オブ・システムズのHCD
システム・オブ・システムズに対してHCDを適用するための仕組みを考えなくてはなりません。どうすれば、刻々と変化し続ける人間の営みのなかで、システム同士が連携可能にできるでしょう。どうすれば、連携可能になったシステムの総体を上手にコントロールできるでしょう。
まず、システム・オブ・システムズそのものを設計することは現実的ではありません。システム・オブ・システムズの境界は曖昧だし、各システムにはそれぞれのライフサイクルがあるからです。
つぎに、各システムに就くHCDの実践者同士が連携を図ることにも限界があるでしょう。すべてのシステムにHCDが適用されていなくても働くように構造化しなければなりません。
そこで考えたのが人間中心システムアーキテクチャー(Human Centered System Architecture, HCSA)です。
人間中心システムアーキテクチャー
HCSAではサブサンプション・アーキテクチャーとデータ中心アプローチを参考にしてデータ中心のシステム・オブ・システムズについて考えました。システム同士で協力的にデータを交換しあい、人間の活動や環境の変化にダイナミックに対応するシステムアーキテクチャーのイメージです。
HCSAについてまとめた『人間中心システムアーキテクチャーの基本概念の提案―社会全体の HCD を目指して』は、人間中心設計推進機構の査読付ジャーナル『人間中心設計』の18巻第1号に採録されていますので、ぜひご一読ください。
HCSAは構想段階のため、HCDの一環として組織的、選択的に採り入れられるよう、HCD-Net ビジネス支援事業部 HCSA 委員会でさらに検討が続けられています。ちなみに「HCSA」という名称は田丸喜一郎さんのご発案です。
ともあれ、この構想がHCDのDX、ひいては社会全体のHCDの実現に向けた一助になれば幸いです。
最後に、これまでどこにも書くところがなかったので、ここで共著者の大橋さんに尊敬と感謝の意を表します。
*1: INCOSE Systems Engineering Handbook: A Guide for System Life Cycle Processes and Activities, version 3(2006)
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