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禍話リライト「手なら入る」


今はもう取り壊されたらしい、廃神社か廃寺かのお話。


そこの山門、つまり入口は、一目で異常とわかる状態だったそうだ。
上・中・下の3カ所が、漢数字の「三」のように、黄色い紐でぐるぐる巻きにされていた。

いつ頃からそうなったのか、そもそもなぜそんな風になっているのか、などはわからなかった。
ともかく、普通の人は山門を見た瞬間に引き返すだろう。
そこで止まらなかった奴らがいた。



彼ら三人組はある日の夕方、肝試しとしてそこを訪れた。
山門の前で車を降り、紐を眺める。
彼らにはそのぐるぐる巻きの紐を解いてまで侵入する気はなかった。そんなことをしたら、行政や関係者に怒られてしまう。
しかし、そこで諦める性格でもなかった。
しょうがないから帰ろう、ではなく、建物の周囲をぐるっと回ってみたそうだ。

その甲斐はあり、建物裏手の塀に少しだけ崩れているところを見つけた。
目線より少し上のあたりに、片手ぐらいなら入りそうな隙間があいていた。

3人のうちの1人、一番無謀で馬鹿な奴が携帯電話を取り出した。塀の隙間から中の様子を撮ろうとしているらしい。

ダメだって、と残りの2人が制止する。

というのも、そこには注意書きが貼ってあった。
公的なものではなく、近隣住民が作ったようで、カタカナ混じりで「覗イタリスルナ」とある。
山門の方に巻かれていたような紐こそなかったが、この警告だけで充分気味が悪い。

「やばいってことでしょ」と声をかけるが、馬鹿なそいつは「手なら入るから」と忠告を聞かずに携帯を突っ込んだ。

カシャ、とシャッター音が響く。
撮ってしまった。

心配する2人をよそに、彼は画像を手元で確認したが、案外普通だったらしい。
「荒れた境内だな」なんてコメントすると、また手を突っ込み撮影を再開した。

そのうち、いちいち手を戻さず、何枚も写真を
撮り出した。
少しずつ角度を変えたりしながら、首を捻ったりしている。
画面を見ずに撮影を続けており、撮れ高とか、何が写るとかはもはや関係なくなっているようだ。

残りの2人は早く終わってほしいと願っていた。
だんだん日も暮れてきている。
彼を急かすが、「もう少しだから」と言いながら撮影を続けている。まだ満足しそうにない。
撮影結果を確認しているわけでもないので、このままだと終わるタイミングがわからない。

「何がもう少しなんだよ」と少し苛立って聞く。



「もう少しではなしてくれそうだから」


その答えを聞いて、2人は即ダッシュで逃げ出してしまったそうだ。
塀の向こう側で彼の手が何かに引っかかったり、最悪誰かに掴まれていたとしても、こちら側で2人がかりで引っ張ってやれば良さそうなものだが、とにかく逃げたかったらしい。

そのままぐるっと回り込んで山門まで戻り、車に乗って彼を待った。
他に道はなく、そこで待っていればすぐあいつが帰ってくるはず、と2人とも思っていた。

彼は全然来なかった。

しかたなく、恐る恐るさっきの場所へ戻ってみたところ、彼の姿は見えなかった。
まずいことになっている。
そのあたりの壁は、大人が頑張って乗り越えようとすればギリギリなんとかなりそうな高さだったのだが…頑張った跡があった。
彼はぬかるんだ地面を踏んでいたようで、その泥が靴底の形で、壁を越えていくのを示していた。

中に入ってしまっている。


これはだめだ、と近くの交番へ助けを求めた。
警官に「お兄ちゃん達どうしたの、まさか肝試しとかに来てないだろうね?」とずばりその通りのことを言われてしまった。
とにかく謝り、友達が敷地の中に入ってしまったらしいことを伝えた。
よく中に入る奴がいるんだよな、と相手がこぼしながら脚立を準備しだした。
そういう時のために脚立の用意があるらしい。


警官2人組を連れて現場まで戻り、脚立を展開してもらう。先に登った警官が、あ、と声を上げた。
もう1人、上司の方に話しかける。
「やっぱり大体同じ場所にいますね」

やれやれ、とそのまま警官達は脚立を登って彼を連れ戻しに向かった。
後方にいた1人が、直前の言葉が気になりはしごを登ってそっと中の様子をうかがう。
馬鹿な奴とはいえ、友達が心配だった。

壁の向こう側には、参道のように大きな石が点々と置かれているのが見えた。
その石の一つの上に友達が寝ていた。
すっかりいびきをかいている。

警官が彼をビンタして目を覚まさせた。
そうやって起こされるまでそいつはきっちり気をつけの姿勢で仰向けに寝ており、見ていてゾッとする光景だった。

そいつは無事に意識を取り戻すことができた。
全員揃って交番に戻ったあと、みっちり1時間ほど説教を受けたが、不法侵入で処罰されたりはせずそのまま解放してもらえた。


帰り道、車の中。
馬鹿な彼はあまり懲りていなかった。本人は途中から記憶がないらしい。
車の後部座席で、「写真撮れてるかなあ」と携帯をごそごそ引っ張り出している。
運転手や助手席の友達は「そんなの見なくていいよ」と呆れるが、まるで気にしていない。
「うーん、全然わかんない」と画面とにらめっこしている。

「適当に撮ってたんだからそりゃそうだろうよ」なんて返事をしたが、そうじゃない、ちがう、と彼は不審がっている。
そのうち、前の2人にも見てほしいと言い始めた。
話の雲行きが怪しくなってきた。

1人は「俺は運転中だから見ないよ」ともっともな理由で断り、助手席の奴がそれを見せられる羽目になった。


そいつが見せてきたものは、何枚かの画像の他、動画も1本あった。

先に画像を見せられたのだが、撮影していたはずのそいつ自身が映っていた。
彼が境内を歩き回っている様子が撮られている。
自撮り、ではなかった。

まるで携帯電話に不慣れな人が撮ったような感じで、画面の上部に指が少し映り込んでいる。

…これは誰の指だろうか。

続けて動画を再生する。映像自体は10秒もない。
こちらも、歩き回っている彼を少し離れたところから撮ったものになっていた。

その映像が小刻みに揺れている…撮影している誰かが笑っている。
ふふっ、と笑い声が聞こえたあたりで、彼が再生をブツリと止めた。

ダメだ、と運転手に車を止めてもらい、そのまま車内から歩道に携帯をバーンと叩きつけた。


「今よくないことを思い出しそうになった、
よくないよくない、ごめん、さあ行こう」

とはいえ、携帯を路上に放置する訳にもいかず、ぐしゃぐしゃになったそれを拾い帰ったそうだ。

馬鹿なそいつは、なんとかそれ以上思い出さずに済んだらしい。
その建物の取り壊しが完全に終わっているのかははっきりしないが、少なくとも今は、山門に紐がぐるぐる巻きの異常な光景はなくなったという。


出典

このお話は、猟奇ユニットFEAR飯の方々が著作権フリーの禍々しい話を語るツイキャス「禍話」の、以下の回での話をリライトしたものです。

THE 禍話 第10夜(2019/09/25放送)
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/569106153
0:18:20ごろ〜


こちらのWikiも利用させていただいています。
いつも更新ありがとうございます。
禍話 簡易まとめWiki 
https://wikiwiki.jp/magabanasi/

【追記・補足】(内容とは関係ありません)
このリライトの著作権者は私ですが、FEAR飯の方の好意で自由に書いているものですので、以下を満たしていれば、私への個別連絡は無しで使っていただいてかまわないです。

朗読等でご利用の際は適切な引用となるよう、
・対象の禍話ツイキャスの配信回のタイトル
・そのツイキャスのwebリンク
・このnote記事のwebリンク
以上の3点をテキストでご記載ください。
また商用利用の際は、FEAR飯の方に許可を得て、そのことを明記してください。

※他の方が作成されたリライトについては別途確認してください。
悪質な利用については都度判断します。

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