見出し画像

禍話リライト「くいちがい」

学生達が集まって怖い話をしていたら、怖いことが起きたお話。

体験者の青年が大学3年生ぐらいの時に起きたことだそうだ。
その日は友人達と、1つ年下の後輩の家に集まって皆で怖い話をすることになった。この後輩は親がお金持ちで、いい部屋で1人暮らしをしていた。
生活費もそれなりにもらっていたらしく、行けば家の主の方から高いお酒を出してくれたりして、そこでの宅飲みがすっかり定番になっていた。

飲み食いしつつ全員で車座になり、1人ずつ怖い話を始めた。この話は本で読んだんだけど、とか、TVで芸能人が言ってたんだけど、みたいな入り方でそれぞれ話す。それ自体は全然悪くない。
怪談をしている雰囲気が楽しいのだ。

しかし、そういう奴はどこにでもいるもので、他の人の話が終わるといちいち「怖くなかった」とコメントする男がいた。
不思議だね、とか怖いね、のような楽しんだ感想が出る中、彼は全然怖くないと繰り返していた。
それが4人目の話ぐらいまで続き、見かねた先輩が説教をはさむことになった。

年長者はさすがで、お説教ではあるが、場の空気を壊さないよう冗談も交えた絶妙な調子だった。
言われた方も素直に受け止め、「自分はあんまりこういうのを怖いって思わないのかもしれない」なんてことを言った。
「それは逆にお前が怖いよ」と先輩が笑いをとりつつ、そいつにとって怖い話がないか聞いてみると、全然ないと言いながらも、
「ある意味怖い話」があると言い出した。
せっかくなのでそれを話してもらうことにした。そいつが高校3年生の時の話だそうだ。

話し始めるといきなり、「うちのクラスはすごい仲が良かったんだけど、イジメをしてたんですよ」とナチュラルに嫌な言葉が出てきた。

 ⎯⎯うちは進学校で、ストレス発散なのかクラスの主要グループのメンバーが1人の女の子に対してイジメをやっていた。
きっかけは覚えていないけど、その子が悪かったわけじゃないと思う。


彼は他人事のように話を続けた。

「…そしたらその子、文化祭の前日に自分の家で首を吊って死んじゃったんですよ」

聞いていた側が驚き、それは大変な事件じゃないかと彼に問いかけるが、彼は淡々と話し続ける。

 ⎯⎯たしかに大変だった。彼女の遺書らしきものは出てこなかった。それで、クラス全員イジメのことを黙っていた。担任もおそらくわかっていたはずだが、口をつぐんだままで問題にすることはなかった。結局、学校とは違うところで精神的に病んでしまったんじゃないかという話になった。
クラスメイト達の中には、彼女の葬儀に素知らぬ顔で参列するものもいた。自分は内心、まずいんじゃないかと思っていたが、イジメの中心だったクラス委員の女子などは普通に葬儀に出て、しおらしい様子で通していた。
その後で、自分達だけが入れるネットの掲示板上で、あの子死んじゃったけど馬鹿みたい、なんて書き込みをしていた。
それで人間って怖いなと思うようになったから、お化けの話を聞いても怖くないんだろう。


他とは違う方向でインパクトがある話だった。
みんながそれぞれ恐怖を噛み締めている中で、1人だけリアクションせず黙っている奴がいた。
話を聞いていなかったとか、聞くのがいやで無視していたのでもなく、ビールを飲もうとする動きが途中で止まっていた。
そして、「お前、今の話本気で言ってるのか?」と先の話をした彼を問い詰め出した。

聞けば、彼らは同じ高校の同期だという。クラスは違い、顔見知り程度の関係だそうだ。
変な空気になってきた。言われた方はなぜそんなに問い詰められているのかわからないようで、「何か違うところがあったか?」と聞き返した。

彼が指摘した。
「あの子が自殺した場所は、お前のクラスだったろう?」

⎯⎯名前は忘れてしまったけど、あの女の子は、文化祭前日に学校に忍びこんで首を吊って、当日大騒ぎになった。それがお前の教室だったろう。
文化祭は中止になったし、お前達はその後、もうほとんど学級閉鎖みたいな状態になっていたじゃないか。

他の全員は理解が追いつかない。内容を受け止めきれず、2人でネタを仕込んだんじゃないかとすら思えた。
しかし、今問い詰めている方はすごい量の冷や汗をかいて震えているし、相手は何を言われているのかわかっていないようだった。

厳しい口調で質問が続く。
「お前、あの事件の後は半分引きこもりみたいになって、卒業式も出なかったよな?
こっちの大学に来てから、しばらくぶりに会ったんじゃないか?」

しかし、聞かれた方も真顔で違うと答えた。
「お前、何かとごっちゃになってるだろ?
俺たちのクラスはこの間同窓会もやったし、担任の先生とも会ったよ」

それを聞いた相手のビールを持つ手が震え出し、ついに缶を放り出してしまった。
今言われたことが信じられない様子で、彼は次のくいちがいを指摘した。
「何言ってんだよお前!…その担任は、死んだ子の両親とか、他の生徒とかに責められてさ…
忘れたのかよ、お前達が卒業した後、同じ教室で首をくくっただろ?」

それでも話がかみあわない。

「いやいや、違うって。同窓会したよ」
「じゃあその担任が来たっていう同窓会は、どこでやったんだよ?」
「俺らの高校近くにある小さな飲み屋さんだよ、夫婦でやってる、○○屋っていう…」

確認していた方がドンッとテーブルをたたく。

「その○○屋ってのは…
死んだ女の子の親がやってる店だろうが!」

話が怖すぎて、周囲の仲間たちは途中から彼らの様子を直視できなくなっていた。聞かれている奴だけが一人平然としていて、聞いている方も相当消耗していた。
同窓会の店について指摘した後、彼自身も怖さで顔を伏せてしまったそうだ。

つまり全員、イジメの話をした奴から目を離していた時間が少しだけあった。
ふと気がつくと、そいつがいなくなっていた。


ドアを開けて出ていった様子はなかった。
思わず誰かが「ベランダ…?」と呟き、部屋の主がここは4階だと返す。
そこから出られるはずはないし、一応確認したが飛び降りたわけでもなかった。

おかしいことになっている、とみんな立ち上がりそいつを探し始めた。
現実感がなかったが、集団幻覚を見ていたのでもない。全員聞いていた内容が一致した。
さっきの話が本当であることを部屋に残っていた彼に確認し、「こんな空気になってすみません」と謝るのを「お前はいいんだけどさ」となだめていたその時。
外から叫び声があがった。
「ウワーッ、ウワーッ!」と誰かが叫び出した。

外には小さな公園がある。
何人かでベランダに出て公園の中を見てみると、叫んでいたのは部屋から消えたそいつだった。
そこは見通しがよく、彼が耳を塞いで、首を横に振りながら金切り声で叫び続けているのが見えてしまった。

みんな起きていることが理解できない。見れば、そいつの靴は玄関に置かれたままだし、ドアの鍵もかかっていた。
しかしこのまま放置するわけにもいかない。叫び声は続いており、マンションの住民達が何事かと部屋から出てきはじめた。

急いで全員、公園のそいつの元へ向かった。
誰かが部屋に残るのも怖かったのだ。
エレベーターで降り、公園のそいつに駆け寄ると完全に錯乱状態だった。足元は靴下を履いているだけで、どうやってここへ来たのかわからない。
しっかりしろよ、どうしたんだと声をかける。
さっきまであの部屋で話してただろ、何でここにいるんだよ、どうしたんだよ、何してるんだよ…



「げ ん じ つ と う ひ」

突然声が響いた。
彼らは全員で公園に来た。しかし、いま自分達が出てきた部屋を見ると、無人のはずの室内に全く知らない女の子が一人いた。
4階のその部屋から公園まで、そんな声が届くはずがないのに、その女の子が言った「現実逃避」がはっきりとみんなに聞こえた。

再び処理能力がオーバーし、まだ叫び続けている彼を放置して全員その場で座り込んでしまった。
少し経って、近隣住民が救急車を呼ぼうかと声をかけてくれてようやく我に返ったそうだ。
そのまますぐ救急車をお願いして、彼を搬送してもらい何人かは付き添いで同乗した。
怖いのは家の主である。部屋に戻りたくなかったが、帰ると結局誰もいなかった。


このちょっとした騒ぎは薬物使用も疑われ、警察が事情聴取にやってきた。その中で隣の住民の話が出た。
その人いわく、当日の夜は最初のうち、隣の部屋が普通に盛り上がっている様子が聞こえており、その最中に誰か一人、部屋から出て行く音がしたという。
出ていったあと、エレベーターを使わず非常階段の扉をガチャン、バタンと開け閉めする音がしたそうだ。何でわざわざ、と思っていると公園から叫び声が上がり始めたとのことだった。

隣人の話は筋が通っているように思えた。
自分達の記憶がおかしくなっていたんじゃないか、と彼らは感じたそうだ。

救急車で運ばれていったそいつは、もう大学には戻って来なかった。



自分がやってしまったことから目を背けていても、いつか現実は追いついてくる。
なぜあの場に女の子が現れたのかはわからない。
しかし、そういうものは、向こうのタイミングでやってくるのではないだろうか。


出典

このお話は、猟奇ユニットFEAR飯の方々が著作権フリーの禍々しい話を語るツイキャス「禍話」の、以下の回での話をリライトしたものです。

禍ちゃんねる 令和元年訴訟スペシャル(2019/05/05放送)
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/542664443
1:35:00ごろ〜

こちらのWikiも利用させていただいています。
いつも更新ありがとうございます。
禍話 簡易まとめWiki 
https://wikiwiki.jp/magabanasi/

【追記・補足】(内容とは関係ありません)
このリライトの著作権者は私ですが、FEAR飯の方の好意で自由に書いているものですので、以下を満たしていれば、私への個別連絡は無しで使っていただいてかまわないです。

朗読等でご利用の際は適切な引用となるよう、
・対象の禍話ツイキャスの配信回のタイトル
・そのツイキャスのwebリンク
・このnote記事のwebリンク
以上の3点をテキストでご記載ください。
また商用利用の際は、FEAR飯の方に許可を得て、そのことを明記してください。

※他の方が作成されたリライトについては別途確認してください。
悪質な利用については都度判断します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?