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禍話リライト「増えぐるみ」


結局何が起きているのか、答えに困るお話。

ぬいぐるみの愛好家の中には、一つの種類のものをたくさん集めるタイプが存在する。普通の人にとっては全部同じぬいぐるみ達に、それぞれ名前をつけて可愛がるような人々だ。
この話をしてくれた大学生のA子さんにも、そんな友達がいるそうだ。その女の子が集めていたのはクマのぬいぐるみだった。
一度家に遊びに行った時に、素敵なコレクションを見せてもらった。彼女の自室以外にも、至る所にそのクマちゃんがいて感心したという。

その友達とはそれほど頻繁に遊ぶ仲ではなかったので、間が空いて1年ほど経ってから再び、相手のお家にお邪魔することになった。
上がらせてもらうと、家のあちこちにいたクマが全然見当たらなくなっていた。
また、その家は友達の実家なのだが、案内された彼女の部屋が隣の部屋になっていた。新しい部屋にもぬいぐるみは一つもなかった。
ぬいぐるみ集めは卒業したのかな、部屋を変えたのもなぜだろう、と気になったが、なんだかんだと長居してしまい、その日は泊めてもらうことになった。
後から思えば、自分の終電時刻が過ぎるよう計算されていたようだった、とA子さんは語った。


友達の部屋で話しつつ、すっかり深夜になった頃、彼女が唐突に話し始めた。
「ぬいぐるみなんだけどさ…」

A子さんも聞いてみようと思っていた矢先だった。
話を促すと、集めるのをやめた、という。
そして、隣の部屋は開かずの部屋にした、と怖いことを言い出した。
以下、彼女が続けた話の内容である。

はたから見ればどれも同じでも、自分はちゃんとぬいぐるみ達をそれぞれ見分けられる。
たとえるなら、動物好きの人が動物園のサルや鳥などの個体を識別できるようなものだと思う。
名前をつけ、1人、2人と数えたりして可愛がっていたら、1人増えた。
何度確認しても絶対1人多く、誰だかわからない子が混ざっている。家族に聞いても心当たりはないといわれた。いたずら心でこっそり増やしたのを黙っているわけでもないはずだ。なんというか、気軽に買えるような値段のものではないのだ。
でも、もしかすると何かの勘違いもしれない。
そのぬいぐるみ自体には特に異常はない。
その子にも一応「名無し」をもじった名をつけ、他の子と同じように可愛がることにした。

それが2人になったからやめた。

と彼女は語った。

A子さんはこれを聞き、「私の終電がなくなるまで話さずに取っておいたな」と思ったそうだ。
はたして、この家では何が起きているのか。
 友達が精神的に参ってしまっているのか。
 それとも外部から侵入者がいるのか。
 もしくは家族が娘に悪意を向けているのか。
…あるいは、何か超常現象が起きているのか。
どれでも嫌だ。しかもこの子は私が帰れなくなるタイミングまで黙っていた。
心の中で悪態をつきつつ、A子さんはそのまま眠るしかなかった。

そういうときに限って、夜中目が覚めてしまう。
今回は特に、勧められるままにお酒やお茶を飲み過ぎたのかもしれない。
そんなA子さんがトイレに行こうと起きたところ、同じ部屋で寝ていた友達がいなくなっていることに気づいた。
タイミングがかぶったのかと思いつつ、トイレに向かったが誰もいなかった。
トイレは下の階にもあったし、台所に水を飲みに行ったりしたのかもしれない。用を済ませた彼女が他の可能性を考えながら部屋に戻っても、まだ友達はいなかった。

ふと、隣の「開かずの部屋」から気配を感じた。そんな馬鹿なね、と思いながらそちらの壁に耳を当てると、友達の声が聞こえた。
「○○ちゃん、○○ちゃん…」と1人でぬいぐるみに話しかけているようだった。

全然開かずの部屋じゃない。
A子さんが何も信じられなくなっていると、向こうが話すのをやめて戻ってくる雰囲気になった。
慌てて布団に戻って寝たふりを始めたところで、
彼女がこちらの部屋に入ってきた。

その時は完全に「都市伝説にあるような、友達が夜中に部屋を抜け出して骨を食べているのを目撃してしまい、ばれないよう必死に寝たふりをする体験者」気分だった、とA子さんは語った。
さいわい、本当に寝ているか友達が確認してくることはなかったそうだ。


ここまでの話だと、あまり親しくない友達の家に泊まったら、よくわからないがちょっと禍々しい目にあった、という結論が難しいお話になる。
まだA子さんとその友達との付き合いは続いているのかもしれないが、続報は今のところない。

出典

このお話は、猟奇ユニットFEAR飯の方々が著作権フリーの禍々しい話を語るツイキャス「禍話」の、以下の回での話をリライトしたものです。

禍話R 第一夜(2018/10/12放送)
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/499591643
0:46:50ごろ〜

こちらのWikiも利用させていただいています。
いつも更新ありがとうございます。
禍話 簡易まとめWiki 
https://wikiwiki.jp/magabanasi/

余談
このお話は出典の通り、2年以上前に語られたものです。
続報はないと書きましたが、どこかにありましたらぜひ知りたいな、と思います(後の禍話の中で話されているかもしれないですが、アーカイブが多すぎて見つけられていません…)


【追記・補足】(内容とは関係ありません)
このリライトの著作権者は私ですが、FEAR飯の方の好意で自由に書いているものですので、以下を満たしていれば、私への個別連絡は無しで使っていただいてかまわないです。

朗読等でご利用の際は適切な引用となるよう、
・対象の禍話ツイキャスの配信回のタイトル
・そのツイキャスのwebリンク
・このnote記事のwebリンク
以上の3点をテキストでご記載ください。
また商用利用の際は、FEAR飯の方に許可を得て、そのことを明記してください。

※他の方が作成されたリライトについては別途確認してください。
悪質な利用については都度判断します。

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