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週刊DL短編集『"こいばな”と怖い話』

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「こいばな」という言葉をいれなければならないというお題に、さらに怖い話で短編を作るというしばりに同時に挑戦。
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2023年7月の記事一覧

アラサーたちの午後 by 御美子

とある会計事務所の休憩室。 仲良しアラサー3人組が、食後のお茶を飲みながら、お喋りに花を咲かせていた。 しっかり者の絵理と少し頼りない由香は学生時代からの付き合い。そして同僚の美菜だ。 「絵理、最近お肌の調子がいいみたいね。男でもできた?」 「まあ、そんなとこかな」 「聞き捨てならないわね。どこで知り合ったのよ。私にも紹介して」 「絵理の恋バナ? 聞きたい。聞きたい」 「マッチングアプリで知り合ったのよ。会計士に興味があるんですって、由香と美菜も登録すれば?」 「マッチング

ぼくの明日 by やぐちけいこ

その言葉だけが記憶に残ってそれがいつの出来事で誰から言われたか全く覚えていない。 もしかしたら自分の妄想? 夢? ずっとずっと心の中に引っかかって抜けないのだ。 普段は忘れていても急にこの言葉が脳裏によぎってくる。 一度思い出してしまったらしばらくこの言葉に呪縛されたように頭から離れない。 そして今この時もこの言葉に縛られている自分がいる。 「また明日会いに来るから待っててね」 そう優しくも、悲しくもとれる感情がこちらに伝わってくる。 誰からの言葉だったろうか。何故自分は覚え

知らない隣人 by Miruba

帰宅したばかりの私は、急いで靴を脱ぎ、夏日続きですっかり熱気のこもった寝室と居間のクーラーをつけて回り、それからようやく鍵をテーブルの上に置き、肩にかけていたバックを椅子の上に投げ置く。 「あっついな~汗ビショビショだ」そのまま脱衣場に行き洗濯網に今脱いだものを突っ込みそれを洗濯機に洗剤ボールと一緒に入れてスイッチを押す。 頭からシャワーを浴びて一日の汚れを流す。 部屋着に着替えて、冷蔵庫からビールを出してコップに注ぎ、一気に飲み干す。 「あ~~~美味しい! たまりませんね

恋花 by 夢野来人

"♪燃えて散るのが花  夢で咲くのが恋" とある片田舎の古びた喫茶店で、懐かしいメロディが流れていた。1979年CHAGE&ASKAのデビュー曲『ひとり咲き』である。 文恵は久しぶりに故郷に帰って来ていた。都会での仕事にもひと段落がつき、余生は生まれ故郷でのんびり過ごそうと思っていたのだ。 人並みに働いて、人並みに恋をした。いや、人並み外れた激しく燃え上がる恋。でも、恋と呼べるのは一度だけ。あまりにも激しく燃えた恋だったので、終わった時に文恵はもはや燃えかすのようにな