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人生革命セミナーの闇 7章: セミナー勧誘のビジネス2

友人関係の悪化

勧誘方法を学んだ翌日、田中一郎は複雑な心境で会社に向かった。大西の言葉が頭の中で繰り返される。

「まずは身近な人から始めてみてください」

オフィスに着くと、同僚の山田が声をかけてきた。

「おはよう、田中さん。元気ないみたいだけど、大丈夫?」

田中は一瞬躊躇したが、これはチャンスかもしれないと思い、勇気を出して話し始めた。

「実は山田さん、最近将来のことで悩んでいないですか?」

山田は少し驚いた様子で答えた。「え?まあ、普通にあるかな...」

田中は学んだ通りに話を進めた。「このまま何も変えなければ、5年後、10年後はもっと厳しい状況になっているかもしれませんよ」

山田の表情が曇った。「田中さん、どうしたの急に...」

「でも大丈夫です!」田中は少し大げさに言った。「私が参加しているセミナーで、人生を変える方法を学べるんです」

山田は困惑した表情で答えた。「ああ...ごめん、ちょっと仕事が...」

そう言って、山田は急いで席を立った。

昼休み、田中は勇気を出して、かつての親友だった健太に電話をかけた。

「もしもし、健太?久しぶり」

「おお、一郎か。どうした?」

田中は深呼吸をして切り出した。「健太、最近どう?人生順調?」

健太は少し警戒した様子で答えた。「まあ、普通だな...なんかあったのか?」

田中は学んだ通りに話を進めた。「実は、君の将来が心配でね。このまま何も変えなければ...」

健太は田中の言葉を遮った。「おい、一郎。またあのセミナーの話か?」

「いや、違うんだ。君のためを思って...」

健太の声がきつくなった。「いい加減にしろよ。前から変だと思ってたけど、本当におかしくなっちまったな」

「健太、聞いてくれ...」

しかし、健太は電話を切ってしまった。

その日の夕方、田中は重い足取りで帰宅した。スマートフォンを見ると、健太からメッセージが来ていた。

「一郎、正直言って心配だ。昔の一郎に戻ってくれよ」

田中は胸が痛んだ。

週末、田中は思い切って両親に電話をかけた。

「もしもし、お母さん?」

「あら、一郎。珍しいわね」

田中は慎重に言葉を選んだ。「お母さん、最近、人生に満足してる?」

母親は少し戸惑った様子で答えた。「えっ?まあ、普通よ。どうしたの急に」

田中は勇気を出して話を続けた。「実は、素晴らしいセミナーを見つけたんだ。人生を変える方法が...」

母親の声がピリッとした。「一郎、あなた大丈夫なの?最近、周りから心配の声が聞こえてくるのよ」

田中は焦った。「違うんだ、お母さん。これは本当にいいものなんだ。参加費は少し高いけど...」

「参加費?一郎、お金に困ってるの?」

「違うんだ、これは投資なんだ。将来のために...」

母親の声が厳しくなった。「一郎、もうやめなさい。そんな怪しいものに騙されちゃダメよ」

電話を切った後、田中は深いため息をついた。

その夜、田中は再びセミナーのLINEグループを開いた。そこには、成功報告が溢れていた。

「今日も3人の友人を勧誘できました!」
「家族全員がセミナーに参加することになりました!」

田中は複雑な気持ちになった。「みんな、本当にうまくいってるのか...」

ふと、昔の写真アルバムが目に入った。学生時代の仲間たちとの笑顔の写真。健太との思い出。家族との楽しい時間。

田中は写真を見ながら、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

「俺は...何をしているんだ...」

その夜、田中は久しぶりに自分自身と向き合った。セミナーで学んだこと、友人や家族との関係、そして今の自分。

答えは出なかったが、何かが少しずつ変わり始めていることを、田中は感じ始めていた。


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