やりたいことはわからない、やりたくないことから決めていく

 大学への進学が決まったときに母親にこんなことを言われた。「教員免許をとっておくといいよ」僕は母親に教師になりたいと言ったことは一度もなかったし、実際になりたいとは思っていなかったので「なんで?教師になるつもりはないけど」と応えた。すると母親曰く「別に教師を目指さなくても教員免許はとっておいたほうがいい。将来仕事がなくなったときに、教員免許があれば潰しが効くから」ということらしい。
 それを聞いて僕は迷った。たしかに教師になるつもりはないけど、もしものときの保険として教員免許を取っておいたほうがいいかもしれない。しかし、そのために必要な単位を取ることはかなり面倒だ。
 僕は卒業後の進路として大手企業へ技術職での就職を第一の目標としている。そのためには大学で好成績を残すことが必須だが、教員免許を取るためにリソースを割いてしまえば好成績を取ることは難しくなるだろう。一度にいくつもの仕事を同時に進められる器用な人ならばともかく、自分のような不器用なタイプでは試験勉強や研究に集中するだけで精一杯だ。
 だが自分が企業に就職して、本当にそこでやっていけるのかと自問すると不安が大きいのも事実だ。企業に就職したものの、実力が通用せずにリストラされたりしたときはどうすればいいのか。
 そんな考えからなかなか結論を出すことができない。大学では教員免許の取得を検討している学生に向けてのガイダンスが開かれたので、それを受けてからどうするかを決めようと思った。
 ガイダンスを受けてわかったのは、教員免許を取ることは予想以上に大変だということだ。一年生のうちから半年に取れる単位の上限を超えて単位を取らなければならないし、四年生になれば教育実習にも行かなければならない。
 いろいろ考えた結果、教員免許は取らないことにした。その理由は次の通りだ。
 まず、僕にとって教員はあまり就きたくない職業だということ。これは別に教師を軽蔑しているとか嫌っているというわけではない。むしろ出来の悪い生徒だった僕はかなり教師の世話になっており、感謝の気持ちが大きい。
 僕が良い教師に巡り会えたことは幸運だが、自分が彼らのようになりたいか、あるいはなれるかと考えると無理だと思わざるを得ない。出来の悪い生徒に同じことを何度も教えるなんて絶対に耐えられないはずだ。
 また、教師という職業がこれからもずっと安泰だとは考えにくい。確かに今は需要も多く安定した職業だが、技術の進歩によってその状況は変わっていくだろう。
 現に僕が通っていた学習塾ではタブレットを用いた映像授業が主な内容だった。もしこれが一般の学校でも導入されれば教員の需要は大きく縮小することになる。その他にもAIによる学習指導や成績評価は海外で導入され効果をあげつつある。
 それに、自分が教員免許を取ろうとしたのは企業でやっていけなかったときの保険のためという消極的な理由からだ。そんな理由で教職課程に取り組んだところでグダグダになるのがオチだと思う。
 企業で働くことに対して不安はある。だからといって教員免許を取るというのは本質的な不安の解消にはならない。不安があるならば、それを糧にして勉強するしかない。教員免許に逃げるのではなく、自分はどんな企業でも通用するという自信を持てるようになるまで努力する方が不安の解消になるだろう。
 今回は教員免許を取るか否かで悩んだが、これからも同じような選択をしていかなければならない。なにをすべきで、なにをしないべきなのか。
 大手企業への就職を目指すとは言ったが、どの業界のどの企業、職種なのかといった詳しいことはまだ決まっていない。
 まだ自分の本当にやりたいことというのは見つけられていない。だが今回の決定で自分は教員にはなりたくないということがはっきりした。“やりたいこと”がわからないうちは“やりたくないこと”から決めていくのが正しい選択をするために必要だ。

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