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禍話リライト「?童子」

座敷童子みたいなものが、家以外の場所にも出たとしたら、それは一体なにわらしだろうか。

就職がうまくいかず落ち込んでいる後輩を慰めるため、先輩達が飲み会を開くところからこの話は始まる。


その後輩には大学に入った頃から付き合っていた彼女がいたが、同じところに就職しようとして、彼の方だけ落ちてしまった。
男のプライドが傷ついたのか、そのまま男女関係もこじれていった。
卒業までは数ヶ月あり、就活はまだまだやり直せるタイミングだったが、彼はすっかり落ち込んで自暴自棄になってしまっていた。

そんな彼をとくに気にかけてくれたのが、所属していたサークルのOB達だった。怪談にはちょっと珍しい、面倒見のいい先輩達である。
彼らも、恋愛や就活や大学院へ進む際などに苦労した覚えがあったのかもしれない。
後輩の家に集まって、何回か飲み会を開いていると、彼もちょっとずつ元気を取り戻していくようだった。

後輩を励ます飲み会が3、4回目を迎えた頃、少し妙なことがあった。
バイトを終えてから合流する予定の2人組がなかなか来ない。そのうちに「今日はやめておきます」なんてメールが来た。
これ自体は普通の出来事だ。しかし、問題の2人組は飲み会が大好きな男たちで、簡単に諦めるはずがない。何かあったのかな、などと気にしつつ、やがて飲み会はお開きになった。

先輩の1人をA君としよう。
A君が翌日大学へ行くと、ゆうべ来なかった2人組をちょうど見かけた。
さっそく話しかけに行き、来られなくなった理由を聞いてみた。2人は気味が悪そうな顔で、以下のような話をした。

2人は同じコンビニでバイトをしている。昨日はシフトも一緒で、終わってから酒をしこたま買い込み、意気揚々と後輩の家に向かった。
すでに真夜中を過ぎており、大通りから後輩のアパートへ向かう細い道に入ると、人通りは全然ない。遅れて向かう時はいつもそうだった。
しかし、昨日は道の途中に女の子が立っていた。

こんな時間に女の子?と思っていると、その子がこちらに向かって、手のひらを開いた状態の右手をバッと突き出し、首を横に振った。
そのまま首を横に振り続ける女の子を見た2人は、「これは来るなってことだ」と思い、普通に引き返した。
お互い家に帰り、戸締りをして手を洗ったあたりで、はじめてその状況の異常性に気がついた。ここで急に怖くなり、買った酒も捨ててしまった。
女の子が首を振っていたのは覚えているが、髪型や服装は全く思い出せない。


以上の話を聞かされて、A君もそれは怖いねと答えるしかなかった。

話はこれで終わらなかった。
どんどん同じことが起きて、飲み会の人数が減っていった。

 ⎯ 飲み会に合流しようと後輩の家に向かう途中、暗い夜道に女の子が立っている。その子が首を横に振るのを見て自然に引き返したあと、家に着いてからその状況の異常性に気がつき怖くなる ⎯ 

彼らが後輩の家に向かう道はそれぞれ違っていたが、関係なく女の子は現れた。
また恐ろしいことに、その話が伝わっていないのに新たな体験者が続いた。
というより、それぞれに起きたことを聞かされていたのはA君だけだった。彼は何かと相談を受けるような口が固いタイプで、実際、他の誰にも女の子のことを話していなかった。



とうとう、飲み会に行く人間がA君1人になった。もちろん彼も女の子に会ってしまうのを想像すると怖かったが、それだけで後輩を見捨てるつもりはなかった。

その日もA君は後輩の家に行こうとしていた。
22時くらいに行くよ、なんてメールを彼に送り、酒や食料を準備し、そろそろ家を出ようというタイミングで、ドアがドン、と音を立てた。

何事かと一瞬身構えたが、その後はとくに何も起きない。玄関までそっと近づき、ドア越しに外の様子を確認する。

ドアスコープをのぞくと、女の子がドアに右手をあてた状態で、首を横に振っているのが見えた。

A君はその場で気を失った。事前に女の子のことを聞いていたからだろうか、ある意味正常に恐怖を感じられたといえる。
翌朝まで一晩、玄関で変な姿勢で気絶していたせいで2、3日体のあちこちが痛かったそうだ。

それからは誰も、その後輩の家に行かなくなってしまった。このあたりでさすがに謎の女の子の話が共有されはじめた。
彼に妹がいるなんて話は出てこなかったし、見た女の子の髪型や服装などを誰も覚えていないのは明らかにおかしかった。

怖いは怖いが、後輩の様子は気になる。サークルの別の後輩などに聞いてみると、彼は全然大学に来ていないし、電話をしても返事が要領を得ないらしい。

家に入るのは怖いけど、近くまで行ってみよう。
生存確認ということで、以前飲み会に集まっていた先輩達は彼のアパートを見に行くことにした。

5人ほどで集まって家の近くまで進むと、彼の部屋は電気がついておらず真っ暗だった。ちょうど出かけているのだろうか。
あたりに変な気配もないので、もう少しアパートに近づく。するとおかしなことに気づいた。
季節はすでに冬に入っていたのだが、彼の部屋の窓が全開になっている。やっぱり彼は室内にいるのかもしれない。とはいえ、暖房をつけていても絶対寒いだろうし、何をしているのだろう。
もう少し詳しく中の様子を見ようとして、5人全員が気づいた。

部屋の窓の近くに女の子がいた。
何も特徴を覚えていなかったのに、前に見た女の子だと思ったそうだ。
その子が首を縦に振りながら、嬉しそうに笑っていた。

全員無言のまま、その場から本気のダッシュで逃げ出し、落ち着いたところで何を見たかお互いに確認しあった。
みんな女の子を見たことは確かなのだが、やはり誰もその髪型や服装を覚えていなかった。
他にも一致することがあった。
女の子がちらっと見えて、あの時のあの子だ、と思った瞬間から、その女の子が首を振り始めた、と感じていた。全員心の中で思ったタイミングが同じだったらしい。


結局その女の子が何かはわからないままだった。現れる場所や行動からは、座敷童子の一種と考えるのはちょっと難しい。
あの子は「なにわらし」だったんだろう、だけどかわいい子だったからまだ良かった、と本気なのか冗談なのかわからない調子でこの話は終わる。

後輩の青年がどうなったのかは伝わっていない。

出典

この話は、猟奇ユニットFEAR飯の方々が著作権フリーの禍々しい話を語るツイキャス「禍話」の、以下の回でのお話をリライトしたものです。

禍話 フィアー飯スペシャル(2017/10/20放送)
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/412804122
1:07:50ごろ〜

こちらのWikiも利用させていただいています。
いつも更新ありがとうございます。
禍話 簡易まとめWiki 
https://wikiwiki.jp/magabanasi/

【追記・補足】(内容とは関係ありません)
このリライトの著作権者は私ですが、FEAR飯の方の好意で自由に書いているものですので、以下を満たしていれば、私への個別連絡は無しで使っていただいてかまわないです。

朗読等でご利用の際は適切な引用となるよう、
・対象の禍話ツイキャスの配信回のタイトル
・そのツイキャスのwebリンク
・このnote記事のwebリンク
以上の3点をテキストでご記載ください。
また商用利用の際は、FEAR飯の方に許可を得て、そのことを明記してください。

※他の方が作成されたリライトについては別途確認してください。
悪質な利用については都度判断します。

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