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週刊DL短編集『"こいばな”と怖い話』

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「こいばな」という言葉をいれなければならないというお題に、さらに怖い話で短編を作るというしばりに同時に挑戦。
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2023年8月の記事一覧

虹がかかる日 by 吉田真澄

 電車と路線バスを乗り継いで、関電トンネル電気バスに乗った。  長くて薄暗いトンネルを駆動用モーターとリチウムイオンバッテリー4パックを搭載した電気バスはゆっくり進む。  車内は満席で、その目的地は観光放水が始まったばかりの黒部ダム。  80人ほどの観光客がバスから降り立ち、目の前の看板を見ている。右に行くと220段の階段を上って、最も高いところから黒部ダムを一望できるダム展望台に。左に行くと60段の階段を下りて、ダムのえん堤に直接出ることができる、と書いてある。水をせき止め

怪談・人面魚 by 網焼亭田楽

毎度バカバカしいお笑いでございます。 最近は何でもかんでも科学というもので判断してしまうような世の中になってまいりまして、特にAIが出て来てからというもの、この人工知能に頼り切りになってしまっているようでございます。 「おい、よたろう」 「何でございましょう、だんな様」 「おまえさん、最近変なものを見たって言うじゃないか」 「ああ、人面魚のことですか」 「何だい、そのジンメンギョって」 「だんな様は見たことないのですか。人の顔をした魚のことなんですけど」 「そんなバカな。ま

もうひとつの本能寺の変 by 神田南田

本日は皆さまご存知『本能寺の変』に隠れてあまり知られておりませんが、『もうひとつの本能寺の変』のお話をお届けしたいと思います。 織田信長が不運の死を遂げたあの『本能寺の変』ではございませんでして、実は戦国時代にけなげに生き抜いた純情娘の話でございます。その名をお寺と申します。 お寺は、歳の頃なら18歳。性格はと言えば、戦国時代には珍しく天真爛漫で誰にでも物おじすることなく自分の思ったこと感じたことをそのままストレートに口に出してしまうという正直者。 それゆえ、お寺は本能のま