禍話リライト「離すなこっくりさん/こっくり井さん/こっくり貯金箱」
こっくりさんの体験談を集めている方から教えてもらった、3つのお話。
「離すなこっくりさん」
平成になってからの話だという。
当時もうこっくりさんは「昔流行ったもの」扱いだったが、テレビやアニメなどの話題に上ることもあり、それをみた子供達が試すようなことが時々あった。
また、こっくりさんの派生パターンも色々増えていたそうだ。名前をちょっと変えただけのもの、紙などを使わず鉛筆一本で出来るもの、、
とにかく様々だったようだが、今回の話の体験者である少年にとっては、あまり興味の湧くものではなかった。
しかしある時。
その数日前から、生活指導の教師がこっくりさんのことを警戒していた。
どうやら、体育館裏だとか、普段使わない建物の隅とか、いじめの現場になりそうな場所でそれが行われているらしい。
その教師が現場を押さえて注意しようと見回っている話が伝わってきた。
うちのクラスは誰もやってないのにね、などと彼が友人達と放課後おしゃべりをしていると、いつのまにかすっかり日が落ちていた。
グラウンドの野球部のライトも消え、他の生徒はほとんど帰ってしまったようである。
彼らが校舎を出て、校庭を歩いて出口に向かっていると、グラウンドの隅にある物置小屋のあたりから、誰かが騒いでいる声が聞こえた。
「ダメダメ、ダメだよ!」
「指離しちゃダメだよ、はいのところに行かないと!」
これはあれだよ、知ってるぞ、と友人一同で顔を見合わせる。こっくりさんだ。
本当にそんなことをやる奴がいることに不思議な気持ちになる。そしてどうやら、何か異常事態が起きているらしい。
おそらく何人かでやっていて、そのうち1人の女の子が騒いでいるような雰囲気だった。
一通り楽しんだ後、終わらせようとしても終わりにできない状況なのだろう。
全員でそっちに近づくと、彼女の声は物置小屋の裏側から聞こえていた。
「まだ指を離しちゃだめだ」のような言葉を繰り返している。
何人ぐらいがそのこっくりさんに参加しているのかわからず不安はあった。とはいえ、こっちは男ばかり5、6人だし、最悪取り押さえたりもできるだろうと彼らは考えた。
切羽詰まった状況の彼女達を助けてあげようと、建物の裏側を覗き込む。
そこにいたのは1人だけだった。
その女の子は誰もいない空間に向かって、
「指を離しちゃ駄目だよ!」を繰り返していた。
彼女は紙すら持っていなかった。
その女子は全然関わりのない子だったそうだ。
こちらの声に反応してくれなかったので、その場を離れて職員室に残っていた教師に報告した。
あとのことはわからない。
しかし、次の全校集会で、こっくりさんは禁止にすると先生方から案内があったそうだ。
「こっくり井さん」
続いては昭和の出来事で、いつの時代にも馬鹿な人はいる、というお話。
こっくりさんの第一次ブームの頃。
最盛期には、放課後になると体験者の学校でも、あちこちでこっくりさんが行われていた。
見つかるとよろしくないことではある。それでもつい、友達何人かで集まっては始めてしまう。
今回の話の彼は、先ほどの彼とは違い、友人たちと何度もこっくりさんに興じていた。
周囲の様子を見ていると、他のグループの所にはこっくりさんは何回か来てくれたのだが ⎯⎯
すなわち、誰の意思でもなく勝手に十円玉が動くことがあったのだが ⎯⎯
同じようにやっても全然来ない。
そのうち、うまくいかないこっくりさんの後に、彼らは寒気がしたりするようになった。
なんだかぞくぞくする…誰かに見られている気配がする。
保健室や病院に行っても特に病気とは言われず、
なんとなく体調が悪い日が続いた。
それでも彼らはこっくりさんを諦めなかった。
ある日の放課後、今日こそ来てくれと思いながらこっくりさんを始めた。
その日も十円玉が動き出す気配はなく、試行錯誤をしていると「あ!」と声が上がった。
そちらを見ると、校舎の遠くから上級生の女子2、3人が駆けてくる。彼女達は全員、まさに風紀委員といった様子の生徒達だった。
校則の守り過ぎか、スカートが不自然に長い。
そういえばここ数日、あの先輩達が校舎を見回りしているな、と思い当たった。
彼女達は「お前らだ!」と叫んでこちらに来た。
こっくりさんを咎められるのかと思ったが、少し
違った。
こちらを見て、あんたらか、と納得している。
「来ないわけだよ!それ!」
と、彼らが使っていた紙を指す。
こういう人達でもこっくりさんのことは知ってるんだな、と思いながら指されたあたりを見る。
そこで気がついた。
紙の中央上部、鳥居の記号を書いていたつもりの場所。
そこに書かれていたのは鳥居ではなく、縦の線が上に突き抜けた、「井」の字だった。
「そのせいで、周りにいっぱいいるけど来れないんだろうが!」と彼女達に叱られた。
半信半疑で新しく別の紙に書いて試したところ、それはもう、どんどん来たそうだ。
十円玉がめちゃくちゃに動く。
その日だけで3回ほど勝手に動き出すタイミングがあり、それぞれめちゃくちゃながら違う動き方をしており、毎回別人が来ていたのだろうと彼らは感じた。
彼女達になぜわかったのか聞いても答えてくれず「お前らみたいな奴がこっくりさんをするんじゃない」とますます怒られた。
字を直したら突然来るようになったことで無性に怖くなり、こっくりさんはやめたそうだ。
「こっくり貯金箱」
最後はこっくりさんの後、何年も経ってから変なことが起きた話になる。
この話の体験者である当時大学生だった青年には、ちょっと変わった先輩がいた。
悪意があったり、天然を装っているようには見えないのだが、どうにも会話のピントがずれることがある。
他にも好きな女優の話なんかを聞いても、そこがいいの?というポイントを挙げたりする。
別に悪い人ではないので、そこそこの付き合いを続けていた。
ある時、同級生の友達とその先輩と3人で集まって遊びに行こうと、喫茶店に集合した。
が、同級生の友達から1時間ほど遅刻すると連絡が来た。そいつにハプニングがあった訳でもなく、大学生だから許されるルーズさであった。
2人でお茶をしていると、先輩から相談ごとがあると話を振られた。
半分冗談で「金なら無いですよ」と返事をした。
金はあるんだよ、と先輩は本題に入っていく。
だったらこういう場面ではワリカンにせず奢ってくれよ、と思いつつ、その話を聞いた。
先輩が子供の頃。
おそらく昭和の終わりか平成初期の頃だが、学校でこっくりさんが流行っていたという。
その儀式に使った十円玉はちゃんと処理をする…神社のお賽銭に使うルールになっていた。
だが、ちょうどいい神社が学校の近くにない。
そんな中、その先輩は神社へ行って十円玉を処理する役目を買って出た。
そして、実際神社には行かなかった。
その頃彼は貯金箱をもらったので、それに十円玉を貯金しようと考えたのだった。
…やっぱりこの先輩は変わってる、と聞いていた彼は思った。
彼が十円玉を処理していることが次第に広まり、最後の方は他のクラスのメンバーからも頼まれるようになっていたという。
周りには「神社に持ってくよ」と言い、貯金箱に入れるのを繰り返していた。
最終的には長期休暇の後、こっくりさんのブームは自然消滅したそうだ。その後彼自身も貯金箱のことを忘れていた。
彼の家で、兄弟の部屋を入れ替えるタイミングとかぶり、どこかにしまい込んでしまったらしい。
そして最近。
実家に帰ったときに身の回りの物を片付ける機会があり、普段使っていない物置を開けた。
開けてみると、物置の中が異様に獣くさい。
野良猫や野良犬でも入り込んだのかと思ったが、そのような痕跡はなかった。
匂いの元を探していると、物置の奥に例の貯金箱があった。そこからしているらしい。
その貯金箱はずっしり重く、本当に十円玉だけでこんなになるのか不思議なほどだった。
また、その貯金箱は動物を模したものだった…
アーティスティックな、今風に言えばキモカワな四つ足の生き物の形なのだが、なんだかキツネのように変化している気がする。
顔が伸びてキツネ顔になっている。
ただ、そう感じているのは彼だけのようで、家族にそれを見せても「特に変わっていないけど?」と言われるのだそうだ。
「お前も見てくれないか?」
先輩が頼んできた。
携帯で写真を撮ってきたそうだ。
ここまでの話を聞き、喫茶店の強すぎる冷房だけではない寒気を感じていた彼は、その写真は絶対見たくなかった。
ちょうどいいタイミングで、お冷やがなくなっていた。
先輩の分も水を汲みに行き、ついでにトイレにも寄って身だしなみを整える。
稼げた時間は3分ほどだったが、トイレから出ると喫茶店のドアのベルの音がした。
他に客はおらず、先輩がいなくなっていた。
お連れさん出ていかれましたよ、とウェイトレスが声をかけてくる。しかもワリカンであった。
急に電話でもきたのかな、と写真を見なくて済むことにほっとしながら先輩を待っていたが、結局彼は戻ってこないまま、大遅刻の同級生が着いてしまった。
遅れてきたそいつに聞いてみると、先輩は外にもいなかったそうだ。その彼が気づく。
「あれ?先輩、携帯忘れてんじゃん」
テーブルの反対側からは見えなかったが、ソファに携帯が置かれていた。
今来た青年が、開かれていた携帯の画面を見て、
「なんだこれ…なんだこれ?!」と怪しむ。
そのままこちらに画面を見せてこようとするのを止めようとして、一瞬変な空気になった。
仕方なく、先程聞いた話をしてやる。
そいつも怖がったのだが、「でもこれ貯金箱じゃないぜ」と結局写真を見せられた。
その写真は、物置の中を撮ったものだった。
そこに貯金箱があるかのような構図だが、貯金箱は写っていない。
意味不明なことに、そこには人が映っていた。
話に出てきた、部屋を取り替えたという先輩の兄か姉のように思えた。髪が長く、男性とも女性ともいいにくい、中性的な顔立ちだった。
その人が壁に背中を預けて座りこみ、カメラの方へ笑っているようなのだが、それが無理矢理で、
はいはい笑えばいいんでしょ、とでもいうような笑顔だった。
慌てて消させて一つ上のフォルダに戻ってみたが、そのフォルダ名は「貯金箱」となっていた。
その先輩とは、結局その後会っていないという。
家族から大学を辞めると連絡があったそうだ。
出典
このお話は、猟奇ユニットFEAR飯の方々が著作権フリーの禍々しい話を語るツイキャス「禍話」の、以下の回での話をリライトしたものです。
THE 禍話 第13夜(2019/10/16放送)
(https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/572806382)
0:04:10ごろ〜
こちらのWikiも利用させていただいています。
いつも更新ありがとうございます。
禍話 簡易まとめWiki
(https://wikiwiki.jp/magabanasi/)
【追記・補足】(内容とは関係ありません)
このリライトの著作権者は私ですが、FEAR飯の方の好意で自由に書いているものですので、以下を満たしていれば、私への個別連絡は無しで使っていただいてかまわないです。
朗読等でご利用の際は適切な引用となるよう、
・対象の禍話ツイキャスの配信回のタイトル
・そのツイキャスのwebリンク
・このnote記事のwebリンク
以上の3点をテキストでご記載ください。
また商用利用の際は、FEAR飯の方に許可を得て、そのことを明記してください。
※他の方が作成されたリライトについては別途確認してください。
悪質な利用については都度判断します。
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