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わたしと飲むヨーグルト


14歳、わたしの身長は153センチだった。

高くも、低くもなかった。
ただ、わたしは160センチくらいのすらっとした背丈になりたかった。憧れていた。どんな服も着こなせるような女性に。


幼稚園のころは、背の順で並んだら後ろから3番目だった。
でも、小学3年生のころは、前から3番目になった。まえからまんなからへんの背の順が、わたしの定位置だった。


あれは中学生になりたてくらいのとき。
わたしはクラシックバレエのレッスンに打ち込んでいた。
バレリーナといえばスラッとしたスタイル。わたしはどうしても身長がほしかった。
とあるバラエティ番組で、『運動後30分以内に飲むヨーグルトを飲むと、風邪をひきにくい強い身体になる』という情報を得た。
それをみた母が、体調を崩しやすいわたしに、週4回のレッスンの送迎で毎回毎回、飲むヨーグルトを買ってくるようになった。

「おつかれさま」と渡してくれる飲むヨーグルトは、いつも違うフルーツの味で楽しみだった。
ときどき高級な飲むヨーグルトがくると、ガッツポーズをした。



そして14歳のとき、転機。わたしはクラシックバレエから別のジャンルのダンスを始めた。
基礎から始めるレッスン、激しいダンス、枠を勝ち取るための自主練。
急に始めた今までと全く違う筋肉を使うダンスは、私の身体に負担をかけていった。

膝が痛い気持ちを抑えながら家に帰る。
すると、冷蔵庫には飲むヨーグルトがあった。
レッスンから帰ると、飲むヨーグルトを切らさないように、こまめに母が買ってきてくれていた。
わたしはその飲むヨーグルトを、ガブガブ飲んだ。
1日で1リットルの紙パックを飲みきる日もあった。
飲むヨーグルトは、わたしのお守りになった。


2ヶ月ほどのレッスンの末に、今後を左右する審査を受けなくてはならない時期になった。審査する側には正直に怪我をしたことを言っていたから、もうこの審査で落とされても仕方がないと思った。つけていた膝のサポーターには、『全員合格』と書いて審査に挑んだ。


審査を終える。
わたしも含め、全員が合格することができた。
ただ、ここからがようやくスタート。厳しいレッスンは続く。そんなときも飲むヨーグルトは欠かさなかった。


踊った後には、飲むヨーグルト。
これがわたしのルーティーンになった頃。
もう伸びないと思っていた身長が、高校の3年間で10センチも伸びた。


21歳、今。
身長は163センチ。理想的な背丈の自分になれた。
14のときには着こなせなかった長い丈のスカートを、さらりと履けるくらいに。


あのとき何気なくみたテレビが、いつも何気なく冷蔵庫にあった飲むヨーグルトが、今のわたしを形成している。理想の女性になるための魔法だったのかもしれない。



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